やらかしの55
「あ、ケイジ兄ちゃんだ。」
「お土産は?」
「メームはいないの?」
「おぉ、お前達、とりあえず寮母先生の所に連れて行ってくれ。」
「うん、わかった。」
「こっちだよ。」
「おや、ケイジ様、ごきげんよう。」
「おぉ、寮母先生、孤児達に仕事を持ってきました。」
「え?」
「ベカスカの孤児は仕事をしてないですよね。」
「えぇ。」
「ヤミノツウの孤児は、皆働いて日銭を稼いでいますよ。」
「はい、ですが、なかなか難しく。」
「と、言う事で、私が仕事を斡旋しましょう。」
「はぁ?」
「お前ら、集まれ!」俺はベカスカの孤児を呼ぶ。
「ケイジ兄ちゃん何だ?」
「な~に?」
わらわらと、10数人集まってきた。
「ん? 増えてますね?」
「はい、ヤミノツウの戦災孤児が。」
「おぉ、ではこれ以上は増えないでしょう。」
「え?」
「大元は、俺が処理したので。」
「おや、流石はケイジ様です。」
「こほん。」咳払いをして、孤児たちの前に一歩出て言う。
「お前達に言う。」
「?」
「働かざるもの食うべからず。」
「え?」
「なに?」
「自分で稼がない奴は、食べ物を勝手に食うなって事だ。」
「え? ケイジ兄ちゃんそれって。」
「おぉ、今、この孤児院に稼ぎを入れていない奴は、飯を食うなと言ってる。」
「え?酷い。」
「横暴だ。」
「俺達の権利を。」
「お前ら。」俺は威圧を込めて言う。
「つぅ。「
「うぁぁ。」
「舐めてんじゃねえぞ!」
「同じ孤児でも、ヤミノツウの奴らは、手に職を付けて頑張ってるぞ。」
「お前ら、恥ずかしいと思わないのか?」
「だって。」
「あ?」
「何をすれば良いか判らないんだ。」
「おぉ、その答えを持ってきてやった。」
「え?」
「あぁ、お前たちのリーダーは誰だ?」
「え?」
「リーダー?」
「前はメームがやってたけど。」
「今はいない。」
「んじゃ、暫くはお前たちの先輩だった、ムーニャがリーダーな。」
「え?」
「ムーニャ。」
「はいにゃ。」俺の後ろからムーニャが出る。
「皆、ケイジ様の為に、頑張るにゃ!」
「お前ら、返事は?」
「は~い。」
「びしっとしろ!」俺がどなる。
「はい!」
「よ~し、良い返事だ。」
「で、何をすればいいの?」
「弁当を作る。」
「弁当ってなんだ?」
「おぉ、良い質問だ、弁当とはな。」
「弁当とは?」
「作業中に食べる、お昼ご飯だ。」
「え~、携帯食を作るの?」
「肉や、野菜をお日様に干せば終わりだよな。」
「そんなの、みんな自分で作るから、売れないよ~。」
「くっ、くっ、くっ、俺はケイジだぞ。」
「知ってるよ、ケイジ兄ちゃん。」
「俺が、そんなありきたりな物を作ると思うのか?」
「え?」
「お前達、この間食った、パオは美味かったか?」
「あぅ。」食べた孤児がよだれを垂らす。
「シャオマはどうだった?」
「至福だった~。」他の孤児も言う。
「でだ、俺! が作るんだぜぇ。」
「主様、凄く悪い顔ですにゃ。」ムーニャが冷たく言う。
「な、ムーニャ、裏切るか?」
「茶番は良いですから、仕切ってくださいにゃ。」
「はい。」俺は、がっくりと肩を落とす。
「んじゃ、お前達に聞こう。」
「はい。」
「ん~。」
「何だろう。」
「手先が器用な奴、で、これが何かわかる奴。」俺は箸を手に持ち聞く。
なんと、3人手を上げる。
「お前達、前に出ろ。」
手を挙げた3人が前に出てくる。
俺は、虚無の部屋から、俺の自作の箸を三膳取り出して、そいつらの前に出す。
そして、目の前に小皿を出し、そこに小さな豆を入れる。
その横に、別の皿を出して言う。
「今から30秒で、そこにある豆を横の更に、その箸を使って移動させろ。」
「え?」
「よ~い。」
「どん。」
一人だけが、器用に豆を移動した。
「お前の名は?」
「エスです。」
「お前、合格。」
「ありがとうございます。」
「次。」
「包丁が使える奴。」
数人が手を上げる。
「よし、普段使っている包丁で、これを100枚に切れ。」そう言って、胡瓜を出す。
「何と、3人全員が出来た。」
「お前ら合格、名前は?」
「エル。」
「エヌ。」
