やらかしの57
「ケイジ様、用意したパンとライシー、全部作りました。」エスが言う。
「おぉ、それなりに見られるな。」
「お前達、好きな奴を2個だけ食って良いぞ。」
「え?」
「マジで?」
「おぉ、許す!」
「やた、俺これ。」
「私は、これ。」
「これは俺のだ。」
「ち、じゃぁこれは渡さない。」
「エスは行かないのか?」
「え?良いのですか。」
「おぉ。」
「そこのおにぎりは私の物です!」エスが飛び込む。
「お前ら堪能したか。」
「はい。」
「よし、んじゃ、残った奴をモウチクに包むぞ。」
「エス、用意だ。」
「はい!」
「まず、モウチクの両端を少し切り取る。」そう言いながら俺はモウチクの端っこをひも状に切り取る。
「で、モウチクを乾いた布でよく拭いて、此処にサンドウィッチを5種類乗せて、端っこにレタスを置いてその上にジャガサラダを乗せる。」
「そして、モウチクの両端を被せて、モウチクのひもで結ぶ。
「その後で、油紙で包んで、モウチクのひもで結んで完成だ。」
「おにぎりも、違う種類を3個、同じようにモウチクに乗せて、沢庵を三切れ横に入れて、同じように包むんだ。」
「はい。」
「よし、やってみろ。」
「はい。」孤児たちは、見よう見まねでそれを梱包する。
「ケイジ様、終わりました。」エスが言う。
「よし、んじゃ、ヤミノツウに行くぞ。」
「え?」
「紫炎。」
「御意。」
「んじゃ、エス、あと、ムーニャとリノついて来い。」そう言いながら俺は潜る。
「はい。」
「はいにゃ。」
「ふぇぇ。」指名した3人が俺に続く。
「おぉ、ケイジ様おはようございます。」
「おぉ、華厳、なんかいつも店にいるようだが、休みは取っているのか?」
「はっ、はっ、はっ、ケイジ様、お気遣い、痛み入ります。夜間の1時から6時までは、奥で寝ておりますので。」
「いや、働きすぎだろ!」
「いえ、ケイジ様、楽しいのです!」
「え?」
「他人に、食を提供するのがこんなに楽しいとは。」
「そうなのか? 無理はするなよ。」
「おぉ、ケイジ様、お気遣い痛み入ります。」
「おぉ。」
「で、今回はどの様な?」
「おぉ、これを食べて感想を聞かせてくれ。」
「おぉ、これは?」
「弁当と言う、お昼用の携帯食だ。」
「ふむ、ライシーですか?」
「おぉ、華厳流石だな。」
「いえ、勿体ないお言葉。」
「では。」華厳が一つを取る。
「むぅ。」そう唸ると、他の従業員を呼ぶ。
「華厳様、なにか?」
「どうかいたしましたか?」
「おぉ、お前達、これを食べてみなさい。」
「なんですか、この黒いものは?」
「食べられるのですか?」
「これはケイジ様が作られた物です。」
「な。」
「おぉ。」
「いただきます!」その男がおにぎりを口にする。
「なぁ、う、旨い!」
「な、では俺も。」横の男もそれを口にする。
「うあぁ、これは至極。」
「おぉ、やはり。」そう言いながら華厳もそれを口にする。
「おわぁ、この酸っぱさは?」
「華厳、それは梅干しと言う物だ。」
「うめぼし?」
「梅の実を塩漬けしたものだ、身体には良い物だぞ。」
「おぉ、そう言う事ならこの酸味も心地よい。」
「で、華厳。」
「はい。」
「これに100B払えるか?」
「はい、携帯食としては充分です。」
「そうか?」
「120Bでも売れると思います。」
「おぉ、ではもう一個。」
「これは?」
「おぉ、柔らかいバゲだ。」
「華厳様、私も食べて良いですか?」
「あの、私にも。」先ほどの従業員が目を輝かせながら華厳にねだる。
「えぇ、どうぞ。」その言葉と同時に従業員がサンドウィッチに飛びつく。
「あ、あ、あ、なにこれ。」
「こ、これは。」
「お前達、うろたえすぎです。」そう言いながら華厳がカツサンドを口に入れる。
「はうぁ!」華厳が目を見開いたまま俺を見る。
「いや、知らないし。」俺はそっと目を逸らした。
「ケイジ様、売らせて下さい!」
「いや、再現できるなら良いぞ。」
「な、再現?」
「あぁ、おにぎりはアサクが手に入れば出来るな。」
「だが、柔らかいバゲはどうする?」
「むぅ。」華厳が唸る。
「気が向いたら、作るつもりだから、それまで待ってろ。」
「な、ケイジ様、仰せのままに。」
「で、サンドウィッチの方はいくらで売れるかな?」
