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穴モテはもういやだ!  作者: 大柑子


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04. 二人目の先生

4話



送りの車は、最後はゆうやと2人きりになる。私の家が一番遠いからだ。


いつもは家に着くまで声をかけてこないのに、珍しくゆうやに話しかけられた。



「この前、高校生とカフェにいませんでした?」



最悪の再会をしたバーテンダーの高校生タクトには、定期的に勉強会をしてもらっていた。


昼間だし店からも遠かったから誰にも見られることはないと思っていたが、そういえばゆうやの大学に近いカフェで教えてもらったことがあったことを思い出した。


まさか見られていたとは。



「うん、いたかも」


「親戚とかですか?」


「いや。ちょっと色々あって知り合って、勉強教えてもらってる」



へえ、そうなんですね。と興味があるんだかないんだかわからない返事が来る。


少し考え込むような間があって、ゆうやは言った。



「勉強って、前に言ってた高認ですか?」


「うん、そう」



珍しく会話が途切れずに続いている。


ゆうやは何が聞きたいんだろう。いつもはこんなにグイグイ踏み込んでくるタイプじゃないのに。



「結構本気なんですね」


「本気じゃなかったら勉強なんてしないでしょ


「まあ、確かに」



それからゆうやは何も言わなかった。


タイヤがアスファルトを擦る音だけが車内に響いている。


私は後部座席から何気なくゆうやの顔を見た。前を向いているので表情はよく見えない。


信号待ちで車が止まった時、ようやく口を開いた。



「看護師、受かったら辞めるんですか」



何を、とは聞かなかった。たぶんこの仕事のことだろうから。


ゆうやはてっきり私が昼職に行くことを応援してくれているのかと思っていたけど、そうではなかったのだろうか。



「どうだろ。辞めたいとは思ってるけど」



言葉が止まる。辞めたい気持ちはある。でも、辞めてうまく行くのかは自信がない。



「怖いですか」


「うんまあ、昼職したことないしね。


毎朝早く起きるのとか、給料も確実に今より減るし。ちゃんと適応できんのかなって思うよ」



不安な気持ちを誤魔化すように笑った。たぶん、ゆうやじゃなかったら本音は言わなかった。



「できますよ」



あまりにあっさり言うものだから、私は吹き出した。先ほどまでの苦笑が本物の笑みに変わる。



「そうかな。なんでそう思うの?」


「ひまりさん、意外と真面目なんで」


「意外とって」



大真面目に言うゆうやの口調がおかしくて、私はさらに笑った。



「それ、悪口?」


「褒めてるんですよ」


「初めて言われたんだけど」



クスクスと笑う。冗談を言っているような雰囲気ではなかった。


また沈黙が訪れる。ゆうやはなんだか考え込んでいるようだった。


もうすぐ家に着く。私は再びスマホに視線を落とした。



「……俺、慶應なんですけど」


「知ってるよ。急にどしたの?」


「いや……」



ゆうやが言葉に詰まる。何が言いたいのか見当もつかなくて、私は怪訝な顔をした。



「……俺も、勉強教えれます」



意を決したように言ったその言葉が、車内にこだまする。


珍しく踏み込んでくる意図が読めないまま、私は答えた。



「んー、じゃあゆうやにもお願いしようかな」



息を呑む音が聞こえた。


続けて、いつもの落ち着いたトーンから数段跳ねたようなゆうやの声が返ってくる。



「空いてる日連絡します」


「あでも、個人的に会うのダメだから店でいい?」



ゆうやがハッと我に帰る。


当たり前だ。私はキャストで、ゆうやはボーイだから。


店外で会うなんてバレたら罰金だ。



「ですよね。すみません。店長にも許可取っときます」


「ありがと、助かる。あいつイジってきそうでやだな〜」


「ですね。はは……」



ゆうやの乾いた笑いが聞こえる。


ふと窓を見ると見慣れた景色になっていることに気がついた。


マンションの前で車が止まる。


ゆうやは、念を押すようにもう一度言った。



「また連絡します。お疲れ様でした」


「うん、お疲れ」



軽くゆうやに手を振って、微笑んだ。


暗くて表情は見えない。でも、耳が赤くなっている気がした。


まさかなと思いながら車を背にしてエントランスに向かう。


まあ、教師が2人に増えたから良かったのかもとひとりごちて、私は深く考えるのをやめた。




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