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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と二夕見花蓮の友達の二夕見花蓮の過去バナ……ややこしい?


 顔の怖い彼が彼女に殴られているうちに、私は花蓮について語ろうと思う。


 え? 私が誰かって? 名乗るほどの者じゃありませんよ?


 ちょくちょく現れる花蓮の友人の一人に過ぎませんので。


 花蓮は一言で言うと、天にも人にも愛されて産まれた子だった。


 頭脳明晰、容姿端麗、運動音痴。


 他人への思いやりに溢れ、人に優しく自分に優しく、そして思い込みが強い。それが花蓮という女の子。



 この世界に産み落とされた瞬間から、老若男女に可愛がられて育てられてきた。まあ知り合ったの中学からだけど。


 欲しい物は何でも手に入ったし、花蓮の前に置かれたハードルは全て周りの人間が取り払ってきた。


 人によっては高飛車に、そして傲慢になってしまう生活環境だけど、花蓮はそうはならなかった。


 穏やかで、物腰は柔らかく。


 かといって近付いて見てみると、のんびり屋でぽけーっとしてるだけだったり。


 運動音痴で鈍臭いところですらプラスに受け取られる、嫉妬すらも覚えるほどに。


 だけど嫌いにはなれなかった。それはただ偏に花蓮の人徳によるものだと私は思う。



 ただ、彼女には明確な欠点があった。それは数多の長所が霞んでしまうほどの欠点が。


 それは、人の好意が判らない。ということ。


 さっきも言った通り、花蓮は老若男女問わず可愛がられてきた。


 老は孫や子どもを思いやる気持ちの様に愛で続け。若や女からは憧れや羨望といった感情。


 そして男。


 彼らは純粋な興味、好意とは他に、よこしまな気持ちから優しくする人たちが一定数いた。


 全員が全員そうって訳じゃない。だけどそういった感情は確実に存在した。


 私から見れば、色んな性別、色んな年齢の人から向けられる好意的な視線は、全て『区別』がつく。


 しかし、花蓮は判らなかった。


 孫を愛でる気持ちも、憧れてくる好意も、えっちな視線も。


 全てが混ざり、全てが同一に。


 花蓮がその事に気付いたのは、高校生活も終わりかけになった頃。



 女子校だった花蓮。あとついでに私も。…………ついで?


 私は参加していなかったけれど、図書室で勉強会を定期的に開いていたらしい。


 何故私は参加していないか? そりゃもう勉強が好きじゃなかったからよ。それはともかく。


 花蓮はあの性格だから友達が多かった。


 そしてその中には、友人としての好意ではなく、恋愛感情として好意を向ける女の子もいた。


 女子校だからね、狭い世界だからしょうがないとは思う。それに花蓮はとっても良く出来た女の子だし。


 とある日、花蓮は同級生の女の子から交際を迫られ、キスをせがまれたらしい。


 花蓮は拒否した。それからだ、花蓮が変わったのは。


 誰にでも優しい女の子は、人を遠ざけ始めた。


 人を疑い疑心暗鬼に、優しさを優しさと受け取れなくなってしまった。


 あれだけ周囲にいた友達は離れていき、残った友人は数人にまで減ってしまう。もちろんその中に私もいる。


 しかし高校卒業を境に連絡を取る機会は減る。中には地元を離れ他県に行く子もいた。


 結果的に、友人として残ったのは同じ大学に進学した私だけ。


 花蓮はかねてからの夢だった看護学部を専攻、ちなみに私は栄養学。私の話はどうでもいい? はい。



 大学へ進み、女子校から共学へと身を投げだした花蓮は、大層困った。それはもうかなり。


 連日続く男子からの告白。断り続け疲弊していく花蓮。


 そして何故か振られた男連中は親衛隊なんていう時代錯誤なものを結成した。


 花蓮は殻に閉じこもるようになった。私以外の同世代を決して中にいれない殻に。


 正直言うと、それだけはちょっと優越感を感じていた。花蓮からの特別を感じた気がして。


 そんな時だった。花蓮から相談を受けたのだ。


「志保ちゃん……どうしよう…………断れなかったよ」


 ちなみに志保っていうのは私。名字? まあそれはまたの機会に。


 涙ぐみながら話す内容を聞いてみると、いつものように男子からの告白を受けたみたい。


 しかしその男子が…………いや、男子の顔がそれはもう怖かったらしい。


「断ったら何されるかって思ったら……」


 と言っていた。ちなみにその怖い顔をこっそりと大学で覗き見してみると。


 …………うん、なるほど。確かに怖い。


 常に余裕がない表情。眉間には皺がない時は無く、周囲を威嚇し続けるよう。


 かといって私の大事な花蓮を脅して付き合わせるなんて許されることじゃない。


 だからこう進言したのだ。


「親衛隊ってあったよね? あの人たちに頼み込んで別れ話をする時に付き合ってもらうってのはどう?」



 花蓮はすぐさま行動に移した。


 私は予定のファミレスに先に待機し、店内から観察。すると予定の時間よりも少し早く到着した件の男。


 待ち切れないと言った風にそわそわしながら、弄る必要もない短いツンツン頭を整えていた。


 あれ? と思った時はその時だ。確かに顔が怖い、だが無理やり付き合わせた男があんなに浮足立つだろうか?


