やらかしの78
「おぉ、方向も、距離もばっちりだな。」そう言いながら、小屋の前に降りる。
「もどったぞ。」そう言いながら小屋に入ると、3人の男に出迎えられた。
「ど、どうでした?」
「何か、進展は?」
「どんな情報でも。」
「あぁ、待て、待て、終わったから。」
「え? 何がです?」
「全部。」
「どういう意味ですか?」男が詰め寄ってくる。
「だから、待てって、男に詰め寄られても困るよ。」
「あ、す、すみません。」男が離れる。
「紫炎、3人を。」
「はい。」
そこに、ラメガ、スライバ、ロギンが現れる。
「おぉ、お前ら、無事だったのか!」
「いや、今どこから?」
「え? なぜ小屋に?」
そこにいた全員が、混乱する。
「お前ら、とりあえず落ち着け~。」気の抜けた声で俺が言うと、とりあえず静かになった。
「俺の受けた依頼は二つ、「聖リロスゴ学院の生徒達の消息確認」と「ドレース姉妹の保護」だ。」
「あぁ、聖リロスゴ学院の生徒達の消息確認は、俺達が依頼した。」男の一人が言う。
「依頼達成は、どこでやれば良い?」
「え? どういう事だ?」
「ここで出せば良いか?」
「何を?」
「生徒達。」
「は?」
「ちょっと待って。」ロギンが声を上げる。
「貴方、全員収納しているの?」ロギンが俺に言う。
「あぁ、お前達もそうやってここまで運んだ。」
「な?」ロギンが固まる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺も空間魔法が使えるが、人間を20人も入れられる収納は無理だ。」
「いや、俺が、たまたま出来るだけだろう?」
「いや、それに俺達3人か?」ラメガも震えた声で言う。
「で、ここで出せば良いか?」
「いや、ちょっと待ってくれ。」そこにいた男が考える。
「ケイジさん、頼みごとがある。」
「なんだ?」
「俺を、ジフのギルドまで連れて行ってくれないか?」
「は?」
「いや、説明が足りなかった、俺はゴルンバと言う、ここのリーダーだ。」
「あぁ、それで?」
「依頼はジフのギルドで行ったから、そこで生徒を開放してくれ。」
「なんか、俺が拉致したみたいな言い方だな。」
「依頼完遂の確認が一発で出来るからな。」
「あぁ、そう言う事なら。」俺は快諾する。
「んじゃ、お前を収納して跳ぶから、今から、あ~、時間の単位は無いのか?」
「時間の単位?」
「一刻は判るんだろう?」
「あぁ。」
「其れの下の基準は?」
「え? 一刻は、六0薄で一薄は六〇瞬という奴か?」
「あるんじゃん、何で孤児院の奴ら、あ~、教育がないのか。」
「10薄で着く。」俺が言うと、ロギンが食いつく。
「ここからジフまで40距離ある、其れをどうやって10薄で移動するんです? 魔法ですか?」
「いや、物理だ。」
「え?」
「跳ぶんだ。」
「はぁ、40距離を?」
「あぁ。」
「10薄で?」
「あぁ。」
「あははは、何それ、ねぇ、あたしを抱えても跳べる?」ロギンが言う。
「あぁ、問題ない。」
「じゃぁ、あたしもジフに連れて行って。」ロギンが言う。
「あぁ、其れは良いが対価は?」
「え?」
「ゴルンバの移送は、依頼に含まれる内容だ、だが君の移送はそれに含まれないよな。」
「あ。」納得したような顔をしたロギン。
「では、私をジフまで護衛してくれ、対価は1Gだ。」ロギンが言う。
「あぁ、請け負った。」俺が言うと何故かロギンが嬉しそうに俺に近づいてくる。
「あぁ、ケイジさんと言ったか?」
「あぁ。」
「商人の婿になる気はないか?」
「あぁ、悪いが、俺には今、11人の妻がいる。」
「は?」
「だから、これ以上嫁はいらない。」
「な、え? 11人?」ロギンがうろたえる。
「で、ジフまで送るのはどうするんだ?」
「え? あぁ、お願いする。」そう言いながらロギンは俺に皮袋に入ったビットを渡してくる。
「んじゃ、いくか、ゴルンバは収納と、抱っこのどっちが良い?」
「収納で頼む。」
「おぉ、で、ロギンは?」
「抱っこで。」
「え?」
「抱っこで。」
「お勧めしないぞ。」
