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「私、ですか………?」
青街さんみたいに平然と無言を貫く度胸もない私は、ただただたじろいでしまう。
緑堂さんの指摘も正論に聞こえるし、紫間さんの説明にも納得はできる。
だったら素直にそう告げたらいいものを、それを躊躇してしまったのだ。
私だって、100%の事実を知りたいとは思う。
だけど、もしそれで自分の信じたいものが信じられなくなったら?
信じていたものが偽りだったと突き付けられたら?
律ちゃんが信用している紫間さんを私も信じたい。
でも、これまでの言動や青街さんの話を聞いて、紫間さんのことを信じ切らない方がいいとも思っている。
そんな二律背反が、私の答えを邪魔してくるのだ。
だって、もし、青街さんの推測が当たっていたら?
私たち二次試験参加者が、失踪事件を解決するための囮に使われていたのだとしたら?
万が一にもそれが事実で、今ここで紫間さんがそう打ち明けたとしたら、例えそれが100%の事実だったとしても、私はまた照明を粉々に壊してしまうかもしれない。
律ちゃんの信用を裏切るようなことを、紫間さんが律ちゃんに内緒で企てていたのだとしたら、私は、きっとそれを許せない………
けれど緑堂さんは最初から私の同意なんか期待していなかったようで、私の顔を見ながらフフッと口元に手を当てた。
「紅守さまは、本当に正直で真面目な方でいらっしゃいますのね」
「え……?」
「いえ、なんでもございませんわ」
また、正直、真面目………
嘘がつけないとか正直とか真面目とか、そう評されたのはこれで今日何度めだろう?
確かに嘘は得意ではないけれど、そんなにみんなに言われるほど、顔に出やすいのだろうか?
…………だったら、今はどんな顔をしているべきなの?
その模範解答はわからなかったけれど、そのとき、紫間さんがまたテーマパークのスタッフ並みのハイテンションを復活させたものだから、私は表情を繕うこともなく、心の底から正直に、大いに戸惑うことができた。
「そうだろうそうだろう?僕もね、紅守さんは本当に嘘がつけない真面目な性格だと思うんだよね。だから、ちょっとでも疑わしいと思っている僕のことを庇ったりできるわけないんだよ。ね?紅守さん?」
「あ………いえ………」
いくら正直だの真面目だの言われても、私は緑堂さんのように、紫間さんに正面切って ”私はあなたを疑っています” とは返せなかった。
戸惑って返事を濁した私とは対照的に、青街さんと緑堂さんは冷ややかだった。
「自覚はあるんですね」
「あら、ご自覚はございますの?」
ふたりのセリフが見事に重なると、黄壱さんと青街オーナーからは盛大な苦笑がこぼされた。
「言われてますよ?」
「どうやら私の息子も正直過ぎるみたいですね」
紫間さんはテーマパークスタッフのテンションを維持したまま「いいね。今年の新入社員はみんな鋭くて、将来有望だよ」と満足そうに、私たち3人の顔を順に見てまわった。
そして最後に緑堂さんを見たとき、ハイテンションを一時停止させて。
「だけどね。さっき話した、このホテル ミスルトゥで二次試験を行うことになった経緯については、嘘偽りはないよ」
にこにこ笑顔で、そう刺してきたのだ。
その直後、瞬時にテーマパークスタッフに戻った紫間さんは、舞台役者のような大きな仕草でパンパンパン、とまた拍手した。
「僕を疑うのは大いに結構!MMMコンサルティング社員になるなら、それくらいの方が頼もしいね。これからきみたちを騙そうとする輩はきっと現れるだろうから、警戒心が強いのは立派な武器になるはずだよ。ただ、いくら魔法使いでも、常に完璧で完全な情報だけを提供できるわけではないことも、頭の片隅に入れておいてほしいかな。多少の言葉の綾や齟齬は大目に見てほしい。もし何か引っかかることがあったら、今の緑堂さんみたいに直接ぶつけてきてくれたらいいんだよ。そうしないと、疑念に駆られて、把握しておくべき内容がきちんと頭に入ってこないかもしれないだろう?それはきみたちにとってとても大きな損失になってしまうからね」
