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第2部 第2章 第3話【 大渦の制覇 】

漆黒の波が狂ったように渦巻く

「黒い海峡」の最奥。


そこに鎮座していたのは、

沈没船の残骸と巨大な岩礁を

繋ぎ合わせて作られた、

海賊団の巨大な海上要塞――

『大渦の城塞』だった。


「ギャハハハ! 喰らい尽くせ!

 アリストのドブネズミどもを

 サメの餌にしてやれ!」


要塞の櫓(やぐら)から、

海賊提督ガルザスのダミ声が轟く。


要塞の壁面に据え付けられた

無数の旧式魔導砲が一斉に火を噴き、

海面を叩き割った。


水柱が爆(は)ぜ、激しいショックが

突撃船『アリスト丸』の船体を

激しく揺らす。


「殿下!

 敵の防衛火力が尋常ではありません!

 このままでは

 近づく前に船体を破砕(はさい)されますぞ!」


操舵身を必死に支えながら、

ラグナルが叫んだ。


だが、船首に立つリンの瞳に

怯えの色は微塵もなかった。


笠のつばから滴る潮水を払い、

不敵に冷たくあざ笑う。


「ただの鉄くずを集めた威圧か。……

 ガルド!

 例の『新兵器』の準備はどうだ!?」


船団の後方、

カイゲンの元・私設私有船から、

通信用の魔導具を伝って

ガルド提督の野太い大爆笑が響いた。


『ハッ! 準備万端だぜ落ちこぼれ王子!

 本国の元老院どもが

 “凶暴すぎる”って理由で封印してた

『対構造物用・重魔素徹甲弾』だ!

 アリストの工廠(こうしょう)で

 さらに火薬を三倍に増量してやったぞ!』


「放て」


リンの一声と同時に、

アリスト丸の甲板中央に据え付けられた

巨大な投射機が

地鳴りのような重低音を響かせた。


放たれたのは、

アリストの地下で

民の手によって叩き上げられた、

黒光りする巨大な

「魔素鋼の超重量弾」だった。


―――ズドドドドドォォォンッ!!!!


落雷のような衝撃波が大海原を揺らした。


超重量弾は要塞の防壁を容易く貫通し、

内部の火薬庫へ着弾。


直後、大渦の城塞そのものが内側から

爆発を起こし、天を突くほどの巨大な

火柱を吹き上げた。


「な……なにぃぃぃっ!?

 俺の城塞が……俺の要塞がぁぁっ!?」


崩れ去る櫓から転がり落ち、

血まみれになりながら叫ぶガルザス。


その炎と黒煙を切り裂いて

突入してきたのは、

赤手形の黒旗を高く掲げた

アリスト丸だった。


船首が要塞の残骸へ豪快に激突し、

船体が固定される。


「全員、殴り込め!!」


リンの長剣が閃くと同時に、

ラグナルを先頭としたアリストの男たちが、

怒号とともに

崩壊する要塞へとなだれ込んだ。


「ひ、ひぃぃっ! 助けてくれ!」


「こいつら、人間じゃねぇ!」


城塞を守っていた海賊たちは、

命乞いをしながら散り散りに逃げ惑った。


腹を満たし、

己の手で未来を掴み取った

アリストの民の圧倒的な気迫と

暴力の前に、

暴力で他者を威圧してきただけの海賊など、

ただの逃げ惑うウサギに過ぎなかった。


混乱の中心、

逃げ場を失った海賊提督ガルザスの前に、

リンが静かに歩み寄った。


「ヒ……ヒィッ! リ、リン王子!

 た、助けてくれ!

 俺はカイゲンの元老院に命じられて――」


「命じられたからやった、か」


リンは冷ややかに男を見下ろし、

長剣の刃先をガルザスの喉元へ突きつけた。


「理由などどうでもいい。

 お前は俺たちの民が

 汗水垂らして稼いだパンを、

 その汚い手で奪おうとした。……

 それが、お前の最大の罪だ」


「た、頼む! 金ならやる!

 宝物庫の金銀財宝を全部――」


「要らん」


リンの刃が、冷酷に一閃した。


「お前の財宝など、

 我が国の民がこれから稼ぎ出す富の

 百半分にも満たない。……

 海賊ガルザス、

 海の不法者に相応(ふさわ)しい死を与える」


崩れ去る大渦の城塞。


海賊の頭目が倒れた瞬間、

長年「黒い海峡」を支配し、

交易船を脅かしてきた

最大の海の脅威は完全に消滅した。


数日後。


ラグナ大国際港。


海峡を制覇し、

大量の拿捕船と物資を従えて帰港した

アリスト丸を迎えたのは、

港を埋め尽くす何万人もの民衆の

割れんばかりの大歓声だった。


「帰ってきたぞ! リン殿下だ!」


「海賊どもを叩き潰したんだ!」


「これで海の通り道も安全だ!

 もっともっと商いができるぞ!」


民衆が

手にした白いパンや金貨を高々と掲げ、

地鳴りのような歓声が

アリストの空を突き破る。


港の演壇に登ったリンは、

つばの広い笠を脱ぎ、

押し寄せる民衆を見渡した。


「アリストの民よ!

 そしてセルヴァの民よ!」


リンの声が、海風に乗って響き渡る。


「『黒い海峡』を支配していた

 毒虫どもは、

 すべて我が国の泥の兵団によって

 海へと沈められた!

 本日より、あの海峡は我が国の

『セルヴァ黄金航路』として

 完全に開放される!」


「ウオオオオオオオオオオオッ!!!!」


狂乱の叫びが爆発する。


「他国の脅迫も、海賊の暴力も、

 俺たちの『生きようとするチカラ』を

 止めることはできない!

 働け! 稼げ! 食え!

 俺たちの新しい時代は、

 この広い海の彼方まで

 どこまでも広がっていくぞ!!」


赤手形の黒旗が、

青い海と空に向かって力強くはためく。


かつて綺麗な美徳に殺されかけ、

泥の中から這い上がった

落ちこぼれ王子と、泥臭き民たち。


彼らが紡ぐ成り上がりの物語は、

陸を制し、海を制し、

大陸全土を巻き込む巨大な怒濤となって、

世界の歴史を塗り替えていくのだった。


(第二部・第二章 完)

読んでくださってます方々に篤くお礼申し上げます。

ありがとうございます。

ブックマーク登録、ありがとうございます。

評価ポイント、ありがとうございます。

リアクション頂きまして、ありがとうございます。


第3部を構想中です。

10/24 18:40 に

第3部 第1話を投稿する予定です。

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