「抱っこで。」
「はぁ。」俺はため息をついて、ロギンをお姫様抱っこする。
「後悔しないな?」
「えぇ。」
「んじゃ、跳ぶぞ。」
「わはははは。」
「んぎゃぁぁぁぁぁ。」
「ここがジフか?」俺は周りを見て言う。
俺がいきなり跳んで来たことに、うろたえる門番。
腕の中では、泡を吹いて、下半身を黄金色の液体で汚すロギン
俺は、ロギンに浄化魔法をかけて、ヒールを唱える。
その場で放心するロギン。
「はぁ。」俺は、ため息をつきながら、ゴルンバを虚無の部屋から出す。
そこにいた門番は、更に固まる。
「な、ここは?」ゴルンバは一瞬固まるが、門番を見て状況を把握する。
「あぁ、俺は、ランクBのゴルンバだ。」ゴルンバがギルドカードを示す。
「あたしは、同じくランクBのロギンだ。」
惚けていた、ロギンも同じようにカードを示す。
んじゃ、俺もやっておくか。そう思いながら、ギルドカードを見せる。
「ベカスカ、Aランクのケイジだ。」
「な!」
「あれ? 何で固まる?」俺がそう思うが、門番がざわついている。
「な、え? Aランク?」ロギンが固まる。
「あれ? まずかった?」俺はそう思うが
「ようこそジフへ。」
そこにいた門番の態度が変わる。
「ははは、Aランクの方の入国、歴史に残ります。」別の門番が言う。
「え?」
「いや、ケイジさん、マジで凄いですね。」ゴルンバが俺に言う。
「Aランクに上がるには、ダンジョンを何個か攻略するか、魔王を討伐するかそれ以上の功績を上げないと無理ですからね。」
「ほほほ、人間では到達できないレベルでないと言われています。」ロギンも続く。
「え? 俺、最初からAランクだったぞ。」
「え?」
「は?」
「ダンジョンも、何個か攻略したし、魔王も討伐したけど。」
「はぁ?」
「ほぇ?」
「何か、失礼な対応だと思っちゃ駄目か?」
「いや、ケイジさん、其れマジで言ってますか?」
「お前は、我マスターを侮辱するのか?」
「サラン、良いから。」
「でも。」
「そうだな、これを見せれば納得するか?」そう言いながら、孔雀の肉を取り出す。
「え? 何ですか其れは?」
「孔雀の肉だ。」
「はい? 孔雀?」
「マヤオのダンジョンで捕れる、最高級の肉らしいぞ、あ、その上にコカトリスがいるらしいけどな。」
「コカトリス?」
「おぉ、これだ。」俺はコカトリスの肉を取り出す。
「あいや~、そ、そ、そ、それは、こ、こ、こ、コカトリスの肉ですか?」そこにいた商人が反応する。
「え? ああそうだ。」俺が答えると、
「お譲りいただけないでしょうか?」
「はぁ、コカトリスを?」
「はい。」
「相場は知ってるか?」
「はい、1重10000G、あるいはそれ以上。」
「一応聞こう、なんでだ?」
「はい、この度、わが娘の輿入れが成立しました。」
「つまり、娘さんが結婚する、その嫁ぎ先が高貴なお方って事か?」
「はい、その通りです、そこにコカトリスの料理を出せば、娘への対応も変わると思いまして。」
「ん~。 婚礼は何時だ?」
「明後日です。」
「何の料理を作るつもりだ?」
「いえ、何も考えては。」
「これを食ってみてくれ。」
俺は、金鶏の唐揚げを一つ取り出す。
「え、今どこから、そしてこれは?」
「金鶏の唐揚げだ。」俺は皿に乗せたそれを差し出す。
「金鶏、幻の、では。」そう言うと、その商人は唐揚げを摘まみ口に入れる。
「あふぃ。」そう言うと唐揚げを口から出し、ふうふうと冷まして、もう一度口に入れる。
「な、こ、これは。」商人はうっとりとした表情をする。
「これで良ければ、俺が作ってやるが、報酬はいくら払う?」
「コカトリスでこれを?」
「あぁ。」
「判りました、コカトリスの肉1重、この料理で20000Gで。」
「前払いでも良いか?」
「はい。」
「俺は、招待客と言う事になるのか?」
「はい、そうなります。」
「領主前婚か?」
「はい。」
「どこでやるんだ?」
「はい、ここジフの領主様、破壊神ガラン様の御前で。」
(第8位、バランの派閥です。)
(まぁ、こっちから仕掛けなければ、問題ないだろう?)