紫間さんはオーバー気味に両手を交差して自分の胸に当て、いかにも残念そうな素振りを添えた。
「もちろん、緑堂さんの言ってることももっともだよ?だけど、残念ながら人は、いつも100%の事実だけを話せるわけじゃない。100ある事実のうち、50、30しか話さなくても事足りる場合がほとんどだろうし、むしろみんな、いつもそれくらいしか話してないんじゃないかな?魔法使い、非魔法使いにかかわらずね。まあ、だからそこから誤解が生じたり、誤った情報が広がったりもするんだろうけど。ここにいるメンバーだって、みんな、そんな経験があるんじゃないのかな?」
手はそのままで、紫間さんがゆるりとまわりに視線を泳がせると、正面に座る黄壱さんからフッと乾いた息が漏れた。
「私はあなたのおかげで、しょっちゅう誤解されていますよ。紫間さん」
「おや?僕が嘘の情報を流布しているとでも言いたいのかい?」
「私は刑事ではありません。ですがあなたが、まるで僕を刑事のように紹介するものだから、しょっちゅう刑事に間違われているじゃありませんか」
「僕はきみのことを刑事だとはひと言も紹介してないんだけどね」
「そうですが、そういう言い方はなさってますよね?刑事だと誤解されても仕方ないような言い方を」
「うーん、そうだったかなあ?そんなつもりはちっともないんだけどなあ」
はぐらかす紫間さんは、それが本心なのか芝居なのか、もはや誰にも判別はできそうにないだろう。
けれど、私の隣からは、黄壱さんに加勢すべく…というよりも紫間さんを詰めるようなセリフが放たれたのだ。
「でもあなた黄壱さんを紹介された俺は、黄壱さんのことをついさっきまで刑事だと思ってましたけど?」
「おや、そうだったのかい?それは誤解させてしまってすまなかったね、青街くん。でもよーく思い出してくれるかい?僕は青街くんに黄壱くんを紹介するとき、『今回の事件を担当してくれる警察の方だよ』みたいな言い方をしてなかったかな?もし憶えていないなら、魔法で記憶を蘇らせてあげてもいいんだけど?」
そこまで言われて、青街さんはいくつかの言葉を飲み込むように唇を噛んだ。
「………いえ、結構です」
「そうかい?でも、誤解を与えてしまいかねない言い方をした僕も良くなかったね。すまなかった。よし!じゃあ黄壱くんの刑事じゃない問題はこれで解決として…」
「勝手に解決されてしまいましたね。当事者の私は置き去りにして」
黄壱さんからカラカラに乾ききった笑いが届くと、紫間さんは腰を上げてテーブル越しに黄壱さんの肩をポンポン、と叩いた。
「まあまあ。きみと僕との仲だろう?」
「そうですね。確かに、『刑事じゃないけどこの事件を担当します』……なんんて紹介をされても、相手を戸惑わせてしまうだけでしょうからね。いちいち会う人会う人に非魔法使いだの警察庁内部の事情だのを説明してまわるのも、時間的に非効率だと理解はしています。ただ、そのせいで生じた誤解などは、そちらで訂正していただきたいところですがね」
黄壱さんから軽いひと睨みを受けても、紫間さんは「それこそ誤解だよ」と笑う。
「訂正も何も、僕は訊かれたことにはちゃんと答えてるつもりだよ?きみが刑事じゃないこともそうだし、他のことでも、訊かれたことにはちゃんと答えてるさ。まあ、答えられる範囲で、にはなるけどね。でも、訊かれないことについては訂正しようもないだろう?」
「いかにももっともらしくは聞こえますけれど……」
その先にもまだ言いたげだったけれど、黄壱さんは紫間さんをよく知っているのか、ほとんど諦めてるような態度だった。
すると、黄壱さんがそれ以上何も言ってこないと判断したのか、紫間さんはくるりと私たちに顔をまわして。
「だから、きみたちも、さっきの緑堂さんみたいに訊きたいことや確かめたいことがあったら訊いてきてくれていいんだよ?100%は答えられないこともあるけど、30、50なら答えられるかもしれない。ねえ、紅守さん?青街くん?僕に何か、訊きたいことがあるんじゃないかい?」
あからさまな誘い水が向けられたのだった。