「エム。」
「おぉ、覚えた。」
「今から見本を見せる。」
「風魔法が出来る奴、いるか。」
「はい、俺出来る。」
「あたしも出来る。」
「よし、この瓶にライシーの玄米を入れるから、風魔法で皮を取るんだ。」
「え?」
「やったことない。」
「俺が手伝うから、大丈夫だ。」
「まず、お前からな。」俺は玄米の入った瓶を渡す。
「うん、このびんの中身を、こすり合わせればいいんだね。」
「そうだ。」
「やってみる。」そう言いながら、少年は瓶に魔力を込める。
瓶が淡く光って、中の玄米が回り始める。
「おぉ、良いぞ。」
「う~。」少年が唸るが、玄米は回るだけで、皮が剥けていない。」
「どれ。」俺は少年の手を後ろから包み込む。
「え?」
「こうするんだ。」そう言いながら、少年の魔力に干渉する。
途端に、玄米同士がぶつかり、皮が剥けていく。
数分後、精米されたライシーが瓶の中に有った。
「感覚つかめたか?」
「うん、ケイジ兄ちゃん。」
「良し、次。」
「あたしも頑張る。」
俺は、瓶の中身を入れ替えて、少女に渡す。
「頑張れ!」
「うん。」少女は瓶を受け取り、魔力を込める。
先ほどの少年と同じように、玄米が瓶の中で回るが、やはり皮が削れない。
「こうだ。」俺は少女の手を後ろから包み込む。
「ひ。」少女が硬直する。
「おっと。」瓶が破裂した。
防御魔法を張ったので、怪我はなかったが、その場に玄米と瓶の破片が落ちる。
「大丈夫か?」俺が聞く。
「ごめんなさい。」少女が縮こまる。
「あぁ、気にするな、失敗は誰にでもある。」そう言うと、俺は玄米だけを虚無の部屋に入れ、新しい瓶に入れる。
「さぁ、もう一回やってみよう。」そう言いながら、少女に瓶を渡す。
「はい。」
そして、同じ事が繰り返される。
「ごめんなさい。」
「なぁ、もしかして、俺の事嫌い?」俺が少女に問う。
「ち、違うんです、男の人が苦手なんです。」
「あ~、そうか。」
「うん、判った。」俺はさっきと同じように玄米を集めると、新しい瓶に入れ少女に渡す。
「んじゃ、もう一度。」
「え?」
「今度は、俺は補助しない。」
「ふえ?」
「サラン。」
「はい、マスター。」
「魔力の流れ、判るな?」
「はい。」
「よし、やってみよう。」俺が言う。
「はい。」少女は瓶に魔力を込める。
「こうです。」サランが少女の手を包み込む。
「はぅぅ。」先ほどの少年と同じように、玄米の皮が剥けた。
「どうだ?」
「解ったような気がします、もう一回やって良いですか?」
「おぉ。」俺は、瓶に玄米を入れて少女に渡す。
「えい。」少女が瓶に魔力を込めると、玄米は見事に脱穀されていた。
「よくやった。」
「さて次だ、お前達、料理ができる奴。」
「はい。」
「あたしも。」
「俺も。」
「なんだ、エル、エヌ、エムか。」
「まぁ、良いか、他の奴らも、今から俺が作る物を見て、自分が何をできるか考えろ。
「よし、まず脱穀した玄米を振り分けるか。」そう言うと、俺は、目の細かい網を取り出し、先程脱穀した玄米をその上にのせて、振る。
「こうすれば、もみの部分は下に落ちるからな。」
「もみは後で、漬物を作るのに使う。」
「つけもの?」孤児が言う。
「あぁ、そうだ。」
「よし、ムーニャ、これを研いでくれ。」
「はいにゃ。」ムーニャが、コップをもってきて、ライシーを計り、土鍋に入れる。
「まず、3回すすぐにゃ。」鍋に水を入れ、すぐ捨てる。
「手早くやらにゃいと、水の臭いがライシーに付いちゃうにゃ。」
「そして、両手を合わせるように、ライシーをこすり合わせて、水でゆすぐにゃ。」
「もう一回。」水を捨て、ムーニャは同じこと送り返す。
「もう一回。」
そして3回目の研ぎをしようとしたムーニャを俺が止める。
「おい、ムーニャ。」
「はい、主様。」
「研ぎは、2回で良い。」
「え?、でも華厳様が研ぎ汁が透明になるまでって、仰ってました。」
「あぁ、あとで華厳にも言っておく、研ぎは、数回で良い。」
「え?そうなんにゃ?」
「あぁ、研ぎすぎると、旨くなくなる。」
「ムーニャ、続けてくれ。」
