第五話
あらすじで四話で完結とか言いながら続いちゃいましたね。
あともうちょっとだけです
それから数分後、先程と同じ国王謁見の間。あえなく捕まったヴァラ王女が引き立てられ、先程と全く同じ場所に座らされる。そして上座には同じくケマラが座る。
「さて……ヴァラ王女殿下。いきなり本題に入らせてもらおうか。あなたの処遇についてだ」
ヴァラの肩がびくりと震え、歯がガチガチと鳴り始める。
状況が先程と同じとは言え、先程はブラントがまだ一緒だった。しかしそれすらない今あまりの恐怖に声すら出ない。
「先ほどブラントから嘆願があってね。命だけは助けてやってくれ、と……。まぁ親友の頼みを無下にはしたくないとはいえお咎めなしともいかないもので……。あなたに恨みがあるわけでもないから心苦しいことこの上ないが、革命が成った今王族だけを生かしておいては、軍にも民にも示しがつかない。お分かりになるかな?」
「……」
返事などできない。というよりケマラの声は聞こえてはいても今のヴァラには聞こえてないにも等しかった。どんな言葉も彼女には意味がない、自分は死ぬという事実だけが頭の中をゆき巡っているのだ。
「だが、あなたの死が無駄死にになるようなことはしない。それだけは約束しよう。あなた亡き後はまず支配者の世襲制を廃止し、才能あるものが国を治められるよう法整備をする。それから身分や職業の固定化、これも廃止し結婚などに関しても――」
「……けて……」
もはやヴァラの心身は限界を迎えていた。
「なんですって?」
「た……、けて……と」
「助けて、と言っているのかな?」
「た、助けて……助けて、ブラントおおおおおおおおおお!!!!」
叫びなのか慟哭なのか区別もつかない涙声を上げ、ついに失神するヴァラ。
それを困惑するかのような表情でケマラは見つめていた。
(確かにこのお方に関しては酷な話か、新しい時代のためとは言え最大の犠牲者はこの方かもしれないな。だが仮にも王族を処罰しないわけには……)
ケマラが目の前の少女を哀れんでいたところ「報告!ケマラ様に至急報告!」と叫びながら伝令が入って来る。
「ケマラ様、大変です!こちらへ向かう鎮圧軍と思われる軍勢を発見したという報告が入りました!至急確認を!」
「鎮圧軍……?はて、付近に出動できる軍団がないことは確認済みなはずだが……」
さて、帽子を深くかぶり、表情を隠していたとはいえ、普段の冷静なケマラであれば目の前の伝令は偽物であり、その正体はブラントだと見抜いていただろう。
しかし革命直後の混乱と"至急"、"鎮圧軍"という言葉がケマラの判断力に一瞬の隙を与えた。
ケマラが一瞬考え込んだ瞬間、伝令姿のブラントは懐から小さな陶器の壺を取り出して床へ叩きつける。壺が割れ、黒煙が一気に噴き出す。
ケマラは一瞬で事態を把握した。
「くっ!伝令はブラントか!」
パニックになる反乱軍たちの騒ぎ声にまぎれて聞こえてきたのは窓ガラスが砕ける音だった。
「窓だ!窓から逃げたぞ!」
ガラスが割れた音を聞いた兵士たちは窓から逃げたと思しきブラントと王女を追って一斉に窓ガラスへ殺到する
だがケマラの命令が響く。
「窓じゃない!部屋の入口だ!」
だが、ケマラの声がパニックに陥った部下たちに届くには時間がかかった。
窓に向かおうとする部下を押しのけ廊下に出たときにはもうすでに無人になっている廊下を確認する。
「やられたなぁ......」
無人の廊下を眺め、ケマラは苦笑いをしながらそう呟くのだった。
一方気絶した王女を抱えて廊下を走り抜けるブラント。
我ながら無理な脱出劇ではあったが一応行先は決まっていた。
(この宮殿にはいくつか存在する外へ出られる抜け道とそれに通じる入り口……、聞かされてて助かった……)
このような有事の際には外に通じる抜け道があるという話は常々聞かされていた。
聞かされた当時は本当に宮殿にはあるのだと目を輝かせたものだが、役に立つ状況というのはあまり楽しいものではないなとブラントは心の中で苦笑いをした。
(ここから一番近い入り口となると確か……キッチンの地下室に隠し扉があったはず)
そう考え、キッチンへと通じる通路へ曲がろうとしたところで背後から聞こえる銃声がブラントの足を止める。
自分を撃とうとして外したものではない、明らかに自分への威嚇射撃としての発砲音であった。
「ブラント……お前っていうのは公私のしっかりした奴で、俺に宮廷内の話をするときでさえ、公務やセキュリティにかかわることは一切口にしなかったな」
銃声に引き続き聞く聞きなれた声でブラントは王女を抱えたままゆっくりと振り返る。
「だが、宮殿内の情報源がお前一人だけだと思ったか?」
「……」
追い詰められ、愕然とした気持ちとやはりケマラを出し抜くのは無理だったかという妙な納得感でブラントは複雑な表情になる。
「お前に用がないといったのは、見逃してやるという意味だったんだが、通じなかったか?それとも通じてなお逆らうのか?」
「……」
「本気で彼女を助けられるとまだ思っているのか?」
「いや、お前は優秀だ。私が逆立ちしたところで彼女を助けることは不可能に近いということは理解している。だが、可能性が一つでも残っているなら、試さないという選択はできない。そして失敗した今は――」
「今は……?」
助けることなど不可能だとわかっていてまだ先を続けようとするブラントにケマラは非常に興味を持つ。
「一緒に処刑してくれ」
予想外の言葉にケマラの眉が動いた。
「孤独に死ぬことよりも恐ろしいことを私は知らない。殿下とてそれは同じ。もはや彼女を助けることはできないが彼女と同じ処刑台に送られることで、助けることはできずとも救うことはできるかもしれない。もう命だけは助けてやってくれなどとは頼まない……だが、もし彼女を処刑台に送るのであれば、せめて私をともに。殿下を一人で死なせないでくれ」
「……」
並々ならぬブラントの決意の言葉に、沈着なケマラも少し表情が震える。
まともではない、そうも考えたが、ブラントがいたって本気であることは見て明らかであった。
「……わかった、ブラント・ステラ。ではお前とヴァラ王女の処遇をこの場にて伝えるとしよう」
そう言ってケマラは息を吸い、ブラントは覚悟を決め、目をつぶった。




