2-5-1
2-5-1 8月25日水曜日
ピポピポピー、けたたましく朝6時に目覚ましがいつものように鳴り、すぐに目が覚めると、いつもと同じ部屋のベッドだった。
今日の朝の目覚めもはいつもよりいい。それは、昨夜ちゃんとベッドに寝たお陰なのか、それとも別に何か理由がるのか分らなかったが、ずーっと柔らかな誰かを抱きしめていた記憶だけがあった。
「平助、朝ごはんできているわよ。早く下りてきて」と1階から望の声が聞こえてくると、
「はい、今行きます」と元気に答え、さっさと着替えて1階に急いで下りると、既に食卓に着いている母が今日も少し機嫌が悪そうに
「平助、昨夜も煩かったけど、望ちゃんに勉強でも教えてもらっていたの」
「確か、そうだったみたい。昨日は結構問題が解けたからさ、先に進めたよ」と昨夜の記憶がぼんやりとしかなかったが、上手く返事をすると横で
「はい、平助ごはん」とニコニコしながら望がごはんをよそうと食卓に着いた。
「今朝からニコニコして昨日何かいい事でもあったのかな、BBQで男子部員にもてたから」と俺が冷やかすと少し顔色が暗くなったが、直ぐに明るさを取り戻して
「やっぱり、一晩寝るとすっかり忘れるんですね、ホントどうしましょうか。
でも裸はちょっと恥ずかしいし、まだ早いかしら」と訳も分らないことをブツブツと言いていたが、気を取り直して
「はいはい、とってもいい事がありましたよ。平助は何かいい事ありましたか」と訊き返してくるので
「いい事か、これと言って特にないけど、でも今朝は気分がいいよ。サクラ」と答えると、母さんが目の前にいるにもかかわらず、彼女は俺に抱きつきいきなり頬にチュウをすると最初は顔を真っ赤にしてモジモジしてたがまたニコニコと機嫌が良くなり、何事もなかったようにごはんを食べ出した。
俺は急に抱きつかれてチュウまでされるとは、いい事ってこれかなと、びっくりして心臓が止まりかけたが、それを見ていた母はそんなに驚きもせずに
「望ちゃん、それは、お部屋でこっそりしてもらわないと、母さん恥ずかしくて朝ごはん喉に通らないわよ」といつもと変わらず彼女の美味しいごはんをパクパク食べていた。
今日も彼女がいると朝から楽しい。でも現実は今日が最後の日なのに、楽しさの余りそれを忘れていた。否分っていたが、それを思うのが怖かったのかもしれない。
「望ちゃん、今日の予定は、行き忘れた場所とかもうないの」と母が訊くと
「午前中は平助の練習を見学して、午後はレポートの仕上げがありますので部屋にいます」と答えると、そうだ、俺の素行調査を大会事務局に報告する必要があるのだと、元々の彼女の目的を俺は完全に忘れていたので
「そのレポートは大丈夫だよね?」と確認すると
「それは、私ではなく上が判断することですので分かりません」と酷く冷たい返事だったが彼女はニコニコしながらごはんを食べていたので、これは大丈夫だと確信した。
朝ごはんを食べ終わると母は仕事へ、2人は今日も別々の自転車で剣道場へ向かいながら
「朝、俺君をサクラって呼ばなかったかな」
「えっ、呼びましたよ。ちゃんとサクラって」
「どうして、望じゃなくサクラって呼んだろうね。不思議だな」
「きっと、サクラの方が呼び易いんですよ。私もサクラと呼ばれる方が慣れているし。じゃ、昨夜の事はどれぐらい覚えていますか」と訊くので
「君と2人で聖剣と会話を試みたところから、確か2人の映像が見えたとこまでで、後は聖剣が語りかけてきたかな。あぁ、それと君はずーっと俺の傍にいたよね。たぶん手を握っていたかな」と正直に答えると
「えっ、酷い、大事なところは全然覚えていないんですね。
昨夜は、平助は私をギュウと抱きしめて強くキスして、それから、サクラ頼むから結婚してくれって言ったのよ」と、とんでもない冗談を彼女が言うので、俺の乗った自転車がこけそうになったが
「じゃ、君は何て答えたの」とその冗談に付き合うと、彼女は少し恥ずかしそうに「はい、私でよければ、こちらこそお願いします」って答えたので、
俺は冗談でもうれしくなったが、彼女は自転車のスピードを上げ、俺から少し離れると「そんな日がまた来るといいのに」とぼそっと呟いていた。
俺もスピードを上げて彼女に追いつくと今度は
「じゃ、赤いカバンは覚えていないの?」と訊くので
「赤いカバンって、俺がいつも使っているカバンかな」
「そうですよ。私が異世界に帰った後に、きれいに中を掃除して下さい。それとこれからも大事に使って下さいね。約束よ」とよく分からないことを頼むので
「あぁ、いいよ。どうせ新学期のためにきれいにしようと思っていたし、あのカバン気に入っているから大事にするよ」と約束をした。




