やらかしの79
次の日、ムーニャはベカスカの孤児院でエスを手伝ったそうだ。
泣きはらした真っ赤な目で、エスがサンドウィッチとおにぎりを作っていたらしい。
ムーニャに、こっそりとモクチクと油紙を持たせたのは内緒だ。
エスが、自分から俺に支援を求めてきたら、応じるつもりだ。
エスならきっと気づいて、頼ってくるだろう。
さて、その日の昼過ぎに俺は色々仕込むことにした。
前回の領主前婚と同じ、ミスリスソード、ミスリルの皿やら色々、皿の絵柄は微妙に変えた。
「そして、ローストミノタウルス、コカトリスの唐揚げ、コカトリスの照り焼き。」俺が言うと、エル、エヌ、エムが手を上げて声を上げる。
「「「お~。」」」
彼女たちは、ベカスカの孤児院で、俺がそこを見捨てた次の日に、ヤミノツウに来て俺に弟子入り宣言をした。
ムーニャはにっこりとほほ笑んだが、その3人は真剣な表情で、綺麗な土下座をする。
そんな者たちを無下に扱ったら、俺の品格が問われるじゃないか。
3人と、ムーニャ、そして俺で料理を作る。
「コカトリスの唐揚げ醤と塩、コカトリスのもも肉の照り焼き、ローストミノタウルス、味付け有りと無し。」
「むははは、美味いに決まっているじゃないか!」
************
そして、結婚式にヒドラを従えて行き、領主様の前で料理のお披露目だ。
「まず、ローストミノタウルスです。」
「み、ミノタウルス?」
「なんと、超高級食材ではないか?」
「ローストとはどのような?」
俺は、自家製のミスリル製肉切り包丁で、6mm厚に切ると、前回のように二枚ずつ、4皿を領主様に献上する。
「な、中が赤いぞ、生焼けなのか?」
「いや、火は通っているように見える。」
なんちゃってソースは、前回と同じ、味付きは少なめ、味無しは多め。
「おぉ、これは。」
「なんと、味わい深い。」領主夫婦が驚愕の声を上げる。
俺は、同じものを4皿作ると、新郎新婦の前にもって行かせた。
「そして、新婦のお父様のご依頼で、特別に提供いたします、コカトリスの照り焼きとコカトリスの唐揚げです。」
「こ、コカトリスだと!」
「な、あり得ない!」
「そこの君、どうやって手に入れた?」
「は? 私が狩りましたが。」
「な、あり得ない。」
「いや、実際にお持ちしましたが。」
「証拠は?」
「は?」
「証拠はと言ってるんだ、金鶏辺りで誤魔化しているんじゃないか?」
「そこのあなた、ご主人様を侮辱するのですか?」
「げ、魔王様ですか?」
「ヒドラ、良いから。」
「でも、ご主人様。」
「もし、コカトリスの証拠を出した場合、あんたはどうするんだ?」
「え?」
「この衆目の中で、俺にいちゃもん付けたんだぜ。」
「その時は、お前の前で土下座し、この家宝の宝剣をくれてやるわ!」
「うわ、要らねぇ。」
「んじゃ、気の弱い方は目を瞑って下さい。」そして、虚無の部屋からコカトリスの首を取り出す。
「げぇ。」
「図鑑で見たことがある、本物だ。」
「マジか。」
「鶏冠、嘴、眼玉がすべて素材になるらしいので持っているんですよ。」俺は、全員に見せると虚無の部屋に仕舞った。
「あれだけで、家が一軒建つらしい。」
「俺、初めて見たよ。」
「あほか、あんなもの普通は一生見れないよ。」
「だよなぁ。」
「さて?」そう言って、さっきの男を見たら、一目散に逃げだしていたが、冒険者らしき男たちがぼこぼこにして俺の前まで連れて来た。
「おっさん、きちんと筋を通せよ。」連れてきた冒険者が言う。
「あ、う、すびばぜんでじだぁ。」その男が俺の前で土下座する。
「あぁ、気にしてない。」
「本当ですか?」その男が、顔を上げるが、
「嘘だ!」俺が言うと、真っ青になった。
「んじゃ、宝剣は貰うな。」そう言いながら、腰の剣を取る。
「え? あ、その。」その男が狼狽するが、気にせず新郎の前に行くとその剣を置いた。
「後から、もう一振り渡すから、これは売り払って家計の足しにしてくれ。」
