↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
56/56

エピローグ

 駅前で告白してから約2ヶ月後――4月。


 僕は駅前の広場で芽依さんを待っていた。


 あの告白の日の午後、再度花岡事務所に集金で訪れたが、花岡さんはお昼で帰ったとのことで代わりに別の人が現れた。


 少し心配していたものの、週明けの火曜日に現れた花岡さんは何事も無かったかのように何時も通りだったので『花岡さんがそう望むなら』と、僕も何時も通りに振る舞った。


 先月僕の支店異動が決まって報告した際も、至って普通の反応だったので、きっと彼女なりに整理をつけたのだろう。


 支店を異動して担当から外れたので、恐らくもう会うことは無い。


「匠さん、お待たせしました」


 そんな事を考えていたら、目の前に芽依さんが立っていたことに気付かなかった。


 芽依さんを見ると下はパステルピンクのフレアスカートで上は黒のシャツに黒のジャケットを羽織っていた。

 

「……いえ……今来たところなので……スカート……春らしい色で可愛いですね……ジャケットも似合ってます」


「あ……ありがとうございます……」


 そう褒めると、芽依さんは少しむず痒そうにしつつも照れたように笑った。


「……あれ? 何持っているんですか?」


 芽依さんの片手には縦長のビニール袋が握られていた。


「来る途中酒屋さん覗いてみたら美味しそうな日本酒があったので買っちゃいました」


 袋の中を覗くと縦長の四角い箱が見える。言葉通りにならきっとお高めの日本酒が入っているのだろう。


「良いですね〜楽しみです。では行きましょうか」


 そう言いながら芽依さんの手からさり気なく袋を受け取ると、芽依さんは嬉しそうに『ふふっ……』と笑った。


 歩き出す僕の隣に芽依さんがすっと来たかと思ったら、僕の空いている方の手にするりと自分の手を絡ませてくる。


 まだ慣れないその感触と温度で湧き上がるのは、少しの気恥ずかしさと少しの高揚感。


 すぐ隣の芽依さんから漂う甘い匂いが鼻腔をくすぐる。


 少し上がった心拍数を感じていると、芽依さんが僕の方を見て尋ねてくる。


「祥子さん達は?」


「2人は先に行って場所取っとくそうです」


「なるほど」


 今日は前に家で飲んで以来の、久々の姉ちゃんと陽さんとの4人での集まりで、都心にある大きな公園でお花見をすることになったのだ。


「こっちこっち!」


 公園に入り事前に教えられていた方向に進むと、僕らに気付いた姉ちゃんがそう言いながら手を上げていた。


 桜の木の下に広げられた青いビニールシートの上には陽さんが運んだであろうクーラーボックスと大量のおつまみ達が置かれていた。

 2人の手には缶が握られていたのでもう始めていたのだろう。


 『失礼します』と言いながら芽依さんが靴を脱ぎビニールシートに乗ると早速姉ちゃんが近づく。


「Long Time No See! I Miss You!《久しぶり〜! 会いたかったよ〜!》」


 と言った姉ちゃんに、芽依さんも『私もです〜』と言って2人が抱きあう。


 その光景を横目に僕もビニールシートに乗ると陽さんが声をかけてきた。


「……何飲む?」


 開けられたクーラーボックスを覗き込むと、ビールやらチューハイやらが氷と共に雑多に入れられていた。


「とりあえずビールで……芽依さんも同じので良いです?」


「あ、はい大丈夫です」


 2人分のビールを受け取り座ると、隣に芽依さんが座ってきたのでビールを渡し各々プルタブを開けると。


「「「「乾杯!」」」」


 とお花見が始まった。



――――



「いや〜聞いたよ〜? 付き合ったんだって〜?」


 姉ちゃんが芽依さんにそう言うと、芽依さんは照れ臭そうに笑った。


「お陰様で……はい……」


「いや〜……芽依ちゃんがあからさまにアプローチしてるのに気付いて無さそうだったから、我が弟ながら『こいつヤバすぎ』って思ってたけど……良かったじゃ〜ん」


「そ……そんなあからさまだったかな……」


「……うん……俺でも気付くレベルだったけど……」


 ……陽さんにまでそう言われてしまったらぐうの音も出ない。


「いや〜……でもこんな可愛い子が……あたし妹欲しかったんだよねぇ……ねね? 今度一緒に服買いに行かない?」


「え!? 良いんですか!? 行きたいです!」


 そう芽依さんが言うと姉ちゃんは感動したように天を仰ぐ。


「は……? マジ良い子過ぎん……?」


 姉ちゃんの手が僕の肩に乗せられる。


「……匠……絶対別れんなよ……?」


 そう言った姉ちゃんの顔は本気(ガチ)である。


 乗せられた肩の手に徐々に力が込められる。


 ……痛い痛い!


「い……一応そんなつもりは無いけど……」


 痛みを堪えつつそう言うと、やり取りを見ていた芽依さんがくすくすと笑った。


「……そういえば仕事決まったんだっけ……?」


 助け舟を出してくれたのか陽さんが話題を変えたので、ようやく姉ちゃんは肩から手を離してくれた。


「あ、はい。一応家の近くの会社で事務員をすることになりました」


 たまたま家の近くのレーザーで金属に精密加工をする会社の事務員の募集があったらしい。


「……おめでとう……今度こそ上手くいくと良いね」


 と姉ちゃんが言うと芽依さんは思うところがあるようで、ゆっくりと頷いた。


「……はい……本当に……」


 芽依さんがそう言うと、少しの沈黙が訪れる。


「……あ……あの! 私ちょっと良い日本酒買ってきたので皆で飲みませんか!?」


 と、空気を変えるべく芽依さんが提案すると。


「お、良いね。今紙コップ出すわ」


 姉ちゃんはそう言って後ろを向いて鞄を漁り始め。


「……これ……? 開けるよ……?」


 陽さんは日本酒をビニール袋から出すと箱を開け始めた。


 やることが無く、漠然とその様子を見ていると隣の芽依さんが耳元で囁いてくる。


「匠さん……さっきの話ですけど……」


 なんかデジャヴを感じるな……。


 と思いつつ、やっぱり何の話か分からなかったので耳にかかる息がこそばゆかったのを我慢しながら続きを待つ。



「……私のこと……離さないでくださいね?」



 そう言うと芽依さんは耳元から離れた。



 一陣の風が吹く。



 視線の先に映るのは。



 舞い踊る桜の花びらと。



 ――愛する人の……満面の笑顔だった。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。

今までSNSで短編のショートストーリー等は書いたことがあったのですが、長編小説を書くのは初めてで途中心が折れそうになることもありましたが、何とか完結までもってこれてほっとしております。

「信用金庫という場所で働いてきた経験を小説にしたい」という気持ちで書き始めたこの小説ですが、最初は仕事の話のみで進めていたのですがあまりにも硬い内容ばかりでちょっとどうなんだ?となり再考。

もう一つ好きなジャンル「恋愛」を織り交ぜて再構築したものがこちらの小説となります。

もしよろしければ一言でも結構ですので、ご感想等をいただけると本当に嬉しいです。

励みになりますので、是非よろしくお願いします。


では再度になりますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。


また、いつか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。