やらかしの97
「ケイジ様、カオズシのギルドから連絡があり、一度来ていただきたいとのことです。」アイリーンが虚無の窓の向こうで報告してくる。
「カオズシ? 何だろう?」
「いえ、内容までは。」
「そうか、行ってみるか。」
「紫炎。」
「はい。」
「ついて行くにゃ。」
「あぁ、ムーニャ、良いぞ。」
「はいにゃ。」
カオズシのギルドの前に出る。
「あ。今気付いたが、門を通らないと駄目か?」
「良いんじゃないですにゃ?」
「まぁ、良いか。」そう言いながらギルドに入る。
数人がこちらを見るが、すぐに目線が外れる。
俺は、空いているカウンターに行き、ギルドカードを見せる。
「呼ばれたようなんだが。」
「あ、はい、お待ち、いえ、こちらにどうぞ。」カウンターの獣人が慌てて俺をカウンターの奥に案内する。
「うん?」俺はその後に続く。
「こちらでお待ちください。」
俺は案内された部屋のソファーに座る。
ムーニャも俺の横にちょこんと座る。
「茶も出さないのか?」俺がぽつりと言うと、
「何が良いにゃ?」ムーニャが言う。
「番茶。」
「はいにゃ。」そう言いながらムーニャが番茶を用意する。
「どうぞにゃ。」
「おぉ。」俺はムーニャが煎れてくれた番茶を啜る。
「美味い。」
「よかったにゃ。」
暫くすると、ログマが部屋に入ってきた。
「ケイジ様、大変なんだ。」
「あ?」
「吸血姫を討伐するといった馬鹿たちが、大量に押し寄せているんだ。」
「あ? そんな馬鹿たちには、ダンジョンの糧にしろとカミラに言ってあるぞ。」
「あぁ、その通りだ、で、ダンジョンが成長したんだ。」
「あ~。」
「今、何階層だ?」
「6階層になった。」
「マジか。」
「中級冒険者で討伐できるぎりだな。」
「どうすれば良い?」
「ギルドで審査すればいいだろう。」
「いや、どうやって?」
「ギルドランクを確認すればいいだろう。」
「あ。」
「お前、馬鹿か?」
「Bランク以上は攻略不可にすれば良いだろう。」
「その手があったか。」
「はぁ、何で気が付かないかな。」
「あぁ、ちょっと行ってくる。」俺は席を立つ。
「え?」
「カミラと話してくるよ。」
「あぁ、頼む。」
俺は、ダンジョンに行く。
「ダンジョンの攻略はこちらにお並びください、今は6階層なのでDランク以下の方以外は4階層までです。」ダンジョンの入り口で、ギルドの受付嬢が叫んでいる。
「ダンジョンへの入場は50Bです、次の献血は5日後に抽選です。」
「あぁ、ダンジョンの入場の予約を頼む。」そう言ってギルドカードを出す。
「は? Aランク?」
「あぁ、ギルマスに頼まれた。」
「はい、ケイジ様ですね、ギルマスから聞いております。」
「あっそう。」
「どうぞお通り下さい。」
「解った。」俺はダンジョンに入った。
**********
「あらあら、旦那様、お久しゅう。」カミラが最下層で俺に言う。
「ずいぶん馬鹿がいたみたいだな。」
「はい、旦那様の御言い付け通り、わっちの命を狙ったものは、ダンジョンの糧にしたでありんす。」
カミラが奥を見ながら言う。
「あぁ、そいつらは?」
「はい、昨日わっちを狙ってきたものどす。」
「そいつらは、どんな状態なんだ?」
「意識がある状態で、ダンジョンに吸わせてありんす。」
「おぉ、良いね。」
「う、あ、そこのアンタ。」一人の男が俺に声をかける。
「あ? 俺か?」
「あぁ、頼む、何でもするから、助けてくれ。」
「あ?」
「そこの吸血姫に話を通してくれないか?」
「何でもするから、助けてくれと?」
「あぁ。」
「そうか、何でもするのか?」
「頼む。」
「よし、じゃぁ、そこで死ね。」俺は冷たく言う。
「な。」その男の顔が絶望でゆがむ。
「俺の作ったルールを破る奴は、生きる価値がない。」
「くすくすくす、旦那様は鬼畜でありんすな。」
「普通だ。」
「あぁ、そうだな、数百人に一人ぐらいはわざと逃がしてもいいかもな。」
「おや、何故でありんすか?」
「恐怖を広めるんだ、ここでお前に敵対したらどうなるかを。」
「くすくすくす、旦那様は本当に鬼畜でありんすね。」
「誉め言葉として受け取ろう。」
「で、頼みがある。」
「はい、旦那様。」
「ダンジョンのレベルを優しくできるか?」
