↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『同調圧力―みんな、打つのが当たり前』<< Atonement >>  作者: 東曌


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/12

エピローグ 考えることを、諦めない

【エピローグ 考えることを、諦めない】


人間は、いつの時代も、集団の中で過ちを犯してきた。


恐怖に包まれたとき。

不安に耐えられなくなったとき。

自分ひとりで判断することが怖くなったとき。


人は、誰かの言葉にすがり、周囲の反応を確かめ、みんなと同じであることに安心しようとする。


そして、いつしか、自分で考えることよりも、みんなが考えているように見えることを信じるようになる。


誰もが賛成しているように見えた。

誰も反対しなかった。

誰も、疑問を口にしなかった。


だから、きっと、これで正しいのだろう。


けれど、本当にそうだったのだろうか。


沈黙は、同意だったのだろうか。

善意は、誰も傷つけなかったのだろうか。

大勢が信じていることは、それだけで正しいのだろうか。


人間には、自分が信じたいものを信じ、目の前の異変をたいしたことではないと思いたくなる心がある。


それは、特別な誰かだけが持つ弱さではない。


私たちの誰もが、その心を持っている。


だからこそ、考えることを諦めてはいけない。


自分が安心できる答えを見つけたときこそ、もう一度、立ち止まってみる。


自分と違う意見に出会ったときこそ、その人が何を見て、何を恐れ、何を伝えようとしているのか、耳を傾けてみる。


そして、自分の正しさが揺らいだとき、それを恐れるあまり、誰かの声を封じてしまわないようにする。


疑うことと、否定することは違う。


問いかけることと、協力しないことも違う。


違う意見を持つことと、誰かを傷つけることも、同じではない。


私たちは、いつも正しい人間でいることはできない。


思い込みにとらわれることもある。

誰かの言葉を誤解することもある。

善意のつもりで、誰かを追い詰めてしまうこともある。


大切なのは、決して間違えないことではない。


自分もまた、間違えるかもしれないと知っていること。


そして、間違いに気づいたとき、考え直すことを諦めないことだ。


「みんながそう言っているから」


その言葉の向こう側に、声を出せずにいる人はいないだろうか。


「みんなのためだから」


その言葉によって、誰かの自由や尊厳が置き去りにされてはいないだろうか。


「これが正しいことだから」


そう信じる自分は、別の可能性に目を閉ざしてはいないだろうか。


歴史は、過去の人々だけがつくるものではない。


私たちの日々の判断も、誰かにかける言葉も、口にしなかった疑問も、やがて、歴史の一部になっていく。


だから、忘れないでいたい。


集団の中にいる自分を。

自分の中にもある思い込みを。

そして、まだ聞いていない誰かの声を。


人心を求めることは、悪いことではない。


誰かに理解してほしい。

誰かとつながっていたい。

ひとりではないと感じたい。


それは、人間の自然な願いだ。


けれど、その願いが、みんなと同じであることを強いるものになったとき。


私たちは、もう一度、問い直さなければならない。


自分は、本当に相手の心を求めているのだろうか。


それとも、自分と同じ答えを返してくれる人を求めているだけなのだろうか。


答えは、簡単には見つからない。


それでも、考えることを諦めない。


誰かの声に耳を傾けることを諦めない。


自分の正しさを、何度でも問い直すことを諦めない。


その小さな積み重ねが、次の過ちを防ぐ力になるのかもしれない。


そして、いつか、誰かが声を上げたとき。


その声を、みんなと違うという理由だけで、消してしまわないために。


**みんなって、誰なんだろう。**


その問いを、私たちは、これからも忘れてはならない。

【謝意と敬意】


本作『同調圧力―みんな、打つのが当たり前』を執筆するにあたり、アーサー・ミラーの戯曲『るつぼ』、そしてイアン・マキューアンの小説『つぐない』から、多くの示唆を受けました。


『るつぼ』が描く、恐怖と疑念が人々の判断を揺さぶり、集団の中で個人が追い詰められていく姿。


『つぐない』が問いかける、他者の行動を解釈することの危うさ、誤った理解がもたらす傷、そして過ちを犯した人間が償いと向き合うことの難しさ。


これらの作品から受け取った問題意識は、本作の人物造形と物語の根幹を考えるうえで、大切な手がかりとなりました。


本作は、両作品の物語を再現するものではありません。また、両作品の主題や歴史的背景が、そのまま本作と同一であると考えるものでもありません。


それぞれの作品が投げかける問いに学びながら、現代社会における同調圧力、善意と責任、沈黙と合意、そして人間が自らの正しさを問い直すことの意味を、独自の物語として描こうと試みたものです。


偉大な先行作品と、その創作を通じて読者に問いを残してきた作家たちに、深い敬意と感謝を表します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。