表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲーのモブですらないんだがー番外編ー  作者: 玉露


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/56

side39.子守唄

※コミカライズ5巻以降



「やぁ、ヴィア。今日も女神のような美しさだね」


昼下がりに帰宅した夫が、いの一番に自室へ会いにきた。その開口一番がこれだ。毎日のようにいって飽きないのかと思うのだが、彼は何度でも君に恋をすると豪語し、実際に毎度新鮮さをもって口にする。だからか、オクタヴィアの耳にも快く聴こえ、何度でも心をくすぐってくるのだ。

淡い金糸の髪に、(たお)やかに笑む桃色(ももいろ)の瞳には意思の強さが秘められている。流水のように流れる髪も透き通るような白い肌も、豊満な胸元でありながら華奢な手足も、造形美が集約されており、誰もジェラルドの讃美を過分と思わないだろう。


「ああ、だが万人のための神であっては困るな。私だけの女神でいてほしいから、君が人間でよかったよ」


「ふふ、(わたくし)貴方(あなた)だけを見ていたいので、外野を視界に入れないといけない神格など御免(ごめん)(こうむ)りますわ。ジェラルド様」


オクタヴィアも、愛する者だけしか構う気はない。社交界というものは様々な思惑が巡る。大事にするものが何かを正確に把握し、揺るがないようにしていなければ、簡単に他者に絡めとられる場所だ。だからこそ、揺るぎない愛を得られた幸運に感謝する。

ジェラルドは、妻の言葉に感極まり抱きしめる。それに妻もやわらかく抱き返した。


「そういえば、フローラはどうしたんだい?」


二人の間に空間を作って抱く癖がついてしまっていた。その空間に収まるはずの存在がないことに、ジェラルドは珍しさを感じる。自身で歩けるようになってきた娘だが、母親の(ひざ)のうえがお気に入りの場所なのに。


「寝室ですわ。ディアが寝かしつけてくれて、二人でお昼寝中なの」


次女のフローラが、姉のリュディアの手を握って離さなかったらしい。そのため、そのまま寝かしつけを頼んだところ、長女のリュディアまで寝入ってしまったらしい。


「雨音が心地よかったんでしょうね」


妻とともに耳を澄ますと、窓の向こうでしとしとと雨音の子守唄が聴こえた。これに加えて、体温の高い小さな手や健やかな寝息が傍にあれば、夢路に誘われるのも道理だ。


「素晴らしい光景に違いないが、天使たちの眠りを妨げてはいけないね」


姉妹で仲良く眠る姿は想像するだけでも、十二分に愛らしい。ぜひ拝みたいと願望が湧くが、ジェラルドはぐっと堪える。


「特に、ディアは頑張り屋さんだからね」


「それに甘えるのも下手だわ。だからこそ、からかい甲斐があるのだけれど」


父への尊敬、母への憧れ、公爵家に生まれた誇り。それらを素直に抱いてくれたのは喜ばしくはあるが、そのために長女は気負いすぎる嫌いがある。妹が生まれたばかりの頃の行き過ぎた厳しさでの横暴な行動は、素直に甘えることができないゆえの唯一の発露だったのだろう。そのため、あの頃は発散すら抑え込むのは、と対処に踏み切れなかった。

ひとりで抱えていたものを吐き出せる相手ができてからは、ずいぶんと表情がやわらかくなった。それでも、本来の生真面目な気質はそのままなので、今回のような不意に湧いた息抜きは歓迎する。


「そういうヴィアも、あまり人に甘えないだろう」


(わたくし)は、相手を選んでいるのよ。ジェラルド様だから、存分に甘えられるわ」


「それは光栄だ。もっと困るぐらい甘えてくれてもいいんだけどね」


「甘やかしすぎよ」


「ほら、自分で律するじゃないか。やはり、ディアは君に似たんだ」


喜ぶ様子しか浮かばず、自分が彼を困らせるのは難しいだろうとオクタヴィアが笑みを零すと、長女が自分似だと断定された。気を許した相手限定で感情が顔に表れやすいところは、夫似だと反論が浮んだ。だが、論点はそこではないので、思うに留める。


