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猫と桜  作者: 詩音
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これから新キャラたくさん出てくるので僕の腕がヒィヒィいってます 第八章

  第八章 襲撃

「は〜い。高くんの勝ち〜」

 風牙の黒い風と、高の青い正拳突きの衝突によって爆発が起き、大音量の後、いきなり静まった闘技場にひどく間伸びした声が響く。

 その声に釣られて、閃光と音により本日2度目の感覚器が壊れかけたミヤは、さっき高と風牙がぶつかった場所に目を向ける。

 そこには、吹雪の言葉の通り高だけが立っており、視線を横に横にとずらしていくと、ボロボロになって寝ている風牙がいた。

「あー、負けちゃったー。やっぱ先輩は強いっすね」

 風牙は寝たまま、少し悔しがるようにそう言った。

「ありがとな。でも、風牙も凄かったぞ。特に最後のがよかった。あれはお前のやり方を知ってた俺………と吹雪と(あかり)和夜(かずや)流水(るみな)と……まぁ鏖妖組の面子にしか対処できなかった」

「あれ、意外と多いなぁ!?」

「まぁ、とにかく風牙は強かったよ」

「………なんか褒められてる気しないですけどありがとうございます」

 風牙はなんか物凄く納得いかない顔で、高の賛辞を受け入れていたが、よく見ると、風牙の耳が少し赤いことにミヤは気づく。やっぱりなんだかんだ言って褒められたことが嬉しいのだろう。

(いい所だな………)

 ミヤは、高たちのまさに理想の関係に強い憧れを抱いた。

 と、高はおもむろに耳に手を当てると、なぜか相打ちを打つような仕草を見せ、それが終わると申し訳なさそうに口を開いた。

「すまない、ミヤ。ちょっとまた用事ができてしまった。何度も悪いが、吹雪とまた待っててくれるか?」

「ああ、うん。いってらっしゃい、じんのうち」

「ありがとな。うん、行ってくるよ。………ほら行くぞ、風牙」

「いや、俺さっき先輩にボコボコにされて身体中痛いんですけど……ああ!行きますから!…行きますからっ、引きずるのやめてぇ!」

 そう言うと、高は風牙をずりずりと引きずりながら訓練場を去っていった。少しの間あたりから音が消失するが、吹雪がその空気を治すようにパンッと手を叩くと、

「じゃあ私たちも行きましょうか!………そうだ!ミヤちゃん、ここのお屋敷探検しましょう〜?」

「え、いいの?じんのうち、この職場って守秘義務があるとかなんとか………」

「いいのよ〜。だって、それ人に言ってることじゃないもの〜」

「え、人?」

「さ、行きましょ〜」

 ミヤの最後の質問を華麗にスルーした吹雪はミヤの前に手を広げる。どうやら握れ、ということらしい。

 ミヤはもう考えたら負けな気がして、大人しく吹雪の手を握る。

 と、

「くしゅんっ!」

 ミヤは体温が低下しているのをなんとなく感じたと同時に、くしゃみが出てしまった。

 そして、ミヤは自分の足元をたまたま見てみると、自分の周りにキラキラしたものが散っているのが見えた。よく見てみると、白い(もや)を放っているのがわかる。氷だった。

「え?なんでこんなところに氷?」

「あら〜?ミヤちゃん、どうかしたの?」

「………いや、なんでもない。行こう、吹雪」

「?は〜い」

 ミヤは今回も考えるのをやめた。

(まぁ、どうせ異能でしょう)

