表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奥手な勇者の恋の相手はモンスター  作者: ゴーヤウリウリ
27/634

1-8-1

1-8-1 8月8日日曜日

 ヒカリが異世界に帰る日の朝、ピポピポピーとけたたましく目覚ましが鳴ったが、いつもより違い朝7時だった。

 昨日の夕飯の時に母に頼んで朝ごはんを遅くしてもらっていたので、母の俺を起す声はまだ聞こえてこなかったし、何故かお腹も空いてはなかった。

 でも俺は、目覚ましの音とは関係なく彼女が俺の部屋に来て朝方近くまで俺の手や足を摩りながら疲れ果てて倒れるように俺のベッドの上に眠った時の前から起きていた。それから眠っている彼女をそっと抱き上げてた時に

「こんなに軽いのか」と驚いた。

「この体に国の運命がかかっているのか、あの意志の強さはどこから来るのだろうか」と、そっと俺の横に寝かせてその寝顔をずーっと眺めている。


 今日はいつもの寝言も出ないぐらい疲れているのだろう。

静かな寝顔は幸せそうだったし俺に潤いを感じさせた。

朝方から腕枕をしている俺の右手が少し痺れてきたが、他の痛みもありそれは余り気にならなかった。

またこんな日が来るといいなと思わずにはいられなかった。

 それにしても凄い戦いだった、どうして俺があの屈強な護衛の男に負けなかったのか今でもよく覚えていなかったし、どうやって家に帰ってきたのかすらも覚えていなかった。

 ただ、彼女を国に連れ戻されずに済んだ事だけがよかったが、今日異世界に帰ってしまい、これからずーっと会えないならそれにどれだけの意味が有ったのだろうか。


 ヒカリはいつも命をかけて俺の傍にいる。俺はそれほどの男なのだろうか。

確かに以前よりは強くはなったが半獣に変身していない男にあそこまでやられるほど弱いのに、そして、今日でお別れだと、少し涙が出てきた。

 本当は起きていたのだろうか、すると彼女が

「私の勇者様は、強いので泣きませんよね」と俺の涙をそっと拭いてくれたが、

その言葉が引き金となり無性に涙が出てきた。

「泣いたら駄目ですよ。私も泣いちゃうから。また直ぐ会えますよ。

きっと会いに帰って来ますよ」と彼女は言ってくれたが少し涙目だったので

「帰って来ないと俺の方から会いに行くからな、会いたくないと言っても行くからな」と彼女を強く抱きしめ口づけを交わすと

「ここまで1週間かかりましたよ。私の勇者様は、硬派で奥手だから困りますね」とちゃかすので

「俺のお姫様は年齢不詳で酒飲みだぞ」とじゃれ合っていると

「平助、ヒカリちゃん、早く起きて、朝ごはんよ」と母の声がしたので、1階へと仲良く下りていった。


「2人仲良しは良いけど、まだ高校生だから、そこはちゃんとわきまえてね」と朝からじゃれ合っていたので母から注意されたが、ヒカリと母の「今度いつ来るの」「またきてね」「大学頑張るのよ」などのありきたりな話の中、俺は終始無言で朝ごはんを食べていたが、2人の朝から盛り上がった話を聞いているだけで時間のたつのを忘れていた。

「あら、そろそろ10時ね、迎えの車が来る時間だわ、ヒカリちゃん帰る仕度は出来ているの、そうそう昨日買ったあれを着て帰ってね」と母が言うと、彼女は2階に上がり着替えをして荷物を持って下りてきた。


 彼女はいつもの外出用の長袖の服、ジーンズと帽子ではなく、母から新しく買ってもらった白い半袖のワンピースと短めのスカートを着て俺と母の前に現れると

「どう似合いますか」と恥ずかしそうに言うので

「まぁかわいい、お姫様みたい」と母は冗談交じりで言うと

「あぁ、本当にかわいいお姫様だ」と俺も相槌を打った。

「それじゃ、玄関の前で記念写真ね、平助、きれいに撮ってね」と母が俺に頼むのでスマホを取りに2階に上がり直ぐに下りてくると、隣の南と彼女が何か話をしていた。


「まずは平助とヒカリさん、早く早く」と南が俺と彼女を急かし並ばせるとスマホで写真を撮り

「次は、おばさんも入れて3人で」と俺とヒカリの2人の間に母が割り込み、南がスマホで写真を撮り、次から次とメンバーを変えて写真を撮っていると、知らぬ間に迎えの車が来ていた。

「ヒカリちゃん、車が来たわよ、平助、駅まで送っていかないの」と母が進めたけど、別れが辛くなるから彼女から見送りはしないでと強く念を押されていたので「俺はここで良いよ」と断ると

 ヒカリが俺に顔を近づけて「待っていて下さい、絶対に帰ってきます。それと浮気は駄目ですよ」と耳打ちすると、3人にペコっと頭を下げて彼女は待たせていた車に乗り込むとドアが閉まり彼女がこちらを振り向く暇もなく車はあっさり出て行ってしまった。


 それを見ていた南は俺にトコトコと近づき

「この意気地なし、さすがに止めを刺せなかったみたいね。彼女がこれをさっき返してきたわ。これからが大変ね」と南が彼女に貸していた木槌と杭を見せて、訳の分らないことを言いだすと

「そういえば、勇者が奥手で困っているので今度相談しますと言っていたけど、勇者って誰」と俺に訊くので

「奥手の勇者なら知っているけどね」と俺は笑った。


 その頃母は親父の仏壇の前で手を合わせて

「お父さん、平助が運命の人とやっと出会ったみたいですよ。遠くから見守って下さいね」と呟いていた。

 

 ヒカリを玄関で見送った2時間後、母と2人でお昼を食べていると

「準備できているの、今日から光ちゃんが来るのよ」と母が言い出した。

俺も「準備」の言葉を聞いてとふと思い出した。

 そう言えば母から従妹の光ちゃんが夏休みを利用して田舎から東京に遊びに来るとは聞いていたが今日来るとは忘れていた。

 さっそく隣の部屋を掃除しなくては、なんだ本当に従妹の光ちゃんがいたのかと、なぜか力が抜けた笑いが止まらなかった。


 昼食後、1階の食卓から2階に上がり俺の部屋の隣のドアを開けるときれいに片付けてある。

「あぁ、さっきまでヒカリがいたんだなぁ」と少しセンチメンタルな気分になったが、彼女が帰ってくるまで頑張って練習するぞと、それから日課になっていたアラタとの練習に出かけて、夕方近くに練習が終わりボロボロになった俺を車で送ってもらうと、玄関前にこの辺では見かけない制服を着た女子高生がいた。

「元気だった、平ちゃん」向こうから馴れ馴れしく挨拶してきたが、どこか見覚えのある顔に本物の光ちゃんだとホッとしたが、どこか期待外れだった。

 それから、本物の光ちゃんはその後1週間ほど我が家に滞在し、再来年に受験する大学の下見などをして田舎に帰ったが、それでも1週間は母との3人暮らしで家は明るかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