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第2部 第2章 第2話【 血を洗う黒い海 】(上)

「海の掟が『暴力と掠奪』なら、

俺たちはそれ以上の

『圧倒的な凶悪さ』で

奴らを返り討ちにする。……

カイゲンの海賊どもに教えてやろう。

泥を啜って生き残った俺たちの

生命力が、どれほど苛烈なものかをな」


陸の旧体制を叩き潰し、

巨大国家の圧力を退けた

落ちこぼれ王子リン。


物語はついに、

ルール無用の海賊どもが渦巻く

「漆黒の大海原」へと攻め込んでいく――。

「左舷より敵船接触!

 奴ら、本気で接舷攻撃(乗り込み)を

 仕掛けてきますぞ!」


荒れ狂う「黒い海峡」の渦の中、

ラグナルの叫びが雷鳴を切り裂いた。


赤手形の黒旗を掲げた漆黒の新型突撃船

『アリスト丸』の左右から、

黒塗りの巨大な海賊船二隻が、

凶悪な鉤縄(かぎなわ)を幾本も打ち込んできた。


ギチギチと嫌な音を立てて

強固な魔素鋼の船体が引き寄せられ、

甲板同士が激しく衝突する。


「ギャハハハハ!

 陸のドブネズミどもが

 気取って海へ出てきやがったぞ!」


「ガキの王子を引っ立てろ!

 本国の元老院閣下から、

 山分けにしきれねぇほどの

 金貨がもらえるぞ!」


鉤縄を伝い、あるいは

甲板へ跳び移ってきたのは、

全身に刺青(いれずみ)を彫り、

血と潮の匂いを撒き散らす

「黒漆海賊団」の荒くれ者たちだった。


手には研ぎ澄まされた曲刀と、

カイゲン製の短砲身魔導銃。


普通の商船ならば、

この怒号と殺気だけで

降伏を選ぶ悪夢のような光景。


だが、

甲板に立ち塞がった

アリストの男たちの目に、

恐怖の色は一切なかった。


「……ハッ、元老院の金貨だと?」


先頭に立つラグナルが、

大剣をぬき放ちながら嘲笑した。


「甘いな、海のならず者ども!

 我らが求めているのは、

 今日を生き延びるための肉とパン、

 そして明日を掴(つか)み取る銭だ!

 綺麗な服を着た貴族の銭で動く

 お前たちとは、

 腹の括(くく)り方が違うのだよ!」


「踏み潰(つぶ)せえええっ!!」


元闇市の用心棒、破産した元農民、

泥にまみれて

工廠(こうしょう)で鉄を叩き上げてきた

アリストの労働者たちが、

一斉に叫びを上げた。


手にしているのは、

洗練された軍用の剣ではない。


重い採掘用のハンマー、

肉厚な作業用ナタ、そして

地下工廠で鋳造された

無骨な魔素鋼の長槍だ。


「な、なんだこいつらは……!?

 怯(おび)えもしねぇのか!?」


襲いかかった海賊たちが、

一瞬の困惑に包まれる。


次の瞬間、

地鳴りのような咆哮とともに、

泥の泥臭い暴力が

海賊たちへ雪崩れ込んだ。


ラグナルの大剣がひと閃きし、

跳びかかった海賊二人を

胴体ごと吹き飛ばす。


作業用ハンマーを振り下ろした

元鉱夫の男が、

海賊の魔導銃を銃身ごと叩き潰し、

そのまま海の底へ叩き落とした。


「生きるための仕事だ!

 一人も生かして返すな!」


「俺たちの港を荒らす奴らは、

 全員サメの餌だ!!」


正義のためでも、名誉のためでもない。


「自分たちの食い扶持と未来を守る」

という野生的な執念。


泥を啜って生き残ってきた

アリストの男たちの

生々しいエネルギーは、

殺戮(さつりく)に慣れ切っていた海賊たちを数で、

気迫で、圧倒的な暴力で押し潰していった。


甲板が赤い血と泥水で染まっていく中、

船首の船橋(ブリッジ)からその惨劇を

静かに見下ろす影があった。


つばの広い旅人笠を深くかぶり直し、

長剣の柄に手を置いた第二王子リンである。


「……見事なものだな、ラグナル」


リンは呟き、

甲板の混乱を切り裂くように

一歩を踏み出した。


「お前たちが振りかざす『暴力』は、

本国(カイゲン)の

綺麗な机の上で計算された偽物だ。

 ……己の命と胃袋をかけて戦う

人間の泥臭さを、知らぬわけではあるまい?」


「く、くそっ……! リン王子……!

 ガルザス提督がお前を殺せと――」


血まみれになりながら迫ってきた

海賊の頭目が、

魔導銃の銃口をリンへ向けようとした。


ドスッ、と重い音が響く。


リンは銃口が向くよりも速く踏み込み、

短剣の柄頭で

男の喉頭を正確に打ち砕いた。


ゴハッ、と吐血して崩れ落ちる頭目。


リンは軽蔑の眼差しでその頭を踏みつけ、

海峡の暗雲を見上げた。


「ガルザスに伝えろ」


リンの声は、

激しい嵐の音すら切り裂いて

海賊たちの耳に届いた。


「『黒い海峡の覇者』気取りの

 海賊ごときが、

 俺たちの腹を満たす邪魔をするな、

 とな。……

 逃げたい奴は海へ飛び込め。

 船に残る奴は、

 一人残らずこの海の藻屑にしてやる」


「ひ、ひぃぃぃっ……!

 怪物だ! この王族は怪物だぁっ!」


圧倒的な敗北感を叩きつけられた

海賊残党は、

死体を取り残したまま、

次々と荒れ狂う黒い海へ

飛び込んで逃げ出していった。


捕獲した海賊船の甲板に、

勝ち誇ったアリストの男たちの

地鳴りのような歓声が響きわたる。


「第一陣は退けたな、殿下」


血を拭いながら歩み寄ってきた

ラグナルに、リンは静かに頷いた。


「ああ。だが、本番はこれからだ。

ガルザス本隊は、この海峡の最奥……

『大渦の城塞』で俺たちを待っている」


リンは

奪い取った海賊船の舵を

自らの手で力強く握り直した。


「全船、全速前進!

 敵の本陣へ殴り込むぞ!

 海の毒虫どもを根こそぎ叩き潰し、

 この海峡を

 俺たちの『黄金の航路』に変えてやる!」


©2026 [風風風]. All rights reserved.

10/3 18:30 に投稿します。


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