言葉遣いできなくてはダメですよ!
504番の人、コミュ障の人はレイトさんと言った。レイトさんは北の国境沿いにある、アルファスト辺境伯の三男で、14歳の時に間違って1年早く学院に入ってしまったということだ。
本当に間違ったのかどうかはわからないが、本人はそう言っている。ただ、学院に入ってから、他の人より1つ年下だったことと、田舎育ちだったこと、気が弱かったことで、色々と虐められたらしい。
元々物静かな性格だったところにいじめ要素が加わり、他人、特に年上の人が苦手になったようだ。それではわたしの背中になぜ隠れたか、というと年下の女の子なら妹たちで慣れていたから、大丈夫ということだった。
しかし、それでは冒険者としてやっていけない。大体なぜ冒険者になろうとしたのか。卒業したら、地元に帰るという選択肢はなかったのだろうか。
と、色々疑問に思うものの、どちらにしろギルド登録や、利用の仕方、依頼の受け方などの説明をしなければいけないので、わたしが担当者として説明することになった。説明をする中で、分かったのが、彼の履歴とコミ障の原因だった。そして1番疑問に思ったことを聞いたら、例の異世界話が出てきたけれど、実際にはもう少し普通の理由もあった。地元に帰っても兄たちがいて邪魔にされる。散々いじめられた自分の弱さを克服したい。騎士団試験は受けようかと思ったけど、受付の男性騎士にいきなり威圧をかけられて、申し込みすらできなかった、という話だ。
「普通の事務官になろうとは思わなかったのですか?」
「事務は先輩とか、上司とかと話ししなくては仕事できないから。」
と、ボソボソと話す。いやいや、冒険者だって仲間やギルド職員と話しをしないと仕事にならないが。前世ならプログラマーとか、エンジニアとか、コツコツ真面目に仕事ができれば、可能な職種も一応あった。ここでも職人という仕事があるが、職人の親方はどちらかといえば根暗?なレイトさんとは合わないだろう。
学院の上のアカデミアに行って薬師や、専門的な学校へ行き魔導具師という仕事もあるので、そちらを目指すべきだったのでは?とも思う。
人生の選択段階で自分でした意思決定を間違えるなんて、10代ならよくあることだけど。それはオイオイ彼と親しくなったら話してみようと思った。
それでも新人がいきなりソロというわけにはいかないので、誰か面倒見の良さそうな先輩を探すことにした。先輩と聞いて少し萎縮していたが、冒険者は12歳からできるので、彼より年下ばかりのパーティーはたくさんある。
そんな時、ちょうど依頼を探しにやってきたのが白狼と、アークさんたちのパーティーだった。面倒見という点では白狼だけど、年下が多いとなればアークさんたちだろう。そこで、わたしは依頼用紙を持って仕事を受けに来たアークさんに声をかけた。
「セリちゃん、ほらすっかり良くなったよ!オレ野菜も食べるようにしているよ!」
依頼用紙を手にアークさんがニコニコと話しかけてきた。んー子どものような会話だね。アークさんたちはのパーティー名はトリガー。18歳のアークさんと、幼馴染で同じ18歳のダンさん、17歳のエリーさん、16歳のスピカさん、リリさんと、10代だけの人パーティだ。元々女性が多いので、男性が欲しいとは言っていた。
「アークさん、こんにちは。今日は薬草ギルドの配達と護衛の依頼ですね。」
「オウ。やっと動けるようになったから迷宮って思ってたのに、女どもがダメだって!」
これはちょうどいい。こういった依頼なら、人数は必要な上に簡単な仕事だ。
「あの、お願いがあるのですが。」
わたしはそう言って、わたしの後ろで、登録書類を書き終わったばかりのレイトさんを見た。
「彼はレイトさん。18歳で今日からみなさんと同じ冒険者になった新人さんなんです。まだ一緒に仕事をしてもらえるパーティーが決まっていなくて。」
わたしが紹介しようとすると、レイトさんはわたしの背中に隠れる。コラコラ、それではダメでないか!本来なら自分から名乗るのだぞ!というか、自分で仕事や仕事仲間探すのだけど。流石に呆れて
「自分から自己紹介できなければダメですよ」
と、前に突き出した。
アークさんたちとレイトさん、そしてわたしが話をしていると、列の後ろの方からミリカさんが飛んできた。
「ちょっと待った!504番君はウチのパーティーが欲しいんだけど!」
ミリカさんの勢いに、列にいた人がみんな固まっている。
「504?」
「あ、えっと君名前は?」
ミリカさんに追いついてきたケントさんとニックさんが、レイトさんに声をかけると、彼はわたしの背中にまたもや隠れながら
「レイト‥クレイ・アルファスト、と申します。」
とご丁寧に、フルネームで自分の名前を名乗った。
もちろん小声で。
「レイトくん、君を白狼が預かって育てたいと思います!ぜひウチに来てください!」
ミリカさんが右手を差し伸べて元気に挨拶をする。しかしその声に、
「そっちこそ、ちょーっと待ったー!」
とアークさんが叫んだ。
「レイトは、今セリちゃんから直接めんどー見て欲しいっつーて、ウチのパーティーに入ることになったんす。いくらエリートの白狼さんだって、横から掻っ攫うの良くないって思います!」
いやいや、アークさん。そこまで話はしてないから。
そんな様子を、ジルさんがため息をつきながら見ていた。ウー、またもや応接室に呼ばれる状況になってしまった!