「え? はい、ありがとうございます。」新郎はローストミノタウルスを頬張りながら言う。
「あぁ、1000Gぐらいが相場だぞ。」と、紫炎から聞いた価格の10倍を宣言する。
「ギルドのオークションに出すと良い。」俺は更に助言する。
「はい、そうします。」
おっさんは、家宝と言っていたからな、開始1000Gのオークションに入札するだろう。
勿論、2000Gまでは、俺が競るけどな。
おっさんは、項垂れて会場を出て行った。いい気味だ。
「さて、味噌が付いたが出すぞ。」
量が量なので、熱いままボールに入れて虚無の部屋に入れていた。
「このボールは、中身がなくなったら洗って新婦に。」傍にいた執事に宣言し、皿にレタを置いて一切れ乗せれば完成。2皿を領主様に献上する。
「なぁ。」
「こ、これは。」領主夫妻がフリーズしているが無視だ。
「次に、コカトリスの唐揚げです。」
「唐揚げとはどのような調理法なのだ?」
「いや、其れよりも、コカトリスだぞ、食いたい!」
「領主様はどうやって配分するんだ?」
「まさか、独り占めとか?」
「その場合は、暴動必至だな!」
「おぉ、そう言えば、ベカスカの領主前婚で、同じようにローストミノタウルスが提供されたと聞いた。」
「その時は、どう配分したんだ?」
「ビンゴとかいう方法で、当たった順に好きな皿を選んだらしい。」
「マジか」
「今回もそうしてくれないかな。」
「ベカスカでは、一応全員に配られたらしい。」
「どう考えても、提供者は同じだよな。」
「なら、ワンチャンあるか?」
「祈ろう!」
前の金鶏と同じ、醤がバク粉、塩が片栗粉。
それぞれ3個を、レタにマヨネーズを乗せて4皿。
領主様に献上。
「最初はそのまま、お好みでレタの上のマヨネーズをつけてお食べ下さい。」
「はう!」
「なななな。」領主夫妻が固まったようだ。
相手の貴族にマウントを取るのに十分だった。
そして、新郎の剣にはいつもの対応。
マヤオの3階層まで頑張れ! 貴族ども!
新婦への貢物には、領主様の妻から横やりが入ったが、これもマヤオのダンジョンの3階に振って落ち着いた。
魔王の奥さんだから、魔王直々に動けば造作もないな。動けばだけどな。
「あっははは、戦況は良い状況ではないか。」俺が思う。
料理の配分は、領主に丸投げしたよ、幸い、ベカスカの騒動が伝わっていたらしく、ビンゴ大会になった。
領主は、良い収入になったらしく、式の最後に俺を領主邸に招いてくれた。
「おぉ、俺はガランと言う、宜しく頼むぞ。」その部屋に入ると、両手を差し出しながら、俺を出迎える領主。
「あぁ、俺はケイジだ、宜しくな。」
「え? ケイジ? 最近魔王を討伐したり、配下に加えている奴か?」
「あ? 多分俺だ。」
「な、俺を討伐に来たのか?」
「はぁ、其れならもうお前はこの世にいないぞ。」
「な?」
「ほほほ、お久しぶりですね、ガラン。」俺の横でヒドラがカテーシをする。
「な、ラドーン様か、お久しぶりです。」
「ヒドラです。」
「は?」
「私は、こちらのご主人様より、ヒドラを拝命いたしました。」
「な、おぉ、其れはすまなかった、ヒドラ様、私の耳に届いていなかったのだ、許してくれ。」
「ほほほ、其れでは仕方ありませんね、不問にします。」
「で、俺がケイジだ、まぁ、宜しく頼む、堅苦しいのは好きじゃないんでな。」
「おぉ、魔王と呼ばれるものを、何人も討伐し、あるいは配下にする男か、我妻の要求を拒絶して、尚、私の前に来るのは、豪胆なのか、馬鹿なのか?」
「ガラン、我夫を侮辱しますか?」
「ヒドラ、良いよ。」
「でも、ご主人様。」
「お前じゃ、勝てない相手だろう?」
「はい。」
「格はお前の方が上だが、レベルはガランが上だもんな。」
「はい、私はレベル190、ガランは195。」
「な、ケイジ、お前は俺を看破するのか?」
「ほほほ、ガラン、ケイジ様を侮辱するのですか?」
