第一部 【 停滞の掟と、餓えゆく王国 】 第三章 【 炎上する聖域 】 第二話 【 掲げられた黒旗 】
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【第3章 第2話 スタート!/毎日 18:30 更新予定です】
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リンは、「軌道車にある限りの食料と資材を、アリストの中央広場へ運び出せ!」と、ガルドに命じます。
そして、「堂々と己の腕で稼ぎ、腹いっぱいにメシを食う時代を作る!」と、力強く宣言します。
それでは、最新話をお楽しみください!
地上への逃げ道を遮断された近衛兵の残党が逃げ去った後、地下洞穴には重苦しい沈黙が降り積もっていた。
倒れた仲間を抱きかかえてすすり泣く町人、血に染まった作業道具、そして暗闇に不気味な群青色の光を放ち続ける大霊樹の鉱石脈。
「……。殿下、どうなさいますか?」
ラグナルが剣を鞘に納め、血の匂いが漂う空気の中、怒りを宿した目で尋ねた。
「近衛の残党が王宮へ戻れば、ガルシア大公は即座に本隊を動かします。我らがここに踏みとどまれば、数千の王国軍に包囲され、鼠の丸焼きにされるだけですぞ」
「逃げはしない」
リンの返答は即座だった。迷いを削ぎ落としたその顔には、一筋の躊躇すらない。
リンは足元に転がっていた黒い布――倒れた近衛兵の肩から引きちぎった王国の軍旗を取り上げた。そして、腰の短剣で軍旗に刻まれた「金色の聖樹の紋章」を破り捨て、自らの血で塗れた手のひらをその布へ強く押し付けた。
黒地に、赤く浮かび上がる一筋の手形。
「ガルド! 軌道車にある限りの食料と資材を、アリストの中央広場へ運び出せ!」
「……。はぁ!? 王子、正気か!?」
ガルド提督が義眼を剥き出しにして叫んだ。
「中央広場つったら、王宮の真っ正面だぞ! 逃げるどころか敵の懐に飛び込んでどうすんだ!」
「逃げて影で商いをするフェーズは終わったと言ったはずだ」
リンは血のついた黒布を長槍の先に結びつけ、力強く地面に突き立てた。
「王宮が隠し続けてきた『現実』を、街の全員の目に焼き付ける。民が腹を空かせて死んでいく裏で、王宮が何を恐れ、何を踏みにじってきたのかをな」
リンは集まった地下の作業員たち、傷ついた町人たちに向かって振り向いた。
「皆、恐れるな! 今日までお前たちは、掟を破る『罪人』として暗闇で怯えて生きてきた! だが、生きようとすることは罪ではない! 腹を満たそうとすることは悪ではない! 悪なのは、自らの無能を隠すために『清貧』という言葉で民を殺す王宮の方だ!」
民たちが息をのんでリンを見つめる。
「俺と共に地上へ出ろ! 隠れてパンを食うのは今日で終わりだ! これからは陽の当たる場所で、堂々と己の腕で稼ぎ、腹いっぱいにメシを食う時代を作る!」
「ウオォォォォッ……!!」
一人の町人が叫びを上げると、それは瞬く間に地下洞穴全体を揺らす大歓声へと変わった。
傷ついた手でスコップを握り直す者、作業用の魔導具を担ぎ上げる者、白いパンの袋を抱えて走り出す者。彼らの目に宿っていたのは、追いつめられた者の絶望ではなく、時代をひっくり返そうとする「暴動」の熱気だった。
「ふっ。……。イカれてやがる」
ガルドは呆れたように肩をすくめると、不敵な笑みを浮かべて曲刀を叩いた。
「いいぜ落ちこぼれ王子! カイゲン商業連合、この大ギャンブルに乗ってやる! 全員、荷を上げろ! 目的地はアリスト中央広場だ!」
地下動脈を遡り、無数の松明の火が地上へと向かって動き始めた。
その頃、アリストの中央広場。
配給所に並び、今日も木の実の殻混じりの黒パンを無言で待つ民衆の前に、突如として地下の非常用昇降口が爆音と共に跳ね上がった。
土煙の中から姿を現したのは、王宮の兵ではなく――黒地に赤い手形を掲げた第二王子リンと、山のように積まれた「本物の白いパン」と「肉スープ」の樽を抱えた、泥まみれの「罪人」たちだった。
「アリストの民よ、聞け!!」
中央広場の噴水台に駆け上がったリンの声が、死んでいた街の空気を引き裂いた。
「王宮の偽りの配給は今日で終わりだ! 食いたければ、ここへ来い! 泥を啜ってでも生き延びる、俺たちの新しい時代が始まるぞ!!」
広場を埋め尽くす民衆から、大地を揺らすような悲鳴と怒号、そして地鳴りのような歓声が上がった。
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