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自作小説倶楽部 第20冊/2020年上半期(第115-120集)  作者: 自作小説倶楽部
第120集(2020年6月)/「生物(紫陽花 蛍 蝸牛)&抽象(魔法・Xデー《=滅亡前夜・仏滅13日金曜日》・大人の事情《心変わり》)
22/26

01 奄美剣星 著  生物(蝸牛) 『ヒスカラ王国の晩鐘 第3話』

あらすじ


勇者とは、超戦士である大帝を討ち果たすことができる王国唯一の超戦士のことをさす。二五年前、王都防衛戦で帝国のユンリイ大帝と刺し違えた指揮官ボルハイム卿がそうだ。やがて二人の超戦士がそれぞれ復活。暫定的な講和条約が破綻しようとしていた。そして、大陸九割を版図とする連合種族帝国が、最後に残った人類王国ヒスカラを併呑しょうとする間際、15歳の女王は自らを依代に勇者転生を決断した。


挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「オフィーリア女王の肖像」





挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星「ノスト大陸概略地図」


     第3話 蝸牛


 蓮ノ内海。

 王国統合軍第三工廠に敷設された飛空艇滑走路は、セメント舗装されており、先端がスロープになって内海海中まで続いている。王都から三〇〇ガロス西方にある沖合で着水した巡洋艦型飛空艇が、内海に臨んだ王国統合軍第三工廠に揚陸した。

 オフィーリア女王は、王国護国卿・灰色猫アンジェロの巡洋艦型飛空艇パルコに乗艦し、第三工廠滑走路に降り立ったとき、波打ち際に群れるおびただしい数のアジサシの、騒がしい鳴き声を聞いた。

 アンジェロ卿のほかに女王に随行していたのは、女王顧問レディー・デルフィーと、飛空艇を護衛飛行してきたロシナンテ戦闘機飛行中隊のドン・ファン大尉だ。

 優男のドン・ファン大尉が誰にともなく言った。

「第三工廠といえば、一〇年前に生じた〈ゲート〉開放で、異界から男女十人の学者たちが迷い込んできた。異界学者たちが、ノスト大陸の随所にある飛行石鉱脈を採掘し、飛行船、飛行機、ヒューマノイドのレディー・デルフィーまで製作したって噂だな」

「第三工廠の存在は軍事機密で、元老院議員でもその存在を知る者はごく僅か。ドン・ファン大尉、ここで見たことは他言無用に願います」

 女王に似せて造られたヒューマノイドの女王顧問官レディー・デルフィーが、大尉に釘をさした。

 第三工廠のある蓮ノ内海沿岸は広大な砂漠内部のオアシス地帯になっており、他の地域からは砂漠で隔絶していた。第三工廠と関係者居住区・商業区は、星稜形土塁に囲われて人口一〇万からなる軍事都市エトワレを形成している。

 エトワレ市長を兼務する第三工廠総支配人は、三〇少し前に見える女性マーコ・シオジ博士で、幼い姪を伴い、他の主要な技官らと女王一行を出迎えた。マーコ・シオジは細身で四肢が長く、黒髪を腰まで伸ばしていた。切れ長の目で耳が長い。ゆえに部下たちはその容姿から彼女を〈エルフ〉と渾名していた。

 女王を先導する灰色猫が、〈エルフ〉に尋ねた。

「注文の品は?」

「こちらへ」

 薄暗い煉瓦棟内部には、完成した改良型シシイ戦闘機五機が並べてあった。〈エルフ〉によると、そのうちの一機は女王専用機だという。汎用戦闘機コクピットは単座だが、この女王専用機は複座になっており、やや大きかった。

 戦闘機の脚部横の床には、波乗り板によく似たものが横に置かれ、さらに両脇に二門からなる機銃が置かれている。〈エルフ〉が目配せすると、職工たち四人が手早くそれらを主翼下部に装着した。

 ドン・ファン大尉は刮目した。

「シシイ装着用ではない。シオジ博士、一体、これは何なんだ?」

「女王専用シシイをレディー・シルフィーが操縦して、標的を見つけ次第、コクピット後部席にいる陛下を機外へ射出、続いて『波乗り板』エアロフィン、機銃二門を切り離す。そこで空中におわす陛下が、エアロフィンに乗り、機銃二門を従えて標的を撃破します」

