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お言葉ですが今さらです  作者: MIRICO


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33/78

20 性格

「ほ、本日より、よろしくお願いします」

 初々しい顔の新しい仲間が、照れながら挨拶をした。執務の者たちはどうしてこの子を? という目で見ていたが、アンリエットだけがニコニコと笑顔を向けている。


「フラン様。お仕事ご一緒できて嬉しいですわ。新人同士、頑張りましょうね」

「あ、ありがとうございます。一生懸命頑張ります」


 どうして、フランが執務室に。それが城中に噂されるのは、今日の夕方か。いや、もっと前か。

 ヴィクトルは想像しながら、フランとアンリエットが話すのを眺める。


 少し前、アンリエットと共にシメオンが一緒にやって来たと思ったら、お願い、をしてきたのだ。

 お願いの内容は、フランを執務に関わらせること。

 なぜそんな話になったのか知らないが、アンリエットの横でシメオンがフランの成績や今まで行ってきた論文、教授たちが注目している内容。その他諸々のフランを上げる説明を行い、最後にアンリエットが、フランを執務に関わらせた時の利益を語った。


 ヴィクトルもフランが優秀であることは知っている。王妃だけでなく、王もフランについて知っているくらいだ。私生児というのは後ろ指指される立場であるが、その辺りの差別はヴィクトル両親共にないため、フランがベンディクス家を継ぐならば、むしろ積極的に進めるだろう。新しい風穴が開くのだから。


 ただ問題は、ベンディクス家の私生児でも、ドロテーアの弟を執務に関わらせるということ。

 ベンディクス当主は喜び、周囲は考える。婚約が決定するのでは、と。

(それくらい、アンリエットも考えるだろうが、それについては言われなかったな)


 相手にされていない。考えたくないが、そんな気がしてくる。

 弱気になって、つい無言になっていると、フランは今日は挨拶だけということで、部屋を出て行った。アンリエットがそれを見送り、ゆっくりヴィクトルに向き直る。


「理由は聞いたが、やはり納得できないことがある」

「なんでしょうか?」

「どうして、フランなのだ? 彼はベンディクス家の長子だ。ベンディクス家を支えることになってしまう」

「私、この間ベンディクス令嬢のお茶会に参加しましたの」

「ああ、聞いている。そこで、何かあったのか? まさか、脅されたり!?」

「とんでもないことですわ」

「そうなのか? もし何かあったのならば、こちらで対処するが」


 茶会で何か起きても、噂にならない限りヴィクトルの耳に入らない。アンリエットから何か言われるかと思っていたが、それもなかった。なくて当然だ。アンリエットは弱音をはかない。だからそれとなく、数日後には聞くつもりだったが、その前にフランについて提案された。


「フランが優秀なのはわかっている。即戦力にもなるだろう」

「納得のいかないことでしょうか?」

「いや。君が何を企んでいるのか知りたいだけだ。どうして急に、ドロテーアとの茶会の後に、フランを執務に関わらせようと思ったのか。シメオンを使ってまで」


 アンリエットは微笑んだまま。しかしどこか雰囲気が違うように感じた。ヴィクトルは冷や汗をかきそうになる。何かが違うのだ。


「アンリエット嬢?」

「殿下、ベンディクス家は名家ですわ」

「ああ、そうだな」

「フラン様はベンディクス家を継ぐ方。その方が執務に関わることは、ベンディクス当主として誉れなことでしょう」

「まあ、それはそうだが」

「ベンディクス令嬢との婚約については私が口を出すことではありませんが、フラン様は早くに取り込んだ方が良いと感じました。立場を作るためにも。ベンディクス家に執務を見せられぬというならば、雑務でも構いません。今のところは」


 アンリエットは強調する。実際フランは学生で、まだ卒業ではない。卒業のための成績や提出物などに問題はないため、すんなり卒業できるだろうが、まだ授業が残っている。だから、執務に関われる時だけ関わる。そういう約束だ。


「その程度の関わりだけで良いというのか。今のところは」

「実績ですわ。殿下。雑務だとしても、関わったという実績だけで良いのです。ベンディクス家で立場を上げるには」

 茶会で何かあったわけだ。アンリエットはフランの立場を今よりも上げて、ドロテーア程度ならば文句を言われないようにしたいのだろう。ドロテーアがフランに何かすれば、ベンディクス当主が罰を与える程度の。


「意図はわかった。しかし、ベンディクス家を優遇するのは今回だけだ」

「ご安心ください、殿下。それはフラン様が今後行うこと。今は取っ掛かりを掴めれば良いのです。その後、フラン様は殿下の良い後ろ盾となるでしょう」

「アンリエット嬢、何を考えている」

「一般的な話ですわ。ベンディクス家を継がれるのは、フラン様。それだけのこと」


 アンリエットが挑戦的に笑った。先ほどから感じている違和感はこれだ。

(もしかしなくても、怒っているな)