「え? いや。」
「で、俺を呼びつけたのは何でだ?」不機嫌そうに俺が言う。
「あ、いや、俺の妻の要求を跳ね付けた奴がどんな奴か見たかっただけなんだが、虎の尾を踏んだみたいだな。」
「あぁ。」
「お前が、新郎達にやった食器は何処で買ったのかを知りたい。」
「あ? 俺が造った物だ。」
「え?」
「あ? 聞こえなかったか? 俺が造った。」
「いや、すまない、素直にマヤオのダンジョンを攻略するよ。」その答えを聞いたガランが言う。
「はぁ? 何言ってるんだ、今この時点で変更だよ。」
「え?」
「今から、ヤミノツウにダンジョンを作らせる。」
「え? ダンジョンを作らせる?」ガランが言う。
「ちょっと頭にきたから、一階はレベル100の獣人が即死するレベルで。」
「な?」
「それ以降は、階数×40レベルのモンスターを配置、更にフロアボスはレベル230のロックゴーレムで。」
普通の魔族なら、瞬殺レベルだ。
「5階層に、魔石を出すよ。」
「な。」
「がんばって踏破してくれ。」俺が魔石を取り出しながら言うと、ガランが肩を落としていた。
「俺は、どんだけヤバイ奴を敵にしたんだ~。」
「あぁ、今から20日以内に攻略しなかったら、普通のお肉ダンジョンになるからな。」
「え?」
「楽勝な攻略だな。」俺が言う。
「ケイジさん、俺は敵対しないぞ。」ガランが叫ぶ。
「ほほほ、ガラン、貴方は誰を対等と思っているのですか?」ヒドラがガランに言う。
「いや、マジで、敵対しない。」ガランが叫ぶが、
「だから?」俺が、冷ややかに言う。
「まじかぁ~。」ガランがその場でひれ伏す。
「俺は、何も要求しないぞ!」俺が言うが、死刑宣告だったらしい。
************
俺は、ガラン、魔王順位8位、しかし、眼の前に有るのは絶望だった。
俺は項垂れる。
「俺は、何も要求しないぞ!」その男の言葉と共に。
「いや、無理、無理、無理。」奥さんの要望でも、目の前の男には太刀打ちできないのが判る。
こんなことなら、マヤオのダンジョンで納得しておけばよかった。
なんだよ、レベル230のロックゴーレムって。
俺が、最大レベルの攻撃を放って何とか攻略できる奴だよ。
きっと、目の前にいるケイジという奴は、俺の能力を看破してそれを設定している。
きっと、その手前で俺が、魔力切れをすると見越した布陣だ。
いや、俺に協力してくれる魔王がいれば、まだ何とか。
俺は思う。
俺の上は、ボルカ様とバラン様。
「いや、無いわ。」
第1位と5位、絶対無理だ。
そうすると、第13位火焔竜マグマ。
いや、8位の俺が無理なのだ、それ以下とかないわ~。
詰んだな。
俺はその場で、奥さんに土下座する。
「すまない、俺には無理だ。」
「いえ、貴方、良いのです、貴方が私の傍にいてくれるこそが、私の望み。」
「つっ。」
「貴方が、いなくなるのなら、私は我慢いたします。」
「くっ、すまない!」俺が床に額を擦る。
「あぁ、俺を見て、敵意を表さなかった礼だ。」ケイジが俺に言う。
え? 何を言ってるんだ?
俺は、ケイジを見る。
そこには、ミスリル製の食器一式と、ボウル、各種包丁、計量カップと桐の箱があった。
「試しは何時でも受けるぞ。」ケイジはそう言いながら姿が消える。
「な?」俺はその場で膝をつく。
「あなた。」奥さんが俺の傍に来て言う。
「おぉ。」
「今から、バランではなく、ケイジ様に従いなさい!」
「え?」
「あ? 私の言う事が聞けないのですか?」
「な?」
「は?」
「判りました。」
俺は、ケイジ様に下ることになった。
因みに、食器に施された花のレリーフは、そこにいた花嫁とまったく違うものだった。
「ははは、ケイジ様、器が違うのを理解しました。」俺は、その場でケイジ様が消えた場所に平伏した。
「ご主人様は、本当にお優しい。」
「ん? 何のことだ?」
「ほほほ、いえ、良いのです。」
「?」