 いや、思考放棄というよりどんなおかしな状況でも説明のつく魔法のような言葉を見つけたのだ。

 そうして、ミヤと吹雪も訓練場を後にした。


 しばらく後―

「どうだった〜?鏖妖組のお屋敷は」

 吹雪とおおかた屋敷の探索を終えたミヤは

「凄かった!」

 興奮冷め切らぬ様子でそう言った。

 あまりにも、感想にしてはそっけない回答だが、しょうがない。そう言うしかないくらい、本当にすごかったのだ。

 表を見ただけで、相当広いと言うことはなんとなくわかっていたが、ここはそんなミヤの予想のはるか上をいった。

 無数の部屋に、方向感覚を壊すような廊下。そして武家屋敷なのに優雅な庭もあれば、the無骨の鍛冶場なんかもあった。この屋敷一つがまるで町のようだった。

 そんなことをミヤは、一つ一つ言葉にして吹雪に伝えていく。

「あら〜、ありがとう。私もここで働いてる一人として嬉しいわ」

 すると、吹雪はいつもの笑顔をさらに濃くして、ミヤに礼をする。そんなことを繰り返していると、

「え、あ、うん。………わかった。ちょっと待ってて」

 先刻前の高と同じように、吹雪もおもむろに耳に手を当て、何やら小声で誰かと話すそぶりを見せた。

「ごめんなさい、ミヤちゃん。私ちょっと仕事に行かなきゃなの」

「あ、そう。ん、わかった。いってらっしゃい」

「うん、ありがと〜。……でもこのままミヤちゃんだけ残しちゃうのは不安だから………あ、確かここら辺は……」

 そう言うと、吹雪は何かを思い立ったような素振りを見せると、

「ミヤちゃん、ちょっとついてきて?」

「あ、うん」

 ミヤの前に手を出して吹雪は、ついてくるように誘う。

 ミヤの手を握った吹雪はミヤと共にいくつかの廊下を曲がっていくと、ある部屋の前で止まった。

「ここにちゃんと頼れる人がいるから、ミヤちゃんはここにいてね?私に連れてこられたって言えば多分構ってくれるから」

「え、あ、うん」

「じゃあ行ってくるわね」

「え、て、あ……」

 そう言うが早いか、吹雪はさっさとどこかに行ってしまった。

 ミヤは、もう一度、吹雪が連れてきた部屋をよく見る。なんともガッチリとしたその門構えに小市民気味のミヤは少しため息をつきたくなった。

 が、いつまでもこんな廊下に突っ立ってるわけにもいかず、ミヤは自分を鼓舞するように息を吐くと、襖を開けた。

「失礼しまーす……ッ!!」

 失礼したはいいが、ミヤはその部屋の主を見て戦慄する。

 着物や袴とは違うが、それよりもさらにガッチリとした服―スーツ―をしっかりと着込み、目にはレンズの黒いメガネ―サングラス―をかけている。髪は短く厳つく、眉間に大きなシワを刻み、彼の顔を恐ろしく、雄々しくしていた。

 つまり…………

(……殺されるっ!?)

 襖を開けると、見た目完全ヤクザの人がいたのである。

「……あァ?嬢ちゃん、何者だい?」

「あああああの、じじじ自分は、みみみみミヤといいいいいます…………ふふふふふ吹雪さんににににに、つつつつつつ連れて、ここここここここられました!」

 ミヤが信じられないレベルの噛み度合いで自己紹介を終えると、男はさらに眉間の皺を深くした。キレてるようにしか見えない。

(ああああああああ…や、殺られる!!?)

 ミヤがガタガタブルブルビクビクしている中、満を辞して、男は口を開く。

「ああ、吹雪が……まったく……すまんかったな、嬢ちゃん。大変やったやろう。うちのが迷惑かけた」

 そして、その口は、その顔にまったく似合わない優しい声で、ミヤを労る言葉を吐いた。

「へ…………??」

「じゃあ、嬢ちゃん。今からお茶持ってくるからな。待っといてな?」

「え?あ……はい?」

 そう言うと、男は部屋の奥へと消えていった。唖然したまま放置されるミヤ。

(え?あの人、いい人なの?あんな悪そうな顔なのに??)

 最後は完全に失礼な感想だが、仕方ない。だって本当にそうなのだから。

(やっぱり人って第一印象に引っ張られるんだなぁ)

 ミヤはあまりの驚きでそんなことを脳死状態で考えた。……まぁ自分が人かどうかはちょっとわからなかったが………。

「嬢ちゃん、お待ち」

「あ、ありがとうございます……」

 そんなこんなしていると、男が戻ってきてミヤにお茶とお茶請けの入ったお盆を寄越してくる。

「……っ、美味しい!」

 お茶を一口含むと、ミヤは驚愕し、素直に感想を述べる。そんな、お茶だけで驚愕するのかと思うかもしれないが、本当に美味しいのだ。高のお茶や料理も美味しいが、このお茶は高のそれよりも繊細で優しい味だ。