「標的って?」

「言わずと知れたユンリイ大帝。……近く復活するでしょう大帝を討てるのは勇者ボルハイム卿の魂魄を宿す女王陛下ただお一人」

「つまりこれは切り札というか、帝国軍相手に用いる最終的な決闘用兵器というわけだな」

 異界からやってきた女性学者がうなずいた。

 十年前の異界ゲート創出は、シオジ博士たちがいた世界での〈量子衝突〉実験で生じた事故だという。このために彼らの宇宙は消滅し、第三工廠を仕切る十名の科学者を含む人々と、機材を〈こちら側〉に吹き飛ばされてきたのだ。


          *


 軍事都市エトワレで〈戦略物資〉を受領したアンジェロ専用巡洋艦型飛空艇パルコは、ヒスカラ王国同名にはまっすぐ帰ることなく、北極圏経由で連合種族帝国領畿内上空へ侵入した。つまりは武装偵察だ。途中、王国領国境付近の基地から、空母型飛空艇を含む三隻からなる艦隊が合流してきた。だからドン・ファン大尉麾下ロシナンテ戦闘機飛行中隊全機は、空母に収容され、翼を休ませることができた。

 ――カタツムリ?

 ボルハイム卿の魂魄を〈移し身〉されたオフィーリア女王が、大賢者の灰色猫に訊き返した。

「〈浮遊蝸牛〉は超巨大絶滅生物で、成体は島ほどの大きさなる。洋上空中に漂い、触手状の口を伸ばして、栄養源となる海中に溶けた大量の鉱物を摂取し、体内で浮遊物質を作り出した。〈飛行石〉鉱脈は、〈浮遊蝸牛〉の亡骸が化石化したものだ。……先の大戦で帝国軍が圧倒的な優勢に立てたのは、浮遊蝸牛成体化石を手に入れ要塞化したことによるところが大きい。そこを子飼いの天翔ける騎馬民族・翅象族と竜眼蟲の〈巣〉にして、王国軍を上空から襲わせたところにある」

 噂をすれば影だ。

 巡洋艦型飛空艇パルコには、第三工廠の学者たちが考案したレーダーが搭載されている。レーダーが飛ばした電波が反射して戻り、モニターに大型飛行物体の存在を乗員に知らしめた。

 ――私は敵の切り札というものを知りたい。早速、〈蝸牛〉見物だ!

 巡洋艦型飛空艇パルコ艦載機は、シシイ型戦闘機を改装した偵察機と、女王専用機との二機からなっている。複座コクピットにレディー・デルフィーと女王とが乗り込むと、飛空艇後尾カタパルトから、女王専用機が射出された。

「女王陛下、護衛機も連れずによいのですか?」

「ロシナンテ飛行中隊を引き連れれば目立ちすぎる」

 やがて、女王専用機は浮遊島〈蝸牛〉上空にやってきた。


 帝国の浮遊島〈蝸牛〉は、直径一ガロスからなる巨大な巻貝化石で、そこに多数の大型プロペラエンジンや帆を張り、空中を航行する。浮遊島の側縁及び下部には、おびただしい数の砲門や、爆弾投下用の窓が設けられていた。

 

「思った通り〈蝸牛〉は、母艦的機能と爆撃的機能を主要機能にした移動要塞だ。このため、火力の大半は下を向いている。ゆえに攻略するならば、真上から乗り込むことなる」

 〈蝸牛〉が空母だとすれば、艦上戦闘機は翅象族が操る大型トンボの竜眼蟲だ。浮遊島を飛び立った多数の竜眼蟲は、六本脚で機銃を抱え、七〇体の大群で女王専用機を半包囲して十字砲火を浴びせんとした。

「レディー・デルフィー、エアロフィンを試してみたい。シシイから射出する」

 勇者ボルハイム卿の魂魄を宿したオフィーリア女王が、女王専用機後部座席にあるレバーを思いっきり引っ張ると、シートが空中に射出された。次の瞬間、専用機胴部下に装着されたエアロフィンと、二門の機銃も切り離された。

