やらかしの92
朝日が、カーテンの隙間から部屋に入ってくる。
私は、読んでいた書類から目を離し、目頭を押さえる。
「もう朝か。」独り言を言いながら、窓のところに行き、カーテンを開ける。
気持ちの良い、日の光が、部屋を明るく照らした。
「コン、コン、コン。」誰かが玄関のドアーをノックしている。
私は、書斎のドアから首だけ出して言う。
「鍵は開いているから、勝手に入ってきていいぞ。」
「おはようございます!」そう言いながら、一人の少女がドアを開けて入ってきた。
「今日の朝、収穫した果物です、とっても美味しいから、食べてくださいね。」そう言いながら、少女は果物が山盛りになった籠を、書斎のテーブルの上に置く。
「ほぉ、リゴとブドか、もうそのような季節になったのだな。」そう言いながら、リゴを手に取ると、袖で磨いて口に入れる。
甘酸っぱい果汁が口の中に広がった。
少女は、ニコニコしながら私を見ている。
「私の顔に何かついているかな?」
「領主さまの目が奇麗だなぁって、思って、見ていましたすみません。」少女は頭を下げる。
「いや、それは良いんだが。」
私の顔は、魔族特有の、いや、より魔獣に近いものだった。
それなりに整った顔であるが、肌の色は、深紅に近い赤、紫色の髪、両の目は金色で瞳孔は猫のように縦に割れている。
口には少し長めの牙もある。
「いや、お前は私が恐ろしくはないのか?」
「はい? 領主さまがですか?」少女は首をかしげる。
「あぁ。」
「全然怖くありません、お優しいことも分かっていますから。」そう言いながら、少女はコロコロと笑う。
「そうか。」
「はい。」
「あぁ、明日から3日ほど家を空けるから、その間は何も持ってこなくていいぞ。」
「はい、では、お掃除だけしておきますね。」
「あぁ、宜しく頼む。」
私は、その日の午後、古くからの知り合いを訪ねるために、領地を留守にした。
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3日後に領地に帰った私は、目を疑った。
「なんだこれは?」私は領地の荒れた様子に驚愕する。
豊富に実っていた、リゴやブドの畑は荒らされて、実りは何もなくなっている。
それだけではない、所々で火の手が上がり、民家が燃えている。
あちらこちらに、領民の男達の躯が転がっている。
「!」私は、自分の家に走る。
家は無事に残っていたが、家の中は酷い有様だった。
私の財産が、すべて消えていた。
いや、そんな物はどうでもいい。
私の寝室に、あの少女が、凌辱されて討ち捨てられていた。
「ああああああああああっっっ!」私は叫んだ!
何故?
いや、違う。
この少女に、何の罪があった?
いや、罪などあるはずがない。
では、何故、彼女は辱められて死んだ?
私は、自分の箍が外れた事を感じた。
意外にも、犯人は領土の直ぐ傍にとどまっていた。
鹵獲できなかった女性を再度襲おうとしていたようだ。
私は、そいつらを襲った。
それは、蹂躙と呼ぶのに等しかった。
「な、なんだお前は?」
「お前らの敵だ。」そう言いながら、目の前の男の首を撥ねる。
「な、なんだ、おま 言い終わる前に首を撥ねる。
撥ねる。
撥ねる。
撥ねる。
撥ねる。
撥ねる。
撥ねる。
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ボスらしき男以外を屠った。
「では聞こう、何故、我が領地を襲った?」最後に残った、盗賊のボスの四股を切り裂いた後で問う。
「そこにあったからだ。」ボスが言う。
「お前は、目の前に村があったら、その村を襲うのか?」
「あぁ、それが俺達の稼ぎだ。」悪びれるでもなく、その男が言う。
「ほぉ。」
「俺は、バラン様の加護を受けている。」
「はぁ?」
「だから、俺がすることは、正義だ!」その男が言う。
「バランとは何だ?」
「魔王第一位のお方だ。」
「で、そのお方が加護を与えると、何故町や村を襲って良くなるんだ?」
「魔王第一位の加護だぞ、ただの人間は糧だ。」
「はぎゃ!」
俺は、感情的にその男の首を握りつぶした。
魔王第1位バラン。
「屠りましょう。」私はそう決意し、ゴーレムを製造し、デスナイトを召還する。
その数、200体ずつ。
「バランの居城、ヤゴナに向けて進軍、敵対する者は蹂躙する!」
そして私は、ヤゴナに向けて進軍を開始した。
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「紫炎。」
「はい。」
「テダに近いのは?」
「マシクフのダンジョンです。」
「そこからの距離は?」
「140Kmです。」
「いくつ跳べばいい?」
「ケイジ様の今の1跳躍は50Kmですから・・」
「3跳躍で着くと。」
「はい。」
「はぁ、気にしたら負けのような気がする。」
「紫炎、マシクフのダンジョンへ。」
「はい。」
「ご主人様。」
「なんだ、ヒドラ。」
「お供しても?」
「あぁ。良いぞ、抱っこか?」
「ほほほ、虚無の部屋に。」
「はい。」ヒドラが消える。
あんたら、紫炎を使いこなしてますね?
