side37.四葉
学園に入学して最初の年の誕生日、リュディアから要望されたプレゼントにイザークはしきりに首を傾げていた。
「勉強教えてもらうのって誕プレじゃなくね?」
図書館のテーブルの一角でささやき声で会話する。
「まだ婚約もしていないんですから、二人になれる理由が必要でしょう」
婚約自体は年明けで、公表は来年度のため二人は現時点では主従関係のままだ。寮生活で夜間外出が難しいため、月虹を在学中は贈れない。誕生日にともにいる時間を持とうにも口実がいる。その口実が勉強とはなんとも生真面目な彼女らしい。
「……それに、ベルンハルト様ばかり頼られて狡いですわ」
贈られる側から勉強を教えてもらうのは、贈り物ではないのではと不思議だったイザークは、不満げな呟きにわずかに瞠目する。
リュディアにとっては直接本人へ不満をぶつけるようになったことは成長であり、十二分にわがままな行為であった。だから、なぜ彼が両手で顔を覆って机に突っ伏したのに驚く。
「どうしましたの……っ」
「……お嬢、その可愛すぎるのどうにかなんない?」
心臓に悪すぎるという訴えに、はくと空気を食むしかできず、顔を真っ赤にしたリュディアは椅子から立ち上がる。
ほかの生徒たちからは飼い主を怒らせた狂犬が萎れている図に映り、遠巻きに視線が集まっていた。
叱りつけたいような逃げ出したいような衝動と公共の場であることの葛藤の末、しばらくの間のあとリュディアは静かに座り直す。こんなことで二人の時間を減らしたくない。
「あと、カレカノでデートすんのは普通のことだから」
婚約段階になくとも庶民のイザークには恋人同士の逢瀬はしたいときにするもので、贈り物ではない。
そう意識合わせのうえで、リボンを手渡される。両端に銀糸で四葉の刺繍がされたリボンの色は学年を示す赤。学園で普段使いできる色だった。
「これぐらいはいいだろ」
お互いにしか解らない繋がりの証。恋人の証明をリュディアは呆然と見つめる。公にしていないため、いまだに時々夢ではないかとふわふわした心地になることがある。けれど、これからはこのリボンが現実と紐付けてくれそうだ。
じわじわと実感と喜びが湧き、胸元にリボンをぎゅっと抱き込む。
嬉しそうな彼女に、イザークの表情も綻ぶ。
「さ、次の問題をやりますわよ」
ひとしきり喜んだあと、気合いが入ったように勉強に戻る律儀さも、イザークには愛らしく映る。彼女の方が成績が良いので、助かりはするのも事実だ。当初の目的通り教わることにする。
後日、本当に勉強しかしていない点を親友に呆れられたが、当の二人は満ち足りた様子であった。
SNS側の「#いいねされた数だけうちの子の幸せな設定を晒す」タグの方にやろうと思ってたんですが、文字数オーバーしたのでこちらに。
お嬢の誕生日ネタです。
後日談は小ネタ(SNS)側の281.を参照ください。









