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エピローグ ツムギ

これは、旅立った少年の話ではない。


その背中を追いかけた少女の話だ。


エピローグ ツムギ

知ってる。


クレがこの村を出て行こうとしてること。


たぶん。


私より、クレ本人の方がちゃんと分かっていない。


荷物をまとめていた。

隠しているつもりだったんだと思う。


でも、全然隠せていなかった。


クレは人を見るのは上手い。

観察するのも得意だ。

ちょっとした違和感にもすぐ気付く。


なのに、自分のことになると本当に駄目だ。


最近のクレは、ずっと変だった。


村人に話しかけられるたびに困った顔をする。

褒められるたびに目を逸らす。

ありがとうと言われるたびに、少し苦しそうな顔をする。


だから分かった。


クレは逃げる。


たぶん、昔から何度もそうしてきたんだと思う。

今回もきっと同じだ。


嫌いだからじゃない。


怖いからでもない。


背負えないから。


クレはそういう人だ。


優しいのに、

優しくないふりをする。


嬉しいのに、

嬉しくないふりをする。


寂しいのに、

平気なふりをする。


本当に、変な人だと思う。


グリムベアの日を思い出す。


返り血。

震える手。

苦しそうな呼吸。


あの時、本当に死ぬと思った。


怖かった。


今でも思い出すと少し怖い。


だから最初は、本当にそれだけでよかった。


生きていてくれるだけでいい。


そう思っていた。


「……嘘だけど」


小さく笑う。


本当は違う。


もっと話したい。

もっと知りたい。

もっと一緒にいたい。


もっと。

もっと。


欲張りだと思う。


でも、仕方がない。


好きだから。


窓の外を見る。


朝日が昇り始めていた。


今頃、クレは村の出口にいるはずだ。


きっと泣きそうな顔をしている。


本人は絶対に認めないだろうけど。


「……」


私は立ち上がる。


荷物はまとめてある。

昨日のうちに、ちゃんと。


畑は大丈夫。

村のみんながいる。

なんとかなる。


たぶん。

きっと。


不安はある。


怖さもある。


でも、クレの方がもっと怖いはずだ。


一人で背負って、

一人で決めて、

一人で逃げようとしている。


だったら。


今度は私が追いかける。


クレはきっと驚く。

意味が分からないって言う。

何を考えてるんだ、とも言う。


全部想像できた。


少しだけ笑う。


本当に、変な人だ。


でも、私は知っている。


クレは逃げる。


逃げながらでも、前に進もうとする人だ。


だったら。

その隣を歩くのは、たぶん私でもいい。


ううん。


私がいい。


好きだから。


クレが逃げるなら、私は追いかける。

クレが立ち止まるなら、隣で待つ。

クレがまた一人でいなくなろうとするなら、今度はちゃんと手を掴む。


だって私は、もう決めたから。


私はクレが好きだ。


だから、どこへだってついていく。


第一章 完

7月1日〜

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