「はぁ、紫炎、マシクフのダンジョンに。」
「はい。」
開かれた虚無の窓を潜る。
「あぁ、あんた、上ポーションを持ってないか?」慌てた様子の男が俺に駆け寄ってくる。
ん? 以前似たようなシチュエーションが、そう思いながら俺は聞く。
「どうした?」
「相棒が、バハローの角に突かれて死にそうなんだ。」
「どこにいる?」
「あぁ、こっちだ。」その男はダンジョンの入り口に案内する。
そこにいたのは、下腹部の半分ががぐちゃぐちゃになった女性だった。
「おい、上ポーションじゃ無理な傷だぞ。」俺が言う。
「え?」それを聞いた男がその場で崩れ落ちる。
「ごふっ、アラン、もういいよ。」口から血を吐きながら女が言う。
「な、ケイトまだ何とかなる。」
「ははは、ミノタウルスにやられるならともかく、バハローにやられたとか受けるわ。」ケイトという女が自虐的に言う。
「そんな。」
「アラン、あたい実はアンタが好きだった。」
「ケイト、俺もお前が大好きだ。」
「嬉しい。」
「ケイト。」
「アンタの腕の中で死ねるなら本望さ。」
「ケイト、死ぬな~。」
「あぁ、アラン、あんたと結婚したかった。」
「ケイト~。」
「あ~、感動のお別れシーンを邪魔するぜぃ。」俺が言う。
「「え?」」
「ライフ。」
其の途端に、ケイトという女の下腹部は何もなかったように修復する。
「え?」
「あれ?」
「あぁ、俺がここにいてよかったな。」俺はそう言いながら跳ぼうとする。
「あの、ありがとうございました。」
「あぁ、次は気をつけろよ。」
「あの、俺たち来月結婚するんです。」
「俺を呼ぶなら、2万Gでギルドに依頼しろ。」
「え?」
「それが相場だ。」
「あなたのお名前は?」
「ベカスカのギルドの冒険者、Aランク、ケイジだ。」
「ベカスカ、Aランク、ケイジ・・様」
「んじゃな。」そう言って俺は跳ぶ。
「わはははは。」
「ふはははは。」
「なはははは。」
「本当に3跳躍で着いたな。」
「いえ、2跳躍でも行けそうな?」
「はぁ、俺、ますます人外だな。」
「・・・・」
「黙るなぁ!」
「ケイジ様、前方で戦闘です。」
「ほぉ。」見ると、冒険者と思われる集団達が、ゴーレムと魔族の入り混じった部隊と交戦していた。
「この領には、軍隊はいないのか?」そう思いながら俺はその場所に走った。
「うん、これを止める手はないかな?」
「全エリアを「スタン」すれば可能です。」
「ゴーレムや魔物にも効く?」
「はい。」
「んじゃ、スタン!」
途端に、戦闘音が消えた。
冒険者も、ゴーレムも、魔物もその場で固まっている。
俺は、元凶らしき魔族を見つけ、そこに向かって歩く。
「あ~、みんな意識はあるんだな。」ゴーレムが殴りつける腕を目の前に見ている冒険者が、その目を見開き、動かない身体で避けようとしている・・らしい。
俺はゴーレムの腕を少しだけずらして、直撃を避けさせると、冒険者は安堵した顔になった。
俺は、その魔族の前に行く。
「なぁ、聞いて良いか? なんでこんな場所からヤゴナに侵攻するんだ?」
「・・・」
「あれ? 紫炎、こいつ固まってる。」
「ケイジ様の「スタン」はそれほど強力です。」
「こいつだけ動かす、いや、話せるようにするには?」
「ヒールを。」
「ヒール?」
「はい、スタンの影響下で会話だけ可能になります。」
「んじゃ、ヒール。」
「お前は何者だ!」魔族の男が言う。
「おぉ、第一声が其れか、俺はケイジだ、宜しくな。」
「ケイジ? なぜ私の邪魔をする?」
「あぁ? 俺の住む場所を壊そうとする存在を邪魔しない理由はなんだ?」
「それは。」
「それは?」
「魔王第一位のバランを滅するため。」
「はぁ?」
「お前、ここからヤゴナまでどんだけ距離があると思っているんだ?」
「知らん。」
「知らんじゃねーよ。」
「どのくらいあろうとも、バランを滅する!」
「あぁ、勝手にやってればいいよ、俺に害しなければ。」
(紫炎、この世界で1kmはどんな単位だ?)
(1Kmが1000長です。)
(おぉ、判りやすいな。)
「お前の名前は?」
「我はザード、魔王9位、超神ザードだ。」