3-5-4
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すると、聖剣に刻まれた呪文が浮き上がり始め、その文字が少し読めたのでまた驚いた。
「おいおい、嘘だろう、こんな事は初めてだ。呪文が読めるぞ」と左手に持つトンファーを見ると、こちらの呪文も浮き上がりだし少し読めたが、見た事もない生き物は見えなかった。しかし、いつもより左腕にも力が漲っていた。
「これは薬の力なのか。これなら防御だけではなく、攻撃にも力が入るな」
審判から両者に注意事項が説明されているにもかかわらず、急に目が良くなったと言うか、おかしな生き物まで見え出し、更に力が湧いてきたので、俺は驚きと希望の中で「開始」の合図を聞いた。
すると開始の合図の余韻を打ち消すように会場からの歓声が最高潮になったが、おれには更に驚きが続ていた。
それは、聖剣やトンファーの呪文が完全に読める状況になっていた。それで驚いて目の前の試合どこじゃなかった。
「おいおい、呪文が読めているぞ。2年前の記憶どころかいつの記憶が蘇ったのか」と再び頭が錯乱していたので、相手と目を合わすどころか直ぐに相手から距離を置こうと会場の隅に逃げた。
すると、さっきまでの会場の歓声が直ぐに俺に対する盛大なブーイングに変わり、早速俺は審判から指導を受けて減点された。
再び中央に戻されたが、なぜか減点は気にもならなかった。ゆっくりと呼吸を整えて再度聖剣とトンファーを見るとはっきりと呪文が読めて口に出せたで
「完全に読めた。これで俺にも魔導が使える筈だ」と、その呪文を静に心に念じて相手を見ると、相手が持った聖剣の回りには空気の流れが見えた。奴の聖剣は風の属性か、これで振りの凄さの理由は分った。
「さぁ、これから本番だ。先ずはこちらから」と聖剣を相手の左上から振り下ろすと、相手は体を横にするだけですっと交わしてしまった。今度はトンファーで相手の右横から攻撃すると軽く聖剣で防がれてしまった。何度か同じような攻撃を繰り返したり、聖剣やトンファーで突いてみたりしたが、体で交わされたり聖剣で防がれ、俺の仕掛けた攻撃の全てが防御され、相手は無傷のままで、俺の体力だけが消耗していったが、恐ろしさは消えていた。
「去年のアラタの時と同じだな。ここまでは相手の筋書き通りか」と俺が体力を回復するために少し距離を置くと、今度は相手が近づき俺の右上から聖剣を振り下ろすと、目が良くなったせいか、その振りは遅く感じられ、練習したとおりに少し距離を置いて体で交わすと、風圧は感じたが上手く交わせていた。
「上手くできたのか、それとも相手の振りに威力がないのか」と俺は驚いて少し離れて手を顔に当てたが、軽い掠り傷で済んでいた。
相手は俺に上手く避けられて、思っていたようなダメージがないので不思議そうにしていたが、直ぐに俺の左上からアラタの剣にヒビを入れた力の入った聖剣で攻撃をしてきたが、これも遅く感じられた。
「きやがった、これが受けられるかが勝負だ」と気合を入れてトンファーで防ぐと流石に手に重い衝撃が走ったので、すぐに横に飛び会場の隅に逃げたが、相手は俺に次の攻撃はせず、左腕に聖剣を受けた衝撃で異変が起きたに違いないと傍観していた。これで勝ったつもりだろうか。
トンファーを素早くホルダーに入れ、左手を振ってみたが、痛みは感じられなかった。どうにか持ちこたえる事ができた。秒殺は免れたようだ。その時、それを見ていた相手の顔色が少し変わったのが分った。