「よし、ギルドに行って、指名クエストを出してくれ。」
「はい、判りました。」
「あぁ、ゴルンバとロギン悪かったな、早速ギルドに行こう。」
「いや、今後絶対見られない依頼内容に立ち会えたことを幸運と思うよ。」
「ほほほ、この話だけで、子や孫に話す内容になるわ。」
「そうか? いや、この後のことを話す方が盛り上がると思うぞ。」
ジフのギルドに着いた。
「ギルマスを呼んでくれ、きっとこのギルドで語り草になる内容だ。」ゴルンバが受付でそう言う。
「いや、そんな大ごとかよ。」俺は思う。
受付の獣人が二階への階段を上がった。
************
「どうしたゴルンバ、俺も暇じゃないんだぞ。」不機嫌そうな顔をした男が階段を下りてくる。
「ここにいる、ケイジさんが俺の依頼を達成してくれた。」
「なに、不明の生徒が見つかったのか?」
「あぁ、其れだけじゃない、ラメガ以下3名の引率も保護してくれた。」
「おぉ、俺はケイジだ、宜しくな、ここで出せば良いか?」
「おぉ、お願いします、ケイジさん。」ゴルンバがそういうので、俺は、聖リロスゴ学院の生徒達をそこに出す。
「え? 此処何処?」
「あれ? ケイジ様?」
「森にいたはずなのに?」
「な、これは?」ギルマス以下、ゴルンバとロギン以外の者達が固まる。
「あぁ、ロギン、手を出せ。
「え?」そう言いながら手を出すロギン。
「両手で持った方がいいかな?」俺の言葉に両手を出すロギン。
俺は、そこにキメラの魔石を取り出す。
「え、え?」ロギンがうろたえる。
「お前たちが、生徒を守るために戦っていたキメラの魔石だ。」
「なぁ?」ギルドマスターが声を上げる。
「じ、じ、上級魔石?」
「いや、倒したのはケイジさんじゃないですか。」ロギンが叫ぶ。
「いやいや、生徒を守り、一日以上戦って時間を稼いでくれたじゃないか、当然の権利だ。」
「ろ、ロギン、一個5000Gで買うぞ。」ギルドマスターがにじり寄ってくるが、
「ちゃんと、魔石専門の店に行って鑑定してもらった方が良いぞ、俺は前に一個17000Gのを売ったことがある。」俺がそう言うと、
「はぁ? 17000G?」ギルドマスターが固まる。
「そ、そ、そ、そんな法外な・・」
「え~? 法外とか、魔石ごとに宿った魔力量が違うらしいから、鑑定した方が良いと思うんだがなぁ。」
(ケイジ様、鑑定可能です。)
「あぁ、んじゃ、俺がちゃちゃっと鑑定してみるか。」そう言いながらそれらしいポーズをとって、魔石を鑑定したふりをする。
(紫炎。)
(はい、3個とも12000Gです。)
「これは、どれも魔石3500個分だ、一個12000Gが妥当だろうな。」
「おい、お前、何を根拠に言ってるんだ?」ギルマスが俺に詰め寄る。
「おい、ギルマス、そこにいるケイジさんはAランクだぞ。」ゴルンバが言う。
「な? Aランク?」ギルマスが固まる。
「あぁ、ベカスカのカードが通用するならな。」そう言いながら俺はカードを見せる。
「う、あ。」ギルマスが沈黙した。
「じゃぁ、決済を宜しく。」そう言いながら、受付の女性にカードを渡す。
「はい、聖リロスゴ学院の生徒達の保護、確認しました。」受付嬢は機械的に読み上げる。
「緊急クエスト、ドレース姉妹保護確認しました。」同じように機械的に読み上げる受付嬢。
「この受付嬢出来るな!」
「全てのクエスト、確認、支払いは1000Gです。」
「あぁ、決済ヨロ。」俺が言う。
「キメラ討伐、3体確認しました、300Gです。」
「ほらぁ、あんたの手柄じゃない!」ロギンが騒ぐが無視だ。
「ケイジ様、指名クエストが入っています。」
「おぉ、受けた。」
「え?」
「内容も聞かずにですか?」
「コカトリスの肉で、料理を作れ、だろう?」
「え、あ、はい、そうです。」
「受けるよ!」
「では、前払い20000Gをお支払いします。」
「はぁ、なんだそりゃ。」そこにいた、ロギンとゴルンバ以外全員がフリーズした。
「その依頼内容を聞いても良いか?」傍にいた冒険者の一人が俺に尋ねる。
「明後日までに、コカトリスの唐揚げを納品すればオッケーな楽なお仕事。」
「は?」