「これは、食べなれていないので、最初は安く提供して、あとはおにぎりと同じ120Bでも売れるかと。」
「おぉ、華厳がそう言うなら安泰だな。」
「いえ、ケイジ様の御力です。」
「華厳、ありがとうな。」
「いえ、滅相もない。」
「あの、ケイジ様。」
「何だ、華厳?」
「ライシーの味が、違うように感じたのですが?」
「おぉ、流石華厳だ。」
「ムーニャの研ぎが、多すぎたので減らしたのと、炊いた後に蒸らしをやった。」
「え?」
「研いだ時に出る白い水は、旨味でもあるんだ。」
「なんと?」
「だから、3回素早くすすぎ、2回も研げば充分だ。」
「おぉ。」
「後、ライシーが炊き上がったら、素早く底の方から混ぜて、蓋をして半刻の半刻そのまま置いておくんだ。」
「おぉ、判りました、さっそく実践いたします。」
「あぁ、頑張れ。」
「紫炎、ベカスカのギルド前に。」
「御意。」
「よし、行くぞ。」
「アイリーンを呼んでくれ。」ギルドのカウンターで俺が受付のお姉さんに言う。
「はい、お待ちください。」
「ケイジ様、凄く見られてます。」エスが俺の服を掴んで言う。
「おぉ、きっとエスが可愛いからだろう。」
「ふえぇ。」エスが奇声を発して、さらに強く服を掴む。
「ケイジ様、お呼びですか?」
「おぉ、アイリーン、ギルドの入り口の横の場所を貸してくれ。」
「え、それは構いませんが。」
「んじゃ、朝から昼頃まで借りるぞ、ショバ代は売り上げの一割で良いか?」
「ケイジ様、ショバ代も一割も判りません。」
「ショバ代は、場所を借りる代金だ。」
「一割は、10分の一だ。」
「ケイジ様、場所を借りる代金は理解しました、でも10分の一とは?」
「儲けた金を10個に分けて、その一つを払うって事だ。」
「え~っと。」
「例えば、売り上げが1Gなら、100B、2Gなら200Bって事だ。」
「あぁ、理解しました。」
「どうだ?」
「はい、良いですよ。」
「おぉ、アイリーン、愛しているぞ。」
「な、ケイジ様のそのお言葉だけで、無料で提供できます。」
「おいおい、周りの屋台の者達に、示しが付かないだろう。」
「その様な者は、私の魔法で、くけけけけ。」
「え~っと、アイリーン、まず落ち着け。」
「お~い、その辺の奴、集まってくれ。」俺が言うと、ギルドにいた者が集まってくる。
「なんだ?」
「どんな用があるんだ?」
「おぉ、俺が考案した、弁当を紹介したい。」
「あ?弁当?」
「何だそれ?」
「ダンジョンとかに潜るとき、保存食だと味気ないだろう?」
「あぁ、乾燥した肉や、野菜だからな。」
「で、この弁当は、朝買えば、その日の昼までは美味しく食べられるものだ。」
「え? 昼まで?」
「微妙だな。」
「ん~、浅いダンジョンを潜るなら有りか。」
「あぁ、それなら有りだな。」
「で、それがこれだ。」
「おぉ。」
「ほぉ。」
「なるほど。」
「で、今日は、これを無料で提供する。」
「な、マジか?」
「おぉ、好きに持って行ってくれ、あぁ、一人一個な。」
「明日の朝から、ギルドの前でこれを売るから、贔屓にしてやってくれ。」
「おぉ、では一個貰うぞ。」
「俺も貰う。」
「これは何だ?」
「おぉ、興味を持ったのは、あんたが初めてだ。」
「今あんたが持っているのは、おにぎりだ。」
「おにぎり?」
「あぁ、ライシーを固めて、その中におかずを入れた物をアサクで巻いたものだ。」
「すまん、想像がつかん。」
「あぁ、食べてから色々聞いてくれ。」
「あぁ、判った。」
「おい、これは美味いな!」
「此の柔らかいバゲに挟んだ物は良いな。」
「なんだかんだ言いながら、皆持って行くな。」
「しかし、売れる目度は立ったな。」
「え?」
「エス、リノ、きっと明日から忙しいぞ。」
「はい、ケイジ様。」エスはにっこりと微笑んだ。
「んじゃ、ベカスカの孤児院に帰るぞ。」紫炎に、そこに繋いでもらう。
「よし明日は、朝早くから弁当を作るからな!」俺が言う。
「はい。」エスが答える。
「頑張る!」リノも元気に答える。
「おぉ、心強いな。」俺は思う。
「ベカスカの孤児の仕事の一つはこれで何とかなるかな?」
「マスター、一つとは?」
「第2弾もあるぞ。」
「流石マスターです。」
「それは、甘いものと。」
「甘い物?」
「ソースだ!」
「は?」
「ふふふ、楽しみだ。」
「マスター、凄く悪い顔をしてます。」