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望は汗臭いのが嫌いなので今日買ったばかりのさわやかな香りの汗止めスプレーを体にかけ「これでよし」と、引出しから福袋の剣を出して彼女のドアを叩くと
「どうぞ、入って下さい」と返事がしたので、初めて彼女の部屋に入った。
あっ、ヒカリが使っていた部屋だ、少しも変わっていないな、久しぶりにここ入るなと哀愁に浸っていたが、彼女にはそんなものは当然なく
「さぁ、平助、私の隣にに座って、昨夜の続きをしましょう」と俺を彼女の隣に座らせ俺が両手で剣を包み込むと、彼女が明かりを消してその上から俺の手を包み込み、昨夜のように
「落ち着いて、こう息を吐いて、そしてこう吸って」と彼女の指示に従い俺の呼吸が彼女のそれと上手く同調したが、いくら待っても目の前は真っ暗だった。
「おかしいわね、昨夜はちゃんと出来たのに」と彼女は不思議に思い
「じゃ、もう1回やってみようか」と何度も同じ事を繰り返しても無駄だった。
「おかしいわね」と彼女は少し焦り出し、色々考えた結果
「じゃ今度は、剣を持った平助を私が抱きしめるから」と俺をギュウと抱きしめても俺は少し嬉しかったが目の前は真っ暗だった。
「どうしてなの」と更に焦り出したかと思うと、今度は俺に当たり始めてきた。
「平助、ちゃんと精神を集中しているの、変な事を考えていないでしょうね」とイライラしてきた彼女は愚痴を溢したので、俺も少しイラ付いていたので
「やっているよ、君こそ、ちゃんとやっているの」と少し口論になりかけたが、彼女はなぜか急に悲しそうな顔になり
「2人には時間がないのよ、お願い早く発動して」と急に剣に向かって話しかけたのには俺は驚いた。
「2人には時間がないとは、どういうこと」と俺が訊くと
「駄目よ、今の平助はあの女の虜になっているから、私が何を言おうと信じてくれない。でも、3度目を噛まれるともう遅いのよ」と涙目になり、急に俺の胸に飛び込んで、俺の顔を見上げると
「平助、早く私の事を思い出して」と目からはボタボタと涙が流れ出していた。
俺には彼女の言うことや泣く理由がまったく分らなかったが、この部屋に入る時ヒカリを思い出したり、少し変な感じになった事に気づいて
「ごめん、俺が悪いんだ、きっと俺の雑念のせいだ。君のせいじゃないんだ」と泣いている彼女を優しく抱きしめて「じゃ、もう一度やってみよう」と2人で目を閉じると自然と2人の鼓動と呼吸が同調し、目の前が明くなった。
すると、今日は中学生の頃の2人が仲良く家に帰っている姿や公園にいる姿、それに俺の剣道の練習が終わるのを待っている彼女の姿が昨日より鮮明に見えたが、2人の声までは聞こえなかった。でも、彼女は2人が話している内容をまるで今話しているように教えてくれた。
そして別れの場面で彼女がいつも使っていた赤いカバンを俺に手渡した時はどうしようもないくらい泣いていた。
「そうだ俺がいつも使っている赤いカバンは彼女の物だったんだ」と思わず俺は叫んでしまった。
俺はサクラの顔を見て、涙をそっと拭いてあげると
「平助、少しは思い出してくれたみたいね」と少しは明るくなった彼女が笑うと
「思い出したよ、サクラ。やっと大切なものが見つかったみたいだ」と答えると
「やっと、サクラって呼んでくれたのね」と嬉しそうにしていたので、俺も嬉しさで彼女を更に強く抱きしめると、今度はどこからか声が聞こえてきて、俺に問いかけてきた。
「勇者よ、お前は真実が全て明らかになった時はどうするのだ」
「真実とは何だ、教えてくれ」
「お前の知らない事だ」
「俺の知らない事とは何だ」
「それをお前が知りたいと望むのか」
「あぁ、当然さ、真実を知りたいのは当たり前だろう」
「それを知ってしまったらお前は迷い不幸になる。それでも知りたいのか」
「そうなるとしても、知りたい。否、待ってくれ、それは知りたくない」
「勇者よ、迷いがあるようだな、早く決めないとお前は大事なものを失うぞ」
そう言って声は聞こえなくなった。
「サクラ、今の声、君にも聞こえた?」と彼女に訊くと
「えぇ、確かに聞こえたわ」と今度は俺をギュウと抱きしめてきて
「やった、平助、たぶんこの剣は真実の剣よ。これで呪縛は解けるわ」とニコニコと喜んでいるので
「サクラ、真実の剣とは何だ、教えてくれ」と頼むと
「その昔に王様が重大な決定を下す際にに自分が騙されていないか判断する時に使ったとされる聖剣よ。これを振ると人の嘘も暴けたり、悪魔やパンパイアの呪縛が解けたりしたとか。
でも、昔話によると王子様がパンパイアのお姫様と結婚するときに王様が譲った事になっているわ。それで、今はどこにあるのか分らなくなっている筈よ」
「その昔話はもしかして血の花婿の話かな」
「血の花婿の話はバンパイア国の昔話だったと思うけど、私の話は旧王国の昔話なので違うんじゃない。でも、どちらの昔話もバンパイアのお姫様が登場するのね」
「でも、どうしてそんな聖剣が俺の手元にあるんだ。それも銀貨1枚で、そして、なぜその声が俺達に聞こえるんだろう」と俺は疑問に感じたが、彼女は今はそんな事より聖剣を起動させるとが大事と
「それは後にして、もう一度やってみましよう」と2人でまた試みたが、その日はそれから何度試しても声は聞こえなかった。
そして、何度も試みに失敗して疲れた俺が自分の部屋に戻る時に
「今夜のことは絶対に忘れないでね」と彼女は変な事を言ってくるので
「誰が忘れるって。そんなことはないよサクラ、大丈夫さ」と軽く答えて、部屋に戻りベッドに横になっと、直ぐに寝てしまった。