 そういった男なら、もっと高慢で横柄な態度かと思っていたけど。


 そんな疑問を胸に抱いているうちに、親衛隊を引き連れた花蓮将軍は時間通り到着した。


 男の顔は引きつっていた。かと思えば愕然とした表情、そして肩を落とし去って行く。


 …………んん? やっぱり何かおかしくないかな。


 親衛隊を解散させ、一仕事やり終えた晴れ晴れな表情の花蓮に聞いてみた。


 告白の経緯を。


「呼び出された場所に行って、顔を見る暇もなくすごい勢いで頭を下げてきたの『俺と付き合ってください』って」


 そして花蓮の表情を確認するべく上げた顔が、花蓮にとっては怖かった。恐怖で咄嗟にOKしてしまった、と。


「花蓮、あんた今日の男の顔、見た?」


「え? ううん、怖いと思ったからずっと胸の方見てた」


 …………うーん、釈然としないけど。


 とは言え、この気持ちの行き違いでは私が口を出した所で長続きはしないだろう。


 まあ、いっか。


 その数日後。


 私は人生最大の失言をすることになる。


 大学で例の顔が怖い彼を見つけて、花蓮に教えてしまう。第一の失言。


「ねえ花蓮。あれってあんたが無理やり付き合わされたって言ってた男だよね?」


 花蓮も例の彼を見つけ、その表情は引き攣る。しかし私はファミレスで落ち込む彼の顔を見ていたからか、恐怖感はさほど無かった。そして第二の失言。


「顔が怖いって言ってたけど……そうでもなくない?」


 その時の私は、先入観だけで人を決めつけてほしくない、位の軽い考えだったと思う。


「…………うん」


 同意する花蓮に、私は嬉しくなった。私の考えが伝わったんだと。


 そして第三の失言であり、致命的な一言を愚かにも放ったのだ。


「むしろ、彼女に見せるあの笑顔……割とアリなんだけど」


 そう、彼には既に彼女がいた。


 彼女と共に歩く彼の顔はとても穏やかであり、切れ長の三白眼という短所がかき消えてしまうほどの幸せのオーラを醸し出している。


 何も言わない花蓮の顔を見てみた。


「………………」


 その表情は、今まで見たことのない表情だった。


 まるで宝物でも見つけたかのような目の輝き、やっと欲しかった物がわかったかのように口を開き、その口を両手で覆い隠す。


 私は思った。


 ヤバい、と。


 しかしもう手遅れだった。それはもう手遅れだった。例えるならばスーパーの特売日を閉店五分前で思い出すくらい手遅れだった。


 …………あんまり上手い例えじゃなかったね。



 まあそれはともかく。


 最初の方で話した通り、花蓮は昔から欲しいものは何でも手に入った。


 しかしそれは全てお金で解決できるものだった。


 食べ物、服、本。そういった雑貨類。


 だけど今花蓮が欲しているのは、人の心。それはお金をどれだけ積んだとしても手に入ることはない。


 いや、売る人もいるけど。そういう話じゃない。


 彼――――昼河 次郎が欲しいと思ったときには、暴走特急花蓮号は既に発車していた。


 最高速度で彼へと突撃し、彼女がいるのもお構いなしに猛烈アタック。


 果てにはストーカー紛いな事をするまでに発展してしまったのだ。


 つまり、何がいいたいかと言いますと。



 この騒動の原因は全部私なんです、ごめんなさい。


 親衛隊を使って別れ話をしようって言わなければ。


 花蓮に彼の存在を教えなければ。


 笑顔の良さを教えなければ。


 花蓮の為を思ってした行為が、全て裏目に出た結果だった。


 …………これは、私がなんとかするしかないよね。


 また裏目に出る可能性はある。けれど。


「花蓮! ちょっとあんたこっちに来なさい!」


「あ……ああっ!! 志保ちゃん、志保ちゃーーーーーん!!」


 私にはこのストーカー行為を辞めさせる責任があるのだから。

読んでいただきありがとうございます。


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