「はい? 優しく?」
「6階層だと、かなりのレベルでないと来れない。」
「え? そうなのでありんすか?」
「あぁ。」
「あら~、そうすると?」
「誰も来れなくなる。」
「おや、それはまずいでありんすね。」
「そう言う事だ。」
「解りました、6階までのレベルを緩くするでありんす。」
「今後は、レベルの高い冒険者は来ないから、うまくやってくれ。」
「はい、旦那様、ご配慮痛み入ります。」そう言いながらカミラが礼をする。
「なに、お互い様だろう?」
「ふふふ、旦那様に添い遂げたくなりんす。」
「にゃ、それは良いにゃ。」ムーニャが声を上げる。
「おや、嫌われたものでありんす。」
「主様には、ムーニャ達がいますにゃ。」
「旦那様、夜伽はいつでも申しつかまりんす。」カミラがにっこりと笑いながら俺に礼をする。
「んじゃ、ダンジョンの調整を頼むな。」俺はそう言いながら虚無の窓を潜る。
「旦那様の御心のままに。」カミラが頭を下げる。
ギルドに戻った俺は、ギルマスのログマに言う。
「カミラを狙った奴らは。」
「奴らは?」
「ダンジョンの奥で、意識がある状態でダンジョンに吸収されていた。」
「な、それは。」
「自業自得だな。」
「今後は、Cランク以下の者達だけにしろよ。」
「あぁ、判った、恩に着る。」
「いや、報酬をよこせよ。」
「勿論だ。」ログマは握手をしてくる。
「あぁ、色を付けろよ。」そう言ってその手を受けた。
ちなみに、今回の買い取りは17G200Bになった。
階層が増えて、ドロップが増えたのだろう。
**********
ベカスカの孤児院は、その年に16歳になる者を、強制的に卒院させる。
対象は、エス、ウイン、アルの3人だ。
「経理と風魔法担当がいなくなるのか。」俺は、それを聞いて言う。
「新しく来た子に、風魔法が使える子と、凄く頭のいい子と、料理ができる子がいるから何とかなるにゃ。」
「そうか。」
「で、エスが主様にお願いがあるそうにゃ。」
「お願い?」
「連れてきてもいいにゃ?」
「あぁ、構わないぞ。」
「紫炎様お願いにゃ。」
「はい。」
虚無の窓が開き、3人がそこを潜ってきた。
「おぉ、お前ら、卒院おめでとう。と言っていいのかな?」
「あ、ありがとうございます。」エスがばつが悪そうに言う。
「で、俺にお願いってなんだ?」
「ケイジ様、私に投資して下さい。」
「投資?」
「ここにいるアルといずれは所帯を持ちたいと考えています。」
「おぉ。」
「そして、しばらくの間はフィンも手伝ってくれることになっています。」
「店を開業する資金を貸してください。」
「どこで、何の店をやるつもりだ?」
「ベカスカでと思ったのですが、孤児院の収入元を奪うことになるので、違うところで。」
「料理は何を出すつもりだ?」
「おにぎりとサンドウイッチを。」
「ん~、華厳。」
「はい、ケイジ様」
「3人ほど面倒を見てくれないか?」
「かしこまりました。」
「と言う事だから、3人は今日からここに住み込みで修業な。」
「え?」
「それだけじゃ弱いよ、この店で修業して、俺の料理を覚えていけ。」
「最近、カリーと言う、暴力的な味の料理を作ってな、それを覚えれば勝負できるんじゃないか?」
「カリー?」
「華厳、カツカリー中辛普通盛りを3個な。」
「はい、カツカリー中辛普通3個だ。」
「は~い、承り。」
「食ってみろ。」俺は机に座ったエスたちに言う。
「はい。」そう言いながら、カリーをスプーンですくって口に入れるエス。
「つぅ!」目を見開いたと思ったら、エスはカレーを何度も口に入れ、カツを食べて動きが一瞬止まり、それでも食べ続けた。
ほかの二人も、同じ有様だった。
「修行、頑張るか?」
「はい、ケイジ様。」エスは目に涙を浮かべて俺の手を取る。
「頑張れ。」
「はい。」
「では、今日の処は見学ですね、明日から見習いで働いてもらいます。」華厳が言う。
「はい。」エスたちは元気よく答えた。
**********
「さて、3人の歓迎会だな。」俺が言う。
「何を作るにゃ?」
「あまり良い肉を使うと、エスが暴走するから、程々の肉ですき焼きにするか。」
「ベカスカの孤児院では振舞っていないから、良いと思うにゃ。」
