心配?私が?まさか!
まあ、政治家は世界一の嘘つきだ。政治家の言うことより、魔女の言うことを信じる方がましだ。
「それで? 約束を守るつもりなんですか。それとも無視するつもりですか?」
私はじとっとした視線を彼に向けた。
責任や約束から逃げるなんて許さない。彼は政治家じゃない……まあ、魔術師って、性格だけなら政治家にかなり近い気もするけど。
「返事は?」
「うーん……分かった。魔術はあとで教えるよ」
「あとでって、どういう意味ですか?」
「もう朝だからさ」
「朝っ!?」
私は目を見開いた。
「そう。君は真夜中からずっと気を失っていた。もう太陽は昇ってる。それだけの話だよ」
「ま、待って! ってことは――」
私は冬夜さんとランスロットを交互に見つめた。
「二人とも……私が目を覚ますまで、一晩中ずっとそばにいてくれたんですか?」
「はい、お嬢様」
「ち、違う!」
冬夜さんは私から視線を逸らした。
まるで必死に否定しようとしているみたいに、目元がぴくぴくと引きつっている。
「べ、別に君の看病なんてしてないからね!」
「冬夜さんって、意外と優しいんですね」
まさか冬夜さんが一晩中起きていてくれたなんて、信じられなかった。
ランスロットなら分かる。彼は私の召喚者――いや、正しくは私は彼の召喚主で、彼は忠誠を誓ったミュトスだから。
でも、冬夜さんは違う。
それでも彼は、まだ私のほうを見ようとはしなかった。
「もし冬夜が魔術を教えるのであれば、私はお嬢様の身体を鍛えます」
ランスロットが椅子から立ち上がる。
「身体を鍛える?」
「この戦争を生き延びるには、魔術だけでは足りません。魔術師の弱点を補うには、身体を鍛えるのが最善です」
冬夜さんはその話題に乗るように、照れ隠しでもするかのように話を切り替えた。
「ランスロットの言う通りだ。君が魔術師と戦う日までに、どれだけ魔術を覚えられるかは分からない。簡単な術式一つ習得するだけでも、時間と根気が必要だからね」
「でも……それがどう役に立つんですか?」
「ほとんどの魔術師は魔術に頼り切っている。魔術は可能な範囲なら何でもできるから、そのぶん身体能力を鍛えなくなるんだ」
「つまり……拳で敵を殴れってことですか?」
冬夜さんは満足そうに手を叩いた。
「その通り。見た目ほど鈍くはないみたいだね、小山君。じゃあ今日の予定は決まりだ。昼はランスロットの下で徹底的に身体を鍛える。そして夜は僕が魔術を教える。パーセリー!」
彼はこの魔法の家で働くエルフの従者の名を呼んだ。
すると、どこからともなく現れ、冬夜さんの隣に立つ。深々と頭を下げた。
「お呼びでしょうか、冬夜様。小さき従者パーセリー、御前に参りました。どのようなご用命でしょうか?」
礼儀正しく任務を尋ねる。
「パーセリー。ランスロットと小山君を決闘用ダンジョンまで案内してくれ」
その長い耳がぴんと立った。
「な、なぜですか、ご主人様!? パーセリーは何か粗相でもいたしましたか!? もしや……命を取られるのでしょうか!?」
ぽろぽろと涙を浮かべ始めた……え?
まさか私たちが自分を殺しに行くとでも思ってるの?
状況についていけず、私はただ戸惑うしかなかった。
冬夜さんは頭をかきながら、大きくため息をつく。
「パーセリー……考えすぎだ。誰も君を殺したりしない。小山君とランスロットを決闘エリアのダンジョンまで案内してほしいだけだ。分かった?」
安心したように、彼は涙を止めた。
「では……パーセリーの取り越し苦労だったのですね?」
私たちはそろってうなずく。
「さあ、二人を案内してあげて」
パーセリーは冬夜さんへ恭しく一礼した。
「かしこまりました、ご主人様」
私たちはお茶を飲み終え、パーセリーの後について部屋を出た。
ここに数日暮らしているというのに、この屋敷のことはまだほとんど知らない。
それが、私の考えていた魔術師の文化についての仮説を少し裏付けている気がした。
かなり突飛な考えだけど、魔術師たちの文化は世界中というより、ヨーロッパ由来のものが多いように思える。
何より不思議なのは、これまで見てきた魔法生物の多くも、他の大陸ではなくヨーロッパを起源としていることだ。
だからこの屋敷も、ヨーロッパ風の建築や文化を基に造られているのだろう。
「ランスロット」
「何でしょう、お嬢様」
彼は私のほうを向いた。
質問を待ってくれている。
「ずっと気になっていることがあるんです」
「お嬢様のお心を悩ませているのは、どのようなことでしょう?」
「どうして私たちは普通に会話できるんですか? だって……あなたは別世界の人ですよね。それに、生前だって……たぶん日本人じゃありませんよね。それなのに、どうして日本語を話して理解できるんですか?」
歩いている途中、パーセリーが右へ曲がったので、私たちもその後を追う。
「それは私にも分からぬ謎です、お嬢様。ですが、一つだけ推測できます。あなたが召喚主であり、私たちが契約で結ばれているからこそ、あなたの言葉を理解できるのではないでしょうか」
「なるほど!」
きっとそうなのだろう。
契約を結んだからこそ、彼は私を通じて日本語を理解できる。
異世界のファンタジー世界から来た人が、日本で長年暮らしているルークよりも自然な日本語を話しているなんて、本当に不思議だ。
でも、もし契約のおかげだとしたら――
「私だけがランスロットの行動を夢で見られて、冬夜さんはラインハルトの夢を見られないのも……ただの契約以上の繋がりがあるってことなのかな……」
私は小さな声で独り言をつぶやいた。
「何かおっしゃいましたか?」
私は慌てて首を横に振る。
「い、いえっ! 緊張すると、つい独り言を言っちゃうだけです!」
ぎこちない笑みを浮かべる。
ランスロットは特に気にした様子もなく歩き続けた――謎は深まるばかりだ。
今の私には解けない疑問が、まだあまりにも多すぎた。
この章をお読みいただき、ありがとうございました!SodaKun Out ☆!