「なら、甘えたいときに甘えられる相手がもう見つかって、ディアは幸運ね」


自分がジェラルドと出会ったのは学生の時分のことだった。それまでに(したた)かになった自分と違い、彼と親しくなっていなかったら、娘は固さが残ったままその歳まで成長したかもしれない。


「頑張り屋といえば、彼もだね」


妻の挙げた人物に思い至り、ジェラルドは娘との共通点を憂う。


「好きなことに真っ直ぐなだけじゃなく、できることを抱え込みやすいから」


できないことまで無理をすることはないが、努力で及ぶ範囲で自身でやると決断したものに対して努力を積み重ねる性質(たち)がある。己の判断に責任をもつのは美徳ではあるが、彼もなんだかんだと甘える頻度は少ないようなので、いささか心配になる。


「私までイザークに甘えてしまっている」


抱え込みすぎないかと心配しておきながら、自分も増やしてしまっている。子どもの域をでない彼に頼ってしまい、不甲斐なさを感じ、ジェラルドは淡い青の瞳を伏せる。


「あら、そうなの?」


「きっかけ程度でもいいから変化がほしいことがあってね。それを、彼に頼んだんだ」


友人が会うたびに憔悴(しょうすい)してゆく様子を見ていられず、きっかけを求めた。彼が適任だったのは、単なる偶然だというのに。髪と瞳の色が同じの同世代というだけ。彼自身に選択させたとはいえ、彼の優しさに甘えたことに変わりはない。


「後悔しているの?」


「いや、彼に頼んでよかったと思っているよ」


庭師見習いの少年と友人を引き合わせたことに後悔はない。

同じ視点でも、できることできないことがある。大人では友人とその妻の懐に入ることなどできなかった。子どもの彼だから成し得ていることだ。

妻が食事をきちんととるようになったなど、ささいな変化を喜ぶ友人に、ジェラルドは友人こそ血色が戻り、表情が豊かになったことに安堵した。妻第一で自身を二の次にする友人が、自身にも気を回せるようになったのは喜ばしい限りだ。


「なら、いいじゃない。文句を言われたときにしっかり受け止めれば」


よい結果を得られているのであれば、喜んでおけばいい。不満や苦情がでてから、それを受け止め憂えればよいのだと、オクタヴィアは断じた。

憂慮すら結果論でいいといわれ、ジェラルドは眼を丸くする。それから、可笑しさが湧いた。


「言ってくれるかな」


「イザーク君が本当に無理していたら、きっとディアが気付くわ。貴方のせいだって分かったら、叱られるかもね」


「ディアは怒った顔も愛らしいから、弱るな」


誰かのために怒ることができるぐらい優しい子に育ったなら、良いことだ。その成長も含めて自分が喜んでしまいそうで、ジェラルドはそうならないことを祈る。できるなら、彼自身から苦情を申し立ててもらわねば、愛娘に嫌われてしまう。けれど、それはそれで彼と気安い関係になれたことを喜んでしまうかもしれない。難しい問題だ。

どちらに怒られても嬉しいと悩む夫が、オクタヴィアには可笑しい。彼の愛情深さゆえの悩み方だ。


「子どもに甘えられたら、嬉しいものね」


「ああ、甘えてくれない子ほどね」


ジェラルドは、愛娘に交換日記をしたいとお願いされた日を記念日にして毎年祝おうとして、執事と愛娘本人に止められたほどだ。だが、それだけの歓喜であった。フローラのように素直に甘えてくれるのも嬉しいが、甘えてくれる機会の少ない相手だとその喜びも一入(ひとしお)なのだ。