「エル、エヌ、エム、すき焼きを作るぞ。」
「は~い、承り。」
3人とも、華厳の店で修業しているから答えが同じだな。
「肉は何を使うかな?」
「奮発して、マスターバハローにするか?」
「ケイジ様、ミノタウルスは?」エルが言う。
「いや、う~ん、まぁ良いか、特別だぞ。」
「やた!」エルがガッツポーズをする。
「エスが暴走しなければいいが。」
「あぁ、ついでだ、肉を全部解体してもらっても良いか?」
「やるにゃ。」
「「「やる~。」」」
「エスもつれてきて見せてやれ。」
「はいにゃ。」ムーニャが厨房に入っていく。
「さ~て。」そう言って俺は肉を取り出していく。
「バハロー、オーク、孔雀、火食い鶏、おや?」
「奥の方にハイコカトリスとマスターコカトリスがあった。」
「これ、コカトリスよりうまい肉じゃね?」俺はそれも取り出す。
「ハイコカトリスとマスターコカトリスの首と羽と足の先は虚無の部屋に。」
「はい。」一瞬で丸鶏と同じ状態になる。
え? 血? 紫炎が虚無の部屋に入れるときに、そこに残している。
つまり、完全な血抜きだ。
俺は、ハイコカトリスと、マスターコカトリスのお肉を少しだけ切り取って、残りは虚無の部屋に入れた。
「呼んできたにゃ、って、凄い量だにゃ。」
「問題ない。」
「楽勝!」
「ふんぬ。」エル、エヌ、エムはすでにバハローとオークの解体を終えている。
解体が終わった傍から、紫炎が虚無の部屋に入れているので、実際には孔雀と火食い鶏しかない。
「あぁ、これも頼む。」俺はマシクフのダンジョンの高位お肉をそこに出す。
ブルーボア2、イエローボア2、レッドボア1、グレートボア1、マスターボア1、グレートマスターボア1。
因みに、各ボア種の特性が古い文献に残っていたと、アイリーンが古そうな本を持って来て説明してくれた。
ブルーボアの皮は水耐性があり
イエローボアの皮は雷耐性。
レッドボアの皮は火耐性とのことだった。
で、俺が紫炎に鑑定を頼んだら、普通に答えてくれた。
曰く、グレートボアの皮は水、雷、火の3属性に耐性があり、マスターボアは水、雷、火に加え麻痺と毒に耐性があり、グレートマスターボアに至っては、そのすべてが無効になるらしい。
残念な事に、ブルーボア、イエローボア、レッドボアのお肉は全部同じ味らしい。
マスターボアとグレートマスターボアのお肉はまだ味見していない。
多分、心の準備が必要な味のはずだ。
エスもすぐに、コツをつかみ、ボア種を解体していく。
「終わったにゃ。」
「ボア種の内臓を裏庭に持ってこい。」俺が言う。
「はいにゃ。」そう言いながらムーニャが内臓が入ったバケツをそこに置き、距離を取る。
「ヘルファイア!」俺は、孤児院の裏庭で、ボア種の内臓を焼却処分した。
念のため、「クリーン!」を唱えて、周辺の菌を消滅させる。
「主様、マスターミノタウルスは?」
「止めておこう、今は必要なさそうだ。」
「マスターバハローもいっぱい残っているにゃ。」
「今は良いだろう。」
「はいにゃ。」
「ムーニャ。」
「はいにゃ?」
「エスにオークとバハローの内臓の処理を教えてやってくれ。」
「はいにゃ!」
「エル、エヌ、エムは来年卒院か。」
(エスと違い、ここで修業しているから即戦力だな。)俺はそう思いながら、解体を続ける3人を見る。
俺は、解体されたすべての肉を虚無の部屋に入れ、ミノタウルスのもも肉をそこに取り出した。
さて、華厳の店の、いや、孤児院を巻き込んだ、究極のすき焼きパーティーの始まりだ。
一口食べた、エスが固まり、その後エル、エヌ、エムに詰め寄っていた。
今まで、こんなに良いものを食べていたのか?と。
月に何度かだよ。とエルが答えると、エスは上を向いて手で目を覆い、首を振るとすき焼きの争奪戦に戻っていった。
きっと、自分の失言で、ベカスカの孤児たちがこれを食べられなかった事に対する謝罪と、今自分がこれを食べられる『幸せ』を噛みしめたようだ。
因みに、ハイコカトリスは、コカトリスの肉に旨味を上乗せした味で、マスターコカトリスは肉に絶妙な味が付いていて、焼いても煮てもその味だけで最上の料理になった。
(鶏系はワシカ、牛はマシクフ、豚は近郊ってことで良いか?)俺はそう考えた。




