第001話 ゴミ箱を洗え
午後六時。
礼拝堂のスクリーンには静聴会の紋章が映っている。
教祖・天城修は演台の前に立ち、マイクへ手を伸ばした。
静寂。
『『拝聴せよ。』』
全員が自然と姿勢を正す。
天城だけが、その先の声へ耳を澄ませた。
そして神は告げた。
『ゴミ箱を洗え。』
数秒。さらに補足が続く。
『袋だけ替えて満足しがちだからな。』
また少し間が空く。
『ふたの裏も。』
さらに。
『意外と忘れる。』
天城はマイクを握り直した。
「神託が下った。」
礼拝堂が静まる。
「ゴミ箱を洗え。」
「袋だけ替えて満足しがちだからな、との仰せです。」
古参信徒・熊谷正志がゆっくりとうなずく。
「教祖様。」
「これは心の汚れを洗い流せという——」
天城は首をかしげた。
「違う気がする。」
「ふたの裏も、と仰せだ。」
熊谷は少し考えた。
「ふたの裏とは……。」
「人の心の裏側を——」
「違うと思う。」
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礼拝後。
本部の信徒たちは、本当にゴミ箱を洗い始めた。
台所。
廊下。
礼拝堂の隅。
次々とゴミ袋を外し
水で流し、ふたの裏まで丁寧に拭いていく。
経理係の黒田守が、鼻をひくつかせた。
「……臭わなくなりました。」
熊谷が満足そうにうなずく。
「神の御業です。」
天城は苦笑した。
「いや、洗ったからでは。」
熊谷は真剣な顔で答える。
「神託がなければ、洗わなかった。」
天城は少し考えた。そして、小さく笑う。
「それは……そうか。」
礼拝堂の空気は、今日も少しだけ軽かった。
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【教団報告】記録係:山田
神託「ゴミ箱を洗え。」
実施率
本部:100%
備考
「ふたの裏」を忘れた者:二名
追伸
「思ったより臭かった。」




