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必中必殺の〝魔弾の射手〟~異世界の冒険者学園に転入したんだけど、もしかして俺……ちょっと浮いてる?~  作者: 右薙 光介


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第35話 あんたに好かれようとは思ってないさ

「バルク!」

「大丈夫や!」


 全身鎧の長身ドワーフが、すぐさま立ち上がってバトルアクスを構える。

 新調したと自慢していた鎧の腹部装甲に大きなへこみが見られたが、本人の声は元気そうだ。

 前回、ブラテノス男爵と相対した時とは一味違うらしい。


「中身が、ゲルシュなら、勝機は、ある……!」

「せやな!」


 なかなか失礼な話だとは思うが、なんとなく納得もできてしまう。

 魔男爵本人も言っていたではないか、「我の分身としては些か器不足ではある」と。

 フルスペックのアイツがどれほどのものかはわからないが、ゲルシュ先輩という人選は『ややミスった感』は否めまい。


「おおおおおおッ!」


 戦雄叫(ウォークライ)をあげたバルクが、分厚い殺気と共に魔男爵に肉薄する。

 体を包む淡い燐光は、アリスの強化魔法だろう。

 そして、それに合わせてメアリー先輩がブラテノスの背後へと回り込む。

 〝忍者〟に背後を取られるというのがどれほど危険か知っていれば、魔貴族とて注意を払わざるを得ないはずだ。

 そして、ゲルシュ先輩という曲がりなりにも元冒険者科の人間を素体にした以上……それを知っていてもおかしくはない、


「アリス、二人の補助を頼む」

「ええ! タキもお願いね」


 前衛二人が接敵、乱戦状態になれば俺にできることは少ない。

 しかし、俺にもできる役割はある。


 彼我の距離は約十メートル。

 いつでもヘッドショットを狙っていける距離。


 で、あれば。

 俺のするべきことは『必中必殺の一撃』を匂わせてプレッシャーかけることであろう。

 鉄塊と化したバルクの攻撃をいなし、背後に忍びよるメアリー先輩をしのがねばならぬ上に、距離を取れば狙撃される。

 以前、ブラテノス男爵と戦った時は連携も含めて多くの反省点があった。

 それを活かした結果がこの布陣だ。


「ほう、拙いなりによくやる」

「褒めてもらえて光栄だよ!」


 牽制がてらに放った鉄塊が、魔男爵の頬をかすめる。


「……勇者レンタロウの子にしてラオニア伯爵の子か。忌々しいことだ」

「あんたに好かれようとは思ってないさ」


 投石紐(スリング)を回転させながら、魔男爵を睨みつける。

 魔貴族ともなれば、『勇者』であった父と対峙したこともあったに違いない。

 特に、俺と親父殿は使っている得物が一緒だし。


「よそ見しとってええんかッ?」


 踏み込んで、戦斧を横なぎに振るうバルク。

 それを後退って避ける魔男爵にあわせて、今度はメアリー先輩が踏み込む。


「甘い」


 振り払うようにしたブラテノス男爵の一撃がメアリー先輩を捉える……が、ふわりとその姿が掻き消え、代わりに小さな紙片がちぎれて舞った。

 空蝉の術というヤツを目の当たりにして、少しばかり心が踊りそうになる。

 できれば、丸太か何かに擬態してほしかったが。


「それは、変わり身の術」

「あ、はい」


 戦闘中であっても、俺の心は読まれてしまうらしい。

 一方的なので以心伝心ではない。


「小癪なことを……!」


 腕に手傷を負ったブラテノスが、小さく目を細める。

 やや苛ついた表情に見えるのは、余裕がなくなってきたと見るべきか。


「まったく、この体の性能の悪さは予想外だったようだ」

「それも含めてあんたのミスだ」

「違いない」


 俺の言葉に不適に笑った魔貴族がピタリと動きを止める。

 その様子はあまりに不気味だった。


「直接手を下したかったが、もはや構うまい……」

「なんや、逃げ口上か? さっさと去れ(いね)や」


 ここで逃げるなと言わないあたり、バルクも相当消耗しているようだ。

 仮初の身体で低能力化してるとはいえ、魔貴族相手に正面を切って戦っていたのだから仕方のないことだろう。


「ああ、()()去ろう。あとはゲルシュ君に任せるとする」


 どういう意味か、あるいは意図かわからなかったが……その答えは、すぐに提示された。

 目の前で。


「ガアアアアアアアア――ッ」


 ブラテノスの気配が消えると同時に、先ほどまでブラテノスであった体が膨らみ咆哮を上げる。