「はいにゃ、研いだライシーを、鍋に入れ、お水を入れて少し置いておくにゃ。」
「水加減は?」
「此のコップ一杯のライシーで、お水はコップ一杯と、コップの底から指一本分の水ですにゃ。」
「うん、じゃ、暫く別の作業な。」
「はいにゃ。」
俺はモウチクを虚無の部屋から取り出す。
「これを入れ物にするからな。」そう言って、モクチクを一枚ずつ水に浸ける。
「浸けてる時間は、ライシーと同じぐらいな。」
「ケイジ兄ちゃん、モウチクって?」
「うん、竹と呼ばれる植物だ、今は買い付けてるが、裏の竹藪で採れるかもな。」
次に、虚無の部屋から柔らかい方のパンを机に出す。
「このパンを使って、サンドウイッチを作る。」
「え?」
「これで?」
俺は、魔導コンロを虚無の部屋から取り出す。
「寮母先生、これはこのまま寄付します。」
「まぁ、それは、それは、ありがとうございます、ケイジ様にオッケー神の御加護がありますように。」
(いえ、精霊様の御加護を頂いていますけど。)そう思うがもちろん口には出さない。
「まず、卵を茹でる。」そう言って俺は虚無の部屋から卵を10個取り出し、包丁で丸い方に穴をあけながら水を入れた鍋にいれて、コンロを起動する。
「此のコンロは、魔石で動くからな、魔石を入れる箱はないか?」
「ケイジ兄ちゃん、これで良いか?」孤児の一人が大きめな箱を持ってくる。
「おぉ、気が利くな。」俺はその中に屑魔石を山盛り入れる。
「すげぇ。」孤児の一人が感動する。
「屑魔石だから、売っても大した金にならないぞ。」
「だが、このコンロに数個入れれば、動くからうまく使え。」
「判った。」
「そして、オークのお肉だ。」俺は虚無の部屋からオーク肉を取り出す。
「氷魔法が使える奴はいるか?」
「俺、少しなら。」
「何ができる?」
「アイシーなら。」アイシー、氷魔法の初期魔法。氷の塊を作れる。
「おぉ、上出来だ。」
「このオークのお肉を、水500ccに塩20gと玉葱のスライス、セロリ、ニンジンのスライスを入れた奴に漬け込む。」
「ケイジ様、何言ってるか判らない。」
「見て覚えろ。」
「あたし、少しだけわかる。」孤児の一人が言う。
「おぉ、エスか?」
「では、エス、君に、リーダーを任せるぞ。」
「うん、頑張る。」
「よし、アイシーの魔法が使える奴。」
「はい。」
「この箱の上の部分に、氷を作れ。」
「俺が取り出したのは、氷冷蔵庫と言われるもの。」
道具屋の片隅で埃をかぶっていた物だ。
二層構造になっていて、上の層に氷を入れて、下の層を冷やすという代物だ。
「この上の部分に、アイシーで氷の塊を作れ。」
「うん。」
「朝、昼、夕方、寝る前の4回、此処に氷を作れ。」
「うん。」
「もし、大きな氷を作れるようになったら、もう少し減らしても良いぞ。」
「はい。」
「よし、で、漬け込んだ奴は下の層に入れる。」
「これは、3日後にハムにする。」
「え?」
「ハムって?」
「オーク肉の、いや、食ってみるか。」
俺は、虚無の部屋からひそかに作っていたオークのハムを出す。
「これがハムだ。」そう言いながら、それを薄切りにする。
「これをお前たちが作って、売るんだ。」
俺はそれを薄切りにして、孤児たちに食わせる。
「うあぁ、美味しい。
「そして、マヨネーズを作る。」
「マヨネーズ?」
「ムーニャ、エス、見て覚えろ。」
「はい、ケイジ様。」
「卵を割り、こうやって黄身だけ残す。」
「白身は後で使う。」
「はい、ケイジ様。」
「で、此の黄身に、塩この小さいスプーン1杯、椒少し、酢この小さいスプーン2杯を入れて良くかき混ぜる。」
「はい。」
「そして、菜種油を入れながら、更に混ぜる。」
「はい。」
「で、出来たのがマヨネーズだ。」
そう言いながら、食パンを切り、耳の部分を切って、ブッターを塗り、レタスと薄切りにしたハムと、輪切りにしたトマトを挟み、そこにマヨネーズを塗ってサンドイッチを作る。
「エス、覚えたか?」
「はい。」
「よし、お前ら、食ってみろ。」
「「「「「わ~い。」」」」」
「うわ、旨い!」
「初めて食べた。」
「美味しい。」
「ふわぁ~。」
