現れた王子様
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あのあと無言で、また二時間以上歩いてる。頭の中は必死に思い出してる魔法書の中身のことで一杯だ。
魔法が杖を持ってない方の手から、切れ掛けの電球の光みたいに何度もぼんやりと放出してる。
でもその魔法を出してるのは、あたしの意思だ。
防御魔法と攻撃魔法、その両方がちゃんとできなきゃダメだ……。
「バサッ! バサッ! バサッ! ……!」
って、空に大きな鳥の羽の音!? って、鳥じゃない!? 魔物だ!
「そんな!? まだ早いよーー!」
「どけッ!」
突然目の前に現れたのは、勇者!? 戦士!?
「待たせたなー! カッコイイ勇者様の登場だぜー!」
えーーーっ!? なに、なに!? 勇者様ーー! また期待はずれじゃ。
嘘!? 全然期待はずれじゃない!
あっという間にこの魔物を斬り倒してくれたーー! 顔は? 顔はどうなの?
イケメーーン! びっくりカッコイイ!
「キャーーー! カッコイイーー!」
「誰だお前ぇーは? うるせー女だな。その格好からすると魔法使いか?」
「はい。そーですぅー」
「じゃあ、もっと強くなれ! 弱いやつには用はねぇー!」
あーーっ! キュンキュンしちゃうーー! この感覚、すごーーくひさしぶりーー!
やっと登場してくれましたよ、あたしの王子様! これからがあたしのシンデレラストーリー!
「あたし、巫琴っていいます! あなたのお名前は?」
「オレの名前はアーサーだ! この世界の魔物をすべて倒す男の名だ!」
「そーなんですねー。魔王討伐のパーティーとか今集めてません?」
「魔王? なんだそりゃ? 魔王なんてそんなのは聞いたことがねーなぁー」
「えーーーっ、この世界には魔王はいないんですかーー。残念!」
「さっきからなに一人で言ってんだ。このパーティーの代表者は?」
「はい。わたしですが……」
この情けないアルフレディさんとは大違い!
「助けてやった、礼をもらおうか。金貨二十枚だ」
「あっ……いや……」
「誰が只で命を救ってやる馬鹿がいる。たった金貨二十枚で命が助かったんだ。安いもんだろう」
そうそう。安いもんよねー。
「それとも、この弱い魔法使いの女がお前たちを護れたのか?」
「あっ……いや……」
ちょっと、ちょっとぉー!? 一つ前の山賊からは護ってやったじゃないのよー! そこははっきり否定しなさいよー!
「はい。わかりました……金貨二十枚ですね」
「毎度あり」
なにが毎度ありよ!? 突然現れたヒーローが人助けしてくれたと思ったら、これじゃまるで詐欺じゃないのよー!
「なんだ? なんか文句あるのか?」
いやぁー! そんな凛々しい瞳で見つめないでーー!
「あ、ありがとうございます」
「うむ。お前たちはオレがたまたま近くにいて良かったな。また会おう!」
って、また魔法みたいにあっという間に消えちゃったよー。連絡先まだ聞いてないのにー!