 女王が射出される直前、容姿のよく似た顧問官が注意した。

「陛下、また殿方のお言葉に。はしたのうございます!」

 すると、主を追い駆けてきた〈波乗り板〉がオフィーリアを拾い上げ、両側を機銃二門が彼女を守った。

 そのオフィーリア女王は、ゴーグルに飛行服姿であるのだが、優雅に、「ごめんあそばせ」とスカートの両端をつまむ淑女の作法カーテシーを模しながら、小首を傾げていた。

 エアロフィンにせよ、シシイ機にせよ、最高時速七五〇キロガロスを誇っており、せいぜい一〇〇キロガロスの大型トンボの竜眼蟲を速度面で圧倒し、余裕で逃げきることができた。その際、女王と顧問官は竜眼蟲一体をそれぞれ撃墜し、初スコアにした。


          ノート20200613

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「翅象種族と竜眼蟲」



挿絵(By みてみん)


〈ヒスカラ(人類)王国〉


01 オフィーリア・ヒスカラ三世女王……転生を繰り返す王国の英雄ボルハイム卿の依代。ボルハイム卿は25年前の王都防衛戦総司令官となり、帝国のユンリイ大帝と相討ちになった。卿は、その後、帝国辺境の町モアで少年テオを依代に復活、診療医となるも流行り病で没し、女王の身体を依代に、再び王国側に転生した。ヒスカラ暦七〇二〇年春現在15歳。


02 アンジェロ卿……灰色猫の身体を依代に、古の賢者の魂魄を宿す王国護国卿。事実上の王国摂政で国家の最高決定権がある。ボルハイム卿の移し身も彼が執り行ったものだ。巡洋艦型飛空艇パルコを居館代わりに使用している。

十年前に異界工房都市の〈量子衝突〉実験で事故が生じて〈ゲート〉が開き、男女十人からなる異界の学者たちが迷い込んできた。学者たちは、ノスト大陸の随所にある飛行石鉱脈を採掘し、水素やヘリュウムの代わりに、飛行石をつかった飛行船の一種・飛空艇を開発した。

アンジェロ卿は彼らを自らのブレーンにした。ヒューマノイドのレディー・デルフィー、ドン・ファン大尉のロシナンテ戦闘機飛行中隊の戦闘機シシイも、異界学者たちが製作したものだ。


03 レディー・デルフィー(デルフィー・エラツム)……教育・護衛を職掌とする女王顧問官で、年齢、背格好、翡翠色の髪まで似せたヒューマノイドだ。オフィーリア女王の目が大きいのに対し、レディー・デルフィーは切れ長になっているのは、彼女の製作者が女王との差別化を図ったためである。レディーは衣装を女王とそろえ、寝台も同じくしているが「百合」関係はない。さらに伊達眼鏡を愛用する。


04 ドン・ファン・デ・ガウディカ大尉……二五年前連合獣人帝国によって滅ぼされたガウディカ王国国王の息子。大尉の父王は、滅亡直前にヒスカラ王国に亡命してきて客分となり、亡国の国王はヒスカラ王族の娘を妃に迎えて彼が生まれた。つまるところオフェイリアの従兄弟で幼馴染、そして国は滅んでいるがガウディカ王太子の称号がある。女王より二歳年長のドン・ファンは、「オフィーリアを嫁さんにして、兵を借り、故国を奪還するんだ」というのが口癖。主翼の幅一〇フット後部にエンジンを取り付けたシシイ型プロペラ戦闘機の愛機に「ロシナンテ」と名付け、同名の飛行中隊20機の指揮官に収まっている。



〈連合種族帝国〉


01 ユンリイ大帝……一代でノスト大陸9割を征服し大帝国を築き上げた英雄。あまたの種族を従えていた。25年前の王都攻略戦で、ボルハイム卿の奇襲を受け相討ちになるも、帝国臣民に復活を待望されている。比類なき名君。


02 テオ……帝国の版図に収まった辺境都市モアで診療所を開いていた猫象種族の。帝国側道士によってボルハイム卿の魂魄が移し身されるとき10歳の少年だった。すでに両親はなく、看護師の姉ピアに愛情深く育てられた。本来は大帝復活のための依代であったが、大帝の遺言により、ボルハイム卿が王国側で復活しないようにするための措置で、テオはボルハイム卿の依代となった。町から出ることを許されず、事実上の軟禁状態にあった。その後25年後、流行り病で没し、共同墓地に葬られた。猫象種族の妻を娶り、二男三女をもうけた。


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