「で?今度は何があったんだ。」
1人がけソファーには、窓を背にしてギルドマスターのジルさん。長いソファーには、白狼さん3人と、向かい側にアークさんとダンさん。そしてその後ろにわたしが立ち、わたしの背中にレイトさん。トリガーの女性人3人は、わたしの周りで、なんとなくレイトさんにちょっかいをかけている。
「えーっ、年上苦手なんですかー?」
わたしの説明を聞いてミリカさんが大声で話す。
「しかしなー、冒険者としてこれから働くなら、大人ともちゃんと付き合えないと。面接の時はなんとか話していたじゃないか。」
「あれは、その、たくさん練習、して。騎士団、受けられ、なかったから、仕事、しなくちゃ、って、頑張って、受けました。」
「でも、おウチ貴族なんでしょ?働かなくても。」
レイトさんの隣に立っているスピカさんに声をかけられる。はじめはちょっとビクついていたけど、わたしと同じ年下と分かったからか、それとも慣れたのか、
「ウチは田舎貴族で、そんなにお金持ちじゃないし、家には兄が2人いて、妹たちもいるから、ボクぐらいは王都で何か仕事しなくちゃって。」
レイトさんが頑張って答えると、
「エライ!」
とミリカさんが叫ぶ。
ミリカさん、年上のことよりもその大きな声が、たぶんダメなんだと思う。
「なるほどな。で、トリガーはコイツの面倒見られるのか?」
ジルさんがアークさんに尋ねる。
「面倒っていうより、俺たち同い年だから、ふつうに仲間が増えたーって感じて、やってけると思うんですよね。」
ダンさんがニカっと笑って答えた。ダンさんはアークさんが瀕死になった時に、ギルドに運んだ青年で、若いけど気が利いて、すごく面倒見がいい。ダンさんの答えに、アークさんもうんうん、とうなづいている。
「それにセリちゃんの紹介だもん、可愛がるに決まってるじゃないっすか!」
アークさん、なぜにそこでわたしが?と疑問の顔を浮かべたら、隣にいたリリさんが、
「命の恩人。」と答える。なるほど。
「でも、ミリカ姉さんが欲しいくらい、コイツ優秀ってことっすよねー。」
うん、対人関係以外はね。
「剣や魔法もすごいけど、俯瞰して物事見られるし、知識も高いから作戦立てるのとかにも向いてると思うんだよね。ウチのリーダーみたいに。だからリーダーに育ててもらったらどうかな?って思ったのよー。」
わたしはミリカさんが欲しがった理由を聞いて、なるほどとは思った。しかし、それ以前にまずは対人スキルをあげないと。
「大丈夫っす。これからオレら強くなって白狼さんたちみたいになるんで。その時までに、コイツがもう少しマシに誰とでも話できるようにします。で、すっごく作戦ないとできない迷宮にも入ります。そしたら、オレら無敵のSランクパーティーなるんで!」
アークさんが、ニカっと笑ってミリカさんに答えた。かなり、根拠の怪しい答えだけど。
「でもまあ、君たちトリガーがこれからドンドン強くなって、あと何年かして、貴族とかの護衛を任されるくらいになるまでに、彼にマナーを教えてもらうのもアリかもね。」
「確かに。もう少し、言葉遣いを学ぶのも大事だなー。」
白狼3人が大人の余裕でわらっている。流石、もうすぐアラサーになる大人のパーティーだ。今回は大人の余裕の白狼がひいて、余裕のない?まだドタバタ気味のトリガーがレイトさんを預かることになった。
「しかし、君たちだってもう17、18だろう?後輩もずいぶんと入ってきてるんだから、言葉遣いも勉強しないとダメだぞ。話す相手が目上なら、言葉使いにも厳しい人はいる。白狼が許しているが、本来ならもう少し大人の話し方を学びなさい。」
最後にジルさんがそう言って、トリガーは受けた依頼に、白狼は依頼を探しに下に降りて行った。