「え?」
「こ、コカトリス?」
「あぁ、そうみたいだな。」
「いや、他人事みたいに。」
「マヤオのダンジョンで普通にドロッ、いや、ギルドで聞いてくれ、因みにフロアボスは、マスター、悪いなこれもギルドで聞いてくれ。」俺は情報を漏らすのを止めた。
「ダンジョンの情報は、ギルドの資金源だったな。」そう思いながら、その場を濁した。
「ふふふ、うちのギルドの儲けを阻むもの。」ギルマスが俺を睨む。
「おい、ギルマス、ケイジさんがどうやってキメラを屠ったか知りたくないか?」
「何だその情報?」ギルマスがロギンを睨む。
ロギンは、俺の方を見る。
俺は、こくりと頷く。
「ケイジさんが、キメラを倒した方法は。」
「方法は?」ギルマスが、面倒くさそうに言う。
「素手で殴った。」
「あぁ? ロギン、俺を馬鹿にしているのか?」ギルマスが激高する。
「事実だ!」
「は?」
「そして、その後、ケイジさんを敵だと認識したキメラが、魔石に変わった。」
「え?」
「ケイジさんに敵対心を持ったものは、その場で破滅するらしい。」
「な?」
「事実だ。」
「ケイジさん、其れは人間にも?」ロギンが聞く。
「あぁ、俺に敵対心を持った馬鹿な冒険者がいたな。」俺は事実を告げる。
「あ~、今日はもう休むか~。」そう言いながらギルマスが消える。
「おい、魔石屋は何処にある?」俺が受付嬢に聞くと、ここのすぐ前がそうだと答える。
「ロギン、行くぞ。」ゴルンバがそう言うと、ロギン以下、そこにいた冒険者がそれに続く。
「鑑定を頼む。」そう言ってなだれ込んできた冒険者に一瞬おびえるが、その店の者は平静を装った。
「はい、どのようなものを?」
「これだ。」ロギンが手に持った魔石をカウンターに置く。
「おぉ、上魔石ですね、しばらくお待ちください。」そう言いながら店員は魔石を持って店の奥に引っ込んだ。
「お待たせしました。」そう言いながら店員はカウンターに戻る。
「一個12000Gで、引き取らせていただきます。」その言葉に、そこにいた全員が叫ぶ。
「おぉぉぉ、流石Aランクだ!」
「完璧な査定じゃないか!」
「それを、5000Gで引き取る?」
「酷すぎる!」
「畜生、今までも、査定が違ったんじゃないか?」
「あぁ、割に合わないと思ったことがあるな。」
「お前もか、俺もだ。」
「くそ、あの野郎、いい加減な査定で今まで俺達の稼ぎをむしり取っていたんだな。」
「ギルマスの不信任案を出すぞ。」
「「「「おぉ!」」」」
「あら~、でも、自業自得だな。」俺は無視することにした。
「ケイジ様、これで、冒険者を引退して、ラメガと店を出すことができます!」ロギンが俺の前に来て嬉しそうに言う。
「な、ロギン、俺と田舎で隠居すると言ってくれたのは?」スライバが言うと、
「え~、ラメガの方がイケメンだし~、話も合うし~、あんたおっさんだし~。」ロギンが毒を吐く。
「な?」
「こっちも修羅場か。」俺はそう思いながらそこから、そっといなくなった。
「何の問題もない。」
「無いよな?」
その後、ジフのギルマスが犯罪奴隷になったとかなんとか、俺、関係ないよね、ね?
************
「エス、手伝ってくれないか?」
「はい、ケイジ様!」二つ返事で答えてくれる。
「1重分の唐揚げを作りたい。」
「はい、問題なく。」
「コカトリスで。」
「は?」
「コカトリスで。」
「ケイジ様、すっごく高い、高級なお肉ですよそれ。」
「らしいな。」
「そんな、高級なお肉で、唐揚げですか?」
「え?」
「コカトリスですよ、普通なら、コカトリスのもも肉の丸焼きとか、蒸しコカトリスとか、素材の味が判る物を作るべきです。」
「あ~、俺が勧めた。」
「え?」
「まったく考えてなかったわ。」
「あ~。」
「では、それも作りましょう!」エスが言う。
「それも?」
「はい、唐揚げもです。」
「それ以外の料理も作りましょう。」
「あぁ、そうだな、サプライズ!と言えば良いか。」
「さぷらいずって何ですか?」エスが聞いてくるが、
「お前らの知らないことで、祝ってやるぞ!」って答えたら、納得してくれた。
え? 間違っていないよな?