「なら、(わたくし)も甘やかしてくださる?」


「喜んで、最愛のヴィア」


子どもたちの話をしていたところで、オクタヴィアがそうおどけると二つ返事で了承が返った。

目の前の彼女も、まさしくジェラルドがもっと甘えてほしい人だ。


「今なら、隙間なんていらないのよ」


そう腕を首の後ろへ回される。ジェラルドは、乞われたままに隙間などなくなるほど妻を強く抱きしめた。満足げに身をゆだねる妻へ、ひたすら愛しさが湧く。


「危うく、君を全身で感じる機会を逃すところだったな」


甘えてくれてよかったと零す夫の首元で、オクタヴィアはくすくすと喉を鳴らす。そんな小さな笑みの吐息すらくすぐったく感じる距離だ。

互いに口にせずとも、娘たちが起きるまでと相手の体温と鼓動を堪能する。しとしとと雨の音だけが部屋を満たす。もう言葉などいらなかった。

雨音の子守唄が、その時間を延ばしていった。







2020.04.21のコミカライズ連載開始から6周年を迎えました。

応援くださる読者様、モブすらをご愛顧くださり、誠にありがとうございます。


愛情もってコミカライズくださる日芽野先生にも、感謝の絶えない日々です。


自分は果報者です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新作「3日で記憶が戻りました。」(2026.02.25完結)

2023.06以降、コミカライズ連載の更新が不定期となったのは出版社の判断によるものです。(2023.05.02 22話追加から2025.03 23話追加まで長期間空くなど)
なので、連載不定期に関する意見·要望は出版社へ直接お願いいたします。
マンガUP!編集部
ハガキ·お便りでの意見·要望先は↑になります。「●●先生 宛」部分を「編集部 宛」にいただければ大丈夫です。
※日芽野先生はずっとモブすらを愛し、尽力てくださっているので、どうぞ誤解なきよう。

SNSシェア企画
SNSシェアで限定SSプレゼントキャンペーン実施中です。 上記、詳細確認のうえ、興味あればご参加ください(*´▽`*)"

出版情報などの詳細

マンガUP!HP
マンガUP!にて2020.04.21よりコミカライズ連載中
Global version of "I'm Not Even an NPC In This Otome Game!" available from July 25, 2022.
2025.03.17 韓国版「여성향 게임의 엑스트라조차 아니지만」デジタル配信開始


マンガUP!TVチャンネル以外のyoutubeにある動画は無断転載です。海賊版を見るぐらいなら↑公式アプリ↑でタダで読んでください。
#今日も海賊版を読みませんでした
STOP! 海賊版 #きみを犯罪者にしたくない
(違法にUPされた漫画を読むと、2年以下の懲役か200万円以下の罰金、またはその両方が科されます)

#いいねされた数だけうちの子の幸せな設定を晒す
企画タグ

作者に直接や、呟くのは恥ずかしいという方はオープンチャット「モブすら好きと語りたい」 で読者様同士で話していただいても構いません。 QR画像
※匿名参加可能
※作者は参加していませんので、ご安心ください。

○マシュマロ○
玉露 日芽野メノ

※活動報告の『★』付は俺の拙いらくがきがある目印です。

蛇足になるかもしれない設定(世界観など)
― 新着の感想 ―
このエルンスト家のイザークへの信頼感よ お嬢は甘えてくれない、素直になれないと言い換えてもいいのかもしれないが、両親のハイブリッドみたいな甘え上手で息を吸うように愛を囁く令嬢だったらイザークや攻略対象…
あ~、更新うれしいな~。 頼れる人がいるのは、幸せです。その人に頼られるのは、もっと幸せです。 なぜなら、それができる自分があるからです。 それが「信頼」という関係でしょう。
エルンスト家最高( ´∀`)bグッ! ラブラブ夫婦な公爵様とオク様のやりとりを見せていただきありがとうございます!! 本当に公爵様はまわりをきちんとみて、適切に評価して素晴らしいですね!自分もエルンス…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