「おお、そうか。……茶菓子も食いな?」

「はい!………美味しい!」

「はは、そうかそうか。ほらもっと食べな?」

 こうやってミヤは、田舎のおばあちゃんのようになった男にしっかりと餌付けされたのだった。


「ああ、美味しかった。ありがとうございます…………えっと…」

 あのあと男にしこたま美味しいお菓子とお茶を食べさせられ、幸せなミヤは、ある困難にぶち当たった。お礼を言おうとしたのは良かったのだが、男の名前を知らなかったのだ。

 ミヤが戸惑っていると、男もまだ自分が名乗っていないことに気がついたようで、口を開いた。

「……ああ、俺は鬼波(きば)鬼波和夜(きば かずや)だ。よろしくな、嬢ちゃん」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 和夜って、なんか名前までちょっと顔とあってないな、とミヤは思ったが、流石にそれを口に出すほど馬鹿ではなかった。

 というか、そんなことを言うよりももうここでミヤの中に燻っているたくさんの疑問を聞くことを優先したかった。そのため、ミヤは和夜にたくさんの疑問を投げかける。

「……えっと、和夜さん達、鏖妖組(おうようぐみ)って結局何をやってるんですか?」

「ん、嬢ちゃん知らんやったのかい?」

「あ、はい。あんまりよくわからないままじんのうちに連れて来れられて………」

「ああ……高だからなぁ……」

 そう言った和夜はちょっと遠い目をしていた。そこはかとない苦労が滲み出ていた。

「それでや、嬢ちゃん。鏖妖組ってのは、(あやかし)(みなごろし)にするって書いて鏖妖組って読むんだ。だから仕事内容は、妖を祓うことや。………まぁ、政府にもそういう組織はあるにはあるんやが、あいつら強い妖になると途端に逃げ出すからな。だから基本はそういう強い妖を依頼を受けて、日の輪の国中殺しまくってるんだよ。……どうだ、わかったか?」

「はい、ありがとうございます。………あ、あと異能について詳しく教えてくれませんか?」

「ん、おお。んーそうやなー。異能には一般と個別の二つがあることは知っとるか?」

「はい」

「そうやな、じゃあ……一般異能は日常生活でよく使われてて程度に差があるにしても、練習すれば全員が使えるな。一般は火とか水とか風とか、そういう基本的な異能が使える。そして、もう一つの個別異能は、ごく一握りの人間が生まれつき持っている物で、一般では使えないような高次元の異能を使うことができる。……そうだな、例えば風牙の個別は『風』で一般とは比べ物にならないほどの高火力の風を出すことができる。ついでに言うと、高の個別は『四神』で俺のは『夜』や」

「夜?」

「ああ、それはやな―」 


 ドオォン!!!

 

 和夜が自身の異能について話そうとしていると、急に外から途轍もない爆発音が響いた。

「ッ!?一体何がありやがった?」

『襲撃だー!!!』

 和夜の声に応えるように、遠くからそんな声が聞こえてくる。

「襲撃!?大丈夫なんですか、和夜さん?」

「ああ、ちょっと待ってくれ。今状況を確認する………ああ、吹雪、俺だ。……ああ、襲撃って…………なるほど……わかった。ああ、俺も祓妖(ふつよう)に向かう。おお、気をつけて、じゃあな」

 その言葉を最後に和夜は吹雪との通話をやめ、ミヤに向き直る。

「落ち着いて聞いてくれ、嬢ちゃん。屋敷に妖の大群が入ってきたらしい。まぁ、よくあることなんだが、今回はちょっと数が多い。……俺はこれから妖を祓いに行くんだが、嬢ちゃんもついてきて欲しい。……安心してくれ、嬢ちゃんは俺が死んでも守る」

 正直妖がどんなものかよくわからないし、それがかなり怖いが、初めて見た和夜の真剣な表情に、ミヤの恐怖心は打ち消された。

「はい、足手まといですが、よろしくお願いします」

「おう、任せとき。それに嬢ちゃん守んないと高にどやされちまう」

 そう言った和夜の笑顔に、ミヤも自然と微笑みを浮かべ、二人は和夜の部屋を出て、庭へと歩いていった。


「まぁ、数が多い言うても格下の妖なんやがな」

「ん、格下って妖の強さかなんかですか?」

 鏖妖組屋敷の庭に出た2人だが、襲撃とは思えないほど軽い感じで辺りを散策していた。なんなら、和夜はさっきあくびしていた。

 まぁ、ミヤは襲撃も妖も不安ではあるのだが、こんな緩みきった和夜の様子を見ていたら緊張感も大分薄れてきた。

「それにしても居ねえな〜。………あ、いたいた」

 和夜はその声と共に、ミヤに見せるように和夜の見ていた方向を指さした。

 そこにいたのは……

『きいいいぃぃぃぃぃい!!!』

 大きい。全長は10メートル程あるだろう。その全身は硬い鱗に覆われ、その至る所から不規則に(うごめ)く足が生えている。物体を切り刻むかのように、殺意をありありと浮かべる顎からは、これでもかというほど奇怪で生理的嫌悪を催す声を上げていた。