「おぉ、卵もゆで上がったな。」俺はそう言うと鍋のお湯を捨てて、水を入れる。
「卵は殻をむいて。」
「はい。」エスが傍で言う。
「で、茹でた卵を細かく切って、マヨネーズと、塩胡椒を入れて混ぜる。」
「あぁ、美味しそうです。」
「エス、美味しそうじゃない、美味しいんだ!」
「はい。」
「で、さっきと同じように、パンにブッターを塗って、これを挟む。」
「さぁ、食ってみろ。」
「なぁ。」
「これは。」
「美味しい。」
「次に。」
「はい、ケイジ様。」エスが目を輝かせて言う。
「これは、じゃが芋のダンシャと言う品種だ。」
「これも茹でる、が今回は魔法で熱を入れる。」
「で、これを潰す。」俺は鍋の中にあるダンシャを潰す。
「これに、キュウリや玉葱、ハムを入れればサラダになるんだけどな。いや、作るか。」。
俺は、胡瓜、玉葱、ハムを細切れにして、ダンシャに入れる。
それにマヨネーズと塩胡椒を入れて同じようにパンに挟む。
「どうだ?」
「美味しいです。」エスが目を輝かせて言う。
「更にだ。」
「俺は、バゲを取りだして、がりがりと粉にした。」
「ダンシャを潰したものをまとめて、バクの粉を付け、さっき卵の黄身を取った、白身を溶いたものに付け、バゲの粉を付けて、温めた油に入れる。
そして、出来たものをパンに挟んだ。
「コロッケパンの出来上がり。」
「あぁ、ソースをかけないとな。」そう言いながら、虚無の部屋からウスターソースを取り出してかける。
「さぁ、食ってみろ。」
「ああああ。」
「なに、これ?」
「美味し、過ぎる。」
「こんなの、初めて。」
「もう一つ、だな。」
そう言うと、俺はオーク肉を取り出し、少し厚めに切り、筋切りをして塩胡椒を振り、バクの粉をまぶした後で、コロッケと同じように白身を溶いたものに付け、バゲの粉をまぶして油で揚げる。
「これは、俺の元居た所では「とんかつ」と言う者だ。」
「火が通ったら、これもソースをかけてブッターを塗った食パンに挟んで切る。」
「ほら、味見だ。」
「くおぉぉぉ、最高!」
「これ、やばい!」
「はぁぁぁ。」
「これを、お前らが作って売れ。」
「うん、ケイジ兄ちゃん、頑張る。」エスが言う。
「よし、お楽しみもあるぞ。」
俺は、切り取ったパンの耳を油で炒め、砂糖をまぶす。
「これは、お前達のおやつにしていいぞ。」
「うわぁ、甘い!」
「美味しい。」
「はぁぁ、幸せ。」
「パンの耳は、お前らが好きにしていいぞ、もちろん売っても良い。」
「ケイジ様、仕入れはどうすれば?」エスが言う。
「おぉ、流石だな、暫くは俺が連れて行くよ。」
「はい。」
「その後は、パンも作ってみるか?」
「はい、ケイジ様、頑張ります!」エスが目をキラキラとさせながら言う。
「あと、ハムの作り方だな。」
「はい。」
「さっきのオーク肉は三日後にハムにする。」
「で、これが三日漬け込んだオーク肉だ。」俺は虚無の部屋からそれを取り出す。
「これを煮る。」俺はつけ汁ごと鍋に入れて、コンロで煮始める。
「で、沸騰したら、30分放って置く。」
「はい。」
「これを3回繰り返す。」
「はい。」
「最後は、肉を取り出して、汁を沸騰させて肉にかけて冷ましたら出来上がりだ。」
「最初は、俺が肉を出してやるが、あとは自分たちで手に入れるんだ。」
「判りました、ケイジ様。」エスが良い顔で答える。
「おぉ、良い顔だ。」
「一つのパンを12枚に切って、全部で6個の、サンドウィッチを作り、それを半分にして、12個にする。」
「はい。」
「パンを10個用意して、5種類を、24個ずつで、ちょうど120個だな。」
「90Bのパンだから、5種類一組で100Bで売れば1500Bの儲けになるな。」
「お客が増えたら、作る量を増やそう。」
「主様、ライシーが良い具合になったにゃ。」
「おぉ、水に浸けたモウチクも取り出してくれ。」
「もう一つ、サンドウィッチ、と共に俺が作る弁当は、おにぎりだ。」
「え?」
「ケイジ様、それはどの様な?」エスが言う。
「ふふふ、簡単だけど、奥が深いものだ。」
サンドウィッチの種類が、4種類であることに気が付きました。
カツサンド、追加です。