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大団円はバッドエンドとともに  作者: あんぽんまん
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第四話

 宮殿一階にある国王謁見の間。普段であれば国王と王女が上座に座って賓客を迎え、ブラントは隅に近侍するのが常であるが、今回ばかりは違った。

 両手を後ろ手に縛られた状態で下座に座らされてるのはブラントとヴァラ王女。上座の国王の席に覆面の男。ヴァラ王女は嗚咽するように泣いている。おそらくだが今になって自分を待ち受ける運命に気がついたのであろう。何とか助けたいが、ブラントとしても残念ながらこの状態ではどうすることもできず上座に座る反乱軍のリーダーであろう人物の沙汰を待つことしかできない。

 っとここで反乱軍の覆面のリーダーが初めて声を発した。

「そこの執事の縄を解け」

 そのように自分の部下に指示を出すリーダー。その指示の内容もだが、ブラントが何よりも驚いたのはその声の主であった。

「お、お前……」

 縄を解かれたブラントは痛む手首をさすりながらリーダーの覆面を見つめる。

「気づいたようだな」

 そう言って覆面を外すリーダー。

「ケマラ!」

 その反乱軍のリーダーは果たしてブラントの親友であるケマラだったのだ。視覚的な情報と頭の理解が追いつかず一瞬硬直するブラント。

「ブラントの知り合い……なの?」

 泣きながらそう尋ねる王女の声でブラントは我に返った。

「え、えぇ。孤児院時代からの親友で……」

「ずっと騙していて悪かったブラント……、感謝しているよ」

「感謝……、まさか!お前……!」

 ブラントがその時思い返していたのは宮殿を見つめながら定期的に彼と会っていた時間であった。彼はいつも自分から話すことはせずこちらの話を聞くだけであった。主に宮殿での話、国王の話、そして王女のこと話だ。

「感謝……どういうことなのブラント!?」

「おっと、あまり彼を責めないであげてくれ姫様。彼もまた俺に騙された被害者だ」

「なぜだケマラ……なぜ王家と私を裏切るような真似を……!」

「三年前、俺が傭兵をやめる直前に参加した戦い……。あの戦いで俺はこの国の将来を見た。戦ったのは既に民主化したスルトリア共和国と――どこだったかな、名前を忘れたがとにかく王国だ」

 縄を解かれたブラントと縛られたままのヴァラ王女を前に話し出すブラント。

「まるで大人と子供が戦ってるみたいだったよ。民主化と自由競争により科学技術が進んだスルトリアと未だに王政時代の封建制のもとでの兵装で戦う今は亡き王国。身震いがしたね、この王国が王国であれば……。俺は傭兵をやめスルトリア共和国へ留学した。そこで政治の仕組み、新兵器の製造、商業の仕組みなどを学び、我が国にもっとも不必要なものは王であると結論を下した。俺は国に戻り同士を集うために軍に入った」

「なるほど……とりあえず言いたいことはわかった」

 ブラントはそう言って何やら考えるような素振りを見せながら下座に座っている王女に近づき、座り込むような素振りを見せた。

 ブラントの行動をしばらく黙って見ていたケマラだが、直ぐにその異変に気がつき

「待て!ブラントを抑えろ!」

「チッ」

 そして次の瞬間立ち上がったブラントの手には短剣と、それまで王女を縛っていた縄が握られていた。

「殿下!早く逃げてください!」

 そう言った次の瞬間にはブラントの両腕を反乱軍の兵士が取り押さえていたが、ブラントは両腕を全力で交差させるようにして兵士同士を頭突きさせてから、一直線に目の前のケマラの背後に回り、左手にある縄をケマラの首に回して、あたりの兵士を威圧する。

「王女殿下!早く!」

「あ、あぁ、あぁ!」

 半ば放心状態であった王女だったが、ブラントの怒声にまるで尻を叩かれた馬のように兵士の間を縫って逃げ出した。

 一方の兵士たちはケマラを人質に取られてことで、ブラントにマスケットを向けるが、ケマラはそれを下ろすようにハンドシグナルで指示を出す。

 そのまま誰も一言も発さぬまま時間だけが過ぎていく。が、三十秒ほど経ってブラントがケマラの首を絞めつけていた縄を緩める。

「ケマラ、感謝するよ……」

「わかっていたか」

「俺がお前に喧嘩で勝ったことはない、抵抗しない時点で見透かされていることに気づいていたさ」

「気に病むことはない。俺もお前を騙していた貸しを返したかったことだし」

 そう言ってケマラはいとも容易くブラントの拘束を脱し、反乱軍を引き連れ部屋を後にする。

「俺は今から王女殿下を探し出す、ついてくるというなら歓迎するぞ」

「私を殺さないのか?」

「俺がこの国から処分したいのは貴族と王族だけ。だがお前はどちらでもない、仲間に加わる気もないなら俺の方からもうお前に用はない。他に何か言っておきたいことはあるか」

「一生のお願いだ……、王女殿下の命だけは……」

「すまないが先を急ぐぞ」




 不潔な泥の跡があちこちに付いた宮殿内。全盛期呼ばれた「華の宮殿」という名もこうなってしまえばただの皮肉にしか聞こえないほどに汚れた宮殿の廊下を歩きながらブラントは考え込んでいた。

(話を聞いたときからわかっていた……。彼は王女殿下を殺す気だ……。なんとか逃がせはしたもののケマラは優秀だ……。殿下といえど彼の手から逃れることなど……)

 王女が親友の手によって殺される、そのような悪夢を考えるだけでも吐き気がしそうである。

(殿下を本気で助け出すとして……、おそらく捕まると仮定して行動したほうがいいか)

 そう決意を新たにするブラントであった。

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