「なんで、エスはコカトリスの料理のことを知っているんだ?」
「いえ、普通の鶏料理です。」
「え?」
「ランナー鶏とか、ロック鶏の唐揚げは美味しかったです。」エスが言う。
「金鶏の唐揚げを食べてなければ。」エスは頬を膨らませる。
「あ~、俺が悪かった。」とりあえず謝る。
そう言えば、最初に金鶏を使ったな。
その後で、ランナー鶏やロック鶏のお肉をムーニャに孤児院で使う許可を出したな。
最初に金鶏の味を知っちゃったら、ランナー鶏やロック鶏のお肉はきついよなぁ。
「いえ、ケイジ様、普通に美味しいんですよ、でもそれ以上の味を知ってしまっては。」
「それは、解るよ、一つ上の味を知ったら、その前には戻れないってやつだな。」
「あ~、これ以降、俺はそれ以上の食材を供給しないって事で良いか?」
「はぁ? 何言ってるんですか、ケイジ様!」
「私たちに死ねと?」エスが俺ににじり寄る。
あぁ、エス、其れは一番やっちゃ駄目な行為だ。
「エス。」俺は静かに目の前の少女に聞く。
「はい、何でしょう?」
「死ね。」冷たい目で俺が言う。
「え?」エスが絶望を目に宿して俺を見る。
「たった今から、俺は、お前達に一切、食い物を供給しない!」
「え?ケイジ様?」
「知るか、 ちょっと良い食材の供給を受けたから、自分が特権階級だと思う奴らは勝手に死ね!」
「え?」
「あ?」
「ケイジ様、嘘ですよね?」エスが俺に言う。
「は?」更に冷たい目でエスを見る。
「お前ら、甘えすぎじゃね?」俺は更に冷たい目で目の前の女を見る。
「紫炎!」
「はい。」
そこに有った、コカトリスの肉がすべて消滅する。
「シスター。」俺は苛ついて言う。
「はい、ケイジ様、何でしょう?」そこにいたシスターが俺の前に来る。
「今まで寄付をした、コンロや、オーブンは好きに使ってください。」
「え?はい判りました。」
「今後、この孤児院に、私が寄付などを行う事は一切ありません!」
「え?」シスターが固まる。
「え?ケイジ様?」エスが俺を見る。
「エス、お前は俺の逆鱗に触れた。」
「え?」
「勝手に死ね!」
「待ってください!」エスが俺の足にしがみつく。
「何だ?」
「こ、こんな生活を教えたのはケイジ様ではないですか。」
「あぁ、だから?」
「最後まで、面倒を見て下さい。」
「はぁ?」
「お願いします!」
「ここの孤児院は、ミーニャやムーニャ、ついでにメームを育ててくれたから肩入れしていたんだ。」
「え?」
「もっと言えば、お前や、エル、エヌ,エム達には店を持たせてやろうかと思っていたんだがな。」
「え?」
「お前、この孤児院を潰したな。」俺はそう言いながら、エスの手を払い、虚無の窓を潜る。
その場で、何かを考えていたムーニャも、俺に続いた。
「あぁぁ、ケイジ様ぁぁ。」エスがその場で崩れ落ちた。
エル、エヌ、エムはお互いが顔を見合わせ、旅の準備を始める。
「あぁ、この後どうすれば。」シスターが狼狽えるが、普通に考えれば元に戻っただけだ。
しかし、それ以上の生活を知ってしまったときにそこに戻れるかどうかは、そこにいる者たちの努力次第だ。
そう、コンロやオーブンはそこに有り、元種もあるのだから。
しかも、バク粉やブッターもそこに有る。
ライシーも、おにぎりの型もある。
そこにいる者達がそれに気づけば、そう、何も変わっていない。
原料の供給ルートさえ確立すれば。
孤児院が消えるか、存続するかはエスの力量次第だ。
「主様、良いんでしょうかにゃ?」
「何が?」
「見捨てて・・」
「はて、あんだけ回ってれば、俺の力はもういらないだろう。」
「それは。」
「ようは、自立するのが早かったって事だ。」
「はぁ。」
「いつまでもグジグジしてるエスでもないだろ、きっと。」
「はぁ。」
「まぁ、気にするなら、時々見に行ってやれば良いんじゃないか?」
「え?」
「あぁ、高級食材の提供は禁止な。」
「良いんですにゃ?」
「は、俺はもう手を出さないよ。俺は。」
「流石、主様ですにゃ。」