 まるで沸騰するようにぼこぼこと肉が沸き立ち、人ならざる姿へと変化しながら質量を増していく。


「何が起こってるの……!?」

「わからないけど、あんまりいいことは起こりそうにないな! バルク、メアリー! いったん立て直そう!」

「ん」

「おう」


 警戒体制のままとどまっていた二人が、こちらに駆け寄ってくる。

 その間も変化を続ける『何か』は、やがて巨体を持った異様へとその姿を変化させた。


 『それ』は巨大な爬虫類に見えた。

 動物園で見た象よりも二回りほど大きく、キリンのように長い首があって、巨大な四肢と細長く節くれだった腕が首の途中からさらに二対生えている。

 あまりに異様で、どこか怖気を催す姿だった。


「なんや、このけったいなんは」

「念のために聞くけど……こんな魔物(モンスター)って、こっちによくいるの?」

「見た事も聞いたこともないわ。それに、ほら……」


 アリスが指さす先、そこには普通の魔物にはない特徴的な部位があった。

 まるで人の顔に見えるそれは、ゲルシュ先輩の面影を残した頭部。

 恐竜みたいな爬虫類に見えるが、確かにゲルシュ先輩とわかる特徴を残していた。


「コロス、コワス……アアアアア、ニクイ、ニクィィィ!」


 悲鳴じみた咆哮を上げて、こちらにぐるりと顔を向ける魔物(モンスター)

 その表情は、ゲルシュ先輩が俺によく向けていたものに相違なかった。


「クソガ、クソガ、クソガアア! コロシテヤルゾ! オレヲコンナニニシテ!」

「人のせいにするのやめてもらっていいですかね!」


 巨体が動き出す前に牽制を……と考えた俺は、【電撃】を投石紐(スリング)で発射する。

 姿通りの爬虫類であれば、電撃に怯むのではないかと思ったのだ。

 しかし、どうやら当てが外れたらしい。


『ゲルシュ・ザウルス(仮)』の頭部が小さな青い火花を散らして吹き飛びはしたのだが、すぐさまそれは元通りになってしまった。

 ゲームや漫画で『再生能力持ちの敵』というのが出てくるのをよく目にしたが、実際に対峙すると結構ショックが大きい。


「チィ……!」

「大将、【火炎】や! 再生持ちには火がよう効きよる!」

「わかった!」


 バルクのアドバイスに頷いて、今度は【火炎】を放つ。

 ……が、炎はすぐに蠢く肉に吸い込まれてしまい、まるで効果があるようには見えなかった。


「ゼンブコロス。アリス、マズハオマエダ。ツギハメアリー……モヤシヤロウハ、サイゴニコロス。オモイシレ、ニンゲンドモ」

「あんたも元は人間だろうに!」


 緩慢な動きでゲルシュ・ザウルスがこちらに動き始める。

 バルクの戦斧による一撃も、俺の投射弾も、アリスの魔光剣もものともせずに、不気味な笑みを浮かべたまま迫りくるそれはひどく恐ろしかった。

 得体のしれない恐怖に足がすくみそうになる。


「アリス、下がって。狙いは、あなた、だから」

「メアリー先輩もでしょ!」


 全員、どうすればいいかわからないまま追い詰められている……そんな空気感に、俺は一歩前に出る。

 何か手があるわけではない。

 ただ、ここで退いては何も守れやしないという思いがあった。


「付き合うで、大将」


 隣に並んだバルクが戦斧を肩に担ぎ上げて溜めを作る。

 バルクお得意の突撃しての大振り一撃。あの緩慢さと巨体では避けられることもないだろう。


「背後にはわいの女もおるんや。これ以上は行かさんぞ!」

「さて、どこまでやれるかな。でも、時間ぐらいは稼いでみせるさ」


 ちらりと背後を振り返って、アリスとメアリーに目配せする。


「メアリー、後方にいる学生達に事情を伝えて避難誘導を。アリスはギルドに走って、救援を頼む」

「……や、かな」


 小さく首を振ったメアリー先輩が、俺の隣に進み出る。


「ボクも残る、よ。狙いは、アリス、だから」

「メアリー……」

「生き残ったら、子種を、もらう。吊り橋効果? みたいな」


 こんな時でもジョークを絶やさないなんて、異世界の冒険者候補というのは強い。

 そして、俺の恋人も同じく冒険者候補なことを忘れていたようだ。


「わたしも残る」

「危険だ、アリス」

「ううん。だからこそ、全員で立ち向かわないと」


 魔光剣を周囲に煌めかせながら、アリスが意志ある表情を見せる。


「だって、わたし達はパーティ――『メルクリウス』なんだから!」


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