 茶会で何があったのだろう。ドロテーアはどうでもいい。ベンディクス当主はその座から引いてもらう。その意思が伝わってきた。フランを早めに当主に据える気だ。それでも何年も後の話だが。とりあえずはドロテーアと立場を同じにさせたいのだろう。何なら、それ以上に。

(面白いな)


「それから、もう一つお願いが」

 アンリエットはそっと一枚の紙を取り出した。手紙だ。ヴィクトルはそれを読んで、アンリエットを見上げた。アンリエットは静かに微笑む。そこに心からの笑顔というものはなく、ただうっすらと、唇に笑みをたたえた。









(あの顔)

「彼女は今までの女性とはまったく違うな」


 廊下を歩きながら、ヴィクトルは大きく息をつく。

 最初出会った時は勇気のある令嬢。剣の腕のある、謎の令嬢。興味を持って、また会いたいと思った。

 執務を行うようになってから、アンリエットの真面目さや聡明さに惹かれ、パーティでは美しさに惹かれ、物おじしない態度、対処の仕方。ダンスを踊れば、時折見せる愛らしさに心奪われた。どんな彼女も魅力的だと思ったが。


「どれだけの面があるのか、気になってしまうな」

 王太子代理を務めていたからだろうか。感情を露わにせず、静かに怒り、そしてその対処を行うわけだ。

(フランのために怒っているというのが気に食わないが)


 ふと、足を止める。見覚えのある二人がまたいる。アンリエットとフランだ。にこやかに笑顔で話している。それを見るだけで、モヤモヤが募る。アンリエットはフランをどうこう思っていないかもしれないが、フランの顔を見て、苛つくものがある。

 ただの嫉妬だ。


 ベンディクス家に何か思うことができたとしても、フランと仲良くしているのだ。それが許せない。邪魔したい。子供のようなことを思って、大股で二人に近付く。


「今日は何の話だ?」

「殿下!」


 驚いたのはフランだけ。アンリエットはゆっくりと礼を執る。前々から思っていたが、アンリエットはあまり驚かない。驚いたようなことは言うが、余裕があった。それが王太子代理としての学びだとしたら、どれだけの努力をしたのか。殺意を持って近寄れば、すぐに魔法で対処できるのだろう。その余裕を感じた。


「それで、何を、またスファルツ王国の神話か?」

 持っていた資料が目についた。地図に印がついている。スファルツ王国の古い時代の地図だ。

 アンリエットはその資料をヴィクトルに見せて、いつも通りの微笑みを見せる。


「フラン様が面白い仮定をなさったんです。十年に一度の魔物増加は、この伝説の場所で精霊が入り口を開くからではないかと」

「精霊が、入り口を開く?」

「人間を捨てた精霊は、人間とは違う世界へ旅立ってしまいます。ですがその後、精霊はこの場所で英雄の前に現れました。精霊は魔物を蹴散らす光を持つ種族。魔物が光を嫌がるため、増加したように見えるのではないかと」

「ふむ、興味深い想定だな。では、増加ではなく、その場所から一度去ろうとするわけか?」

「は、はい。元から魔物の多い場所ですから、一斉に外に向かって逃げれば、数が多くなったと勘違いするのではないかと。そうであれば増加するという理由もわかると思うのです」

「面白い見解ですわ。魔物に印でも付けて、立証してみたいですわね」


 そんな恐ろしいことを、満面の笑みで言わないでほしい。フランもそんなことできればすごいですね。と二人で楽しそうに立証方法を考え始める。微笑ましいほどの研究バカだ。妬いているのがバカらしくなるほど。

 だが、


「フラン。令嬢を借りたいのだが?」

「え、は、はい。僕はこれで失礼します!」

 フランは言う通りに、さっさとその場を去る。アンリエットは何かあったと、背筋を伸ばした。真面目な話だが、アンリエットが想像するような話ではない。

 そう思うと、本当に相手にされていないのだと、心に突き刺さるものがある。


「アンリエット嬢。忘れてほしくないのだが、念の為」

「なんでしょうか?」

「フランと二人になるのはやめてくれないか。できるならば」

「え?」

「独りよがりなのはわかっているが、嫉妬でどうにかなりそうだ」

「え!?」

「相手にされていないのは理解しているが、男と二人いるところを割って入りたいくらいには気になるのだと、覚えていてほしいな。フランも例外ではなく」

「殿下、」

「フランをそのような目で見ていないとは言わないでくれよ。わかっていても、気になってしまうのだから。次も見たら、また邪魔してしまうかもしれない」


 アンリエットは困ったような顔をしてくるが、許してほしいと思う。二人で会うことを止めはしないが、目に入ったら邪魔したくなる。

(仕方ないではないか。自分でも狭量だとわかっている)


「それから、スファルツ王国の件だが、俺も同行する」

「殿下!? そのようなことは」

「少しでも離れていたくないのだ」


 そう言って手を取ると、アンリエットは少しだけ頬を染めて、気恥ずかしそうにした。

(今はその程度でもいい。だが、少しずつ、俺を意識してくれれば)

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