「な、なんですか……これは!?」

 ミヤは、それが何かを薄々わかっていたが、和也に聞いた。聞くしかなかった。

 こんなにも邪悪なものとは思わなかったのだ。これはそれとは別のイレギュラーだと信じたかったのだ。そうでなければ…そうでなければ、この世界はもう終わりだと本気で考えてしまうから。

「ああ、だからこれが妖や。これは大百足(おおむかで)やな。比較的よくおる」

 しかし、和夜は非情にもミヤの一番求めていない答えを返してきた。

 大百足を見た瞬間に全てを理解した。これは、妖は、人類の敵だ。それはもう、完膚なきまでに。この(おぞ)ましい生物は、人間が滅さなければならない。

 しかし、恐ろしく強い。ミヤの素人目でもわかる。ただの一般人が立ち向かっても、すぐにその四肢を断裂され喰われてしまうだろう。いや、一般人だけではなく、そもそも人間がこんなものに勝てるのだろうか?

 そんな絶望に似た考えが頭の中を駆け巡る。

 偉く、唇が乾く。しかし、それとは逆にデコには嫌な汗が染み渡る。少し、寒気もする。

 圧倒的に絶望的状況。

 しかし、その中で和夜は………

「おお、丁度いい的や。嬢ちゃん、そこでちょっと見とき。異能について知りたいんやろ」

 静かに、されど獰猛に笑みを浮かべると、そのまま大百足の近くに歩いて行った。

「残念なことに『夜』の異能は今は使えんけど、こいつらなら一般で十分やな」

 和夜はそう言うと、スーツの内ポケットから何かを取り出した。その何かは、金属でできていて、握りやすそうで、刺々していて…

「これはなあ、メリケンサックっちゅう……まぁ異国の武器やな。で、これを握って、一般で肉体強化を施す」

 途端、彼のまとう雰囲気が鋭いものに変わった。

 その殺気を大百足は敏感に感じとり、ひどい奇声を上げた刹那、その大顎で和夜を一刀両断するが如く飛びかかってきた。

「それで、こうっ!」

 ミヤはその絶望的な光景に目を瞑る。しかし、いつまで経っても和夜の血肉が地面に落ちる音も、大百足の咀嚼音も聞こえてこなかった。不思議に思ったミヤは、静かに目を開け、見た光景は……

 異常そのものであった。

 そこには今まで同様和夜が立っていて、変わっているのは一つだけだった。

 1匹、大百足の頭がない。丁度、和夜に向かっていった個体の頭が綺麗に消えているのだ。辺りは水を打ったかのように静まり返り、首無しの百足だけがやけに浮いていた。

 しかし、そんな静寂がいつまでも続くわけがなく、それを破ったのは和夜だった。

「ちょ、嬢ちゃん………まぁ、確かにこんな蟲のドタマかち割るの見るのは気色悪いやろうけど、目ぇつぶらんといてくれや」

 和夜がやけに残念そうに言う。なんだろう、少しテンションが高かった。

 そして、そんな会話をいつまでも聞いておくほど大百足たちも優しくない。仲間を殺され、怒り狂った大百足たちが今度は一斉に和也に襲い掛かってくる。

 しかし、それを和夜はまるで赤子をあしらうかのように軽々とその突進攻撃を避け、信じられないほど高く跳ぶと、

「嬢ちゃん、今度は見ててくれよー。………ぃしょっ!」

 重力と異能によって最大まで強化された拳で一体の大百足の頭部を潰した。

 グシャッというなんとも形容し難い気持ち悪い音が響く。

 そして、その出来事の数瞬後、和夜は他の大百足たちも、攻撃を避け、敵の裏や死角に潜り込み、異能を巧みに使い次々と屠っていった。

 大百足は、戦いの音を聞いて、さらにこちらに集まって来たが、その戦力差をもろともせず、和夜は数分の間でそれを蹂躙、虐殺した。屋敷の庭は青とも、緑ともいえる汚い血で染まっていた。

 和夜の戦場での姿は鬼そのもので、その猛々しい勝利を見ていると、不思議と、もう妖への恐怖は薄れていた。

 

 その後にある地獄を知らずに………


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