やらかしの47
ある日、カッターがヤミノツウの華厳の店を訪ねてきた。
「がははは、ケイジ、元気か?」
「おぉ、カッター、久しぶりだな。」
「がはは、お前に頼みたいことがあってな。」
「頼み?」
「がはは、近々俺の知り合いが婚約するんだが。」
「おぉ、めでたいな。」
「精霊様のご加護を持った者に祝福してほしいとの事なんだ。」
「あぁ、良いぜ。」
「本当か、助かる。」
「な~に、俺とカッターの仲じゃないか。」
「がははは、流石俺のマブだ、話が分かるぜ!」
「いや、マブじゃないけどな。」
「ん、何か言ったか?」
「いや、気にするな。」
「がはは、解った!」
(相変わらずちょろいな。)
「で、日取りはいつなんだ?」
「あぁ、ベカスカのギルド前の店で2日後だ。」
「おぉ、ではいつ行けば良い?」
「当日で良いだろう。」
「判った、時間は?」
「昼めしを食いながら披露するとの事だ。」
「あぁ、じゃぁ、昼前に顔を出すよ。」
「がはは、頼むぜ。」そう言ってカッターが帰っていく。
「おい、此処まで来てなにも食わないのか?」
「がはは、最近、実入りがないんだ。」
「おぉ、おごるぜ!」
「な、流石俺のマブだ!」
「いや、違うけどな。」
「華厳、ラーメンセットとシャオマ、あとラガーも用意してくれ。」
「はい、ケイジ様。」
「がはは、これは美味いな!」そう言いながら、3人前を食べ終わるとカッターは帰っていった。
「ケイジ様、お優しいのですね。」ヒドラが俺の横で姿を作りながら言う。
「いや、普通だ。」
「ほほほ。」
「いや、と言うか、お前はキーリスト教の布教はしなくていいのか?」
「あら、とっくに閉鎖しましたが。」
「は?」
「ご主人様こそが、オッケー神様の生まれ変わりではないですか。」
「いや、色々違うな。」
「いえ、いえ、解っておりますとも、表に出ず人を御救いになるのですね。」
「面倒なことはしないで、平穏に日々を過ごしたいだけだ。」
「ほほほ、奥ゆかしいのですねぇ、ご主人様は。」
「いや、ヤミノツウの統治は?」
「シーレに任せております。」
「第18位のか?」
「はい、ケイジ様。」
「12位のモズラはどうした?」
「ケイジ様に下っておりませんので。」
「あ~。イースをエゴワカに置いたのは悪政か。」
「いえ、ケイジ様、私が統治の基礎を築きましたので問題はないかと。」
「おぉ、そうなのか?」
「はい。」
************
そして、カッターが指定した日になった。
「ふわぁ、そろそろ時間か。」
「主様、ムーニャも、一緒に行きたいにゃ。」
「主、ミーニャもにゃ。」
「おぉ、他には?」
「ご主人様、私は行きません。」ヒドラが答える。
「旦那様、カリナもここでお待ちいたします。」
「ケイジ兄さま、アヤもです。」
「あぁ、んじゃ、ちゃっちゃと行ってくる。」
「行ってらっしゃいませ。」
「紫炎、頼む。」
「御意。」
俺達はベカスカへ潜った。」
「ギルド前の店だと言っていたな。」
「そうにゃ。」
「そうですにゃ。」
ミーニャと、ムーニャが答える。
「なんか、二人とも元気だよな。」
「そんなことないにゃ。」
「主様、気のせいにゃ。」
「そうか?」
「「はいにゃ。」」
「ふむ、そんなもんか。」俺は気にせずその店に向かった。
「ここで良いんだよな?」
「おぉ、ケイジ、待ってたぜぇ。」店の奥からカッターの声が聞こえる。
「おぉ、悪い、待たせたな。」
「がはは、まだ時間前だ。」
「おぉ、そうか、で、何処に座れば良いかな?」
「がはは、ケイジの席は決まってるぜ。」そう言いながらカッターはテーブルの真ん中の席を示す。
「主様、どうぞにゃ。」ムーニャがその席を引いて俺を促す。
「おぉ、ムーニャ、ありがとうな。」
「主様、当然のことですにゃ。」そう言いながら俺の座る速度に合わせて椅子を前に出す。
(完璧だ。)俺は思う。
(後で、ムーニャに褒美を与えよう。)
その机には、顔をベールで隠した者が数名座っていた。
俺が席に座ると、顔をベールで隠した者たちが俺に頭を下げる。
俺は、申し訳程度に会釈する。
ふむ、元の世界のイスラム教のようなものか?
俺は、そう理解した。
「がははは、では、婚約パーティーを始めるぜ。」カッターが言う。
「ひゅーひゅー。」
「パチパチパチ!」口笛や拍手でそのパーティーが幕を開ける。
周りにいた者達がテーブルにあった食料と酒に群がる。
「おぉ、凄いな。」俺はそれを見て言う。
「あの、其処のお水を下さいませんか?」左にいた女が言う。
「ん?」俺はテーブルの隅にあった水差しに気付く。
「あぁ、どうぞ。」俺はそう言いながら、水差しを持ってその女が差し出すコップに水を灌ぐ。
「ありがとうございます。」
「いや、どういたしまして。」
「がはは、ケイジ、これを渡してやってくれ。」そう言いながら、カッターは俺に花束を渡してくる。
「おぉ、良いぜ。」そう言いながらその花束を受け取る。
俺は、正面にいるベールで顔を隠した女にその花束を渡して言う。
「ご婚約、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「ケイジ様、お二人への求婚、完了しました。」
「なに?」
「エルフ族へ花を渡す事は、エルフ族への求婚を意味します。」
「同じように、ノームに水を渡す事も同義です。」
「な、カッター、図ったな!」
「すまない、ケイジ、俺はアイリーンの煎れる茶が飲みたいんだ。」
「は?」
「お前にフラれたアイリーンは腑抜けになって、使い物にならないんだ。」
「カッター、おま、」
「ケイジ様、一生尽くします。」
「私もですぅ、一生お傍に。」
ベールを取って、アイリーンとモーマが俺に抱き着く。
「お前達、エルフの防御陣とノームの結界を破れる者がいたらどうするんだ?」
「「ケイジ様と共に。」」
「俺と共に?」
「「排除します!」」
「はぁ、誰の入れ知恵だ?」
「主様、ムーニャは良いと思います。」
「ミーニャもにゃ。」
「はぁ、お前達か。」
「何の事かわからないにゃ。」
「長命種が主の嫁になるのは歓迎にゃ。」
「ケイジ様、拒否をする場合、二人は今後、誰からも求婚されません。」
「紫炎もグルか!。」
「は?何の事やら?」
「紫炎、お前なぁ。」
「ケイジ様、私は只、貴方を支援するだけです。」
「マスター。」
「な、サランもか。」
「その者たちも、自分の立場を理解しているはずだ、」
「後は、マスターの度量の深さだけだ。」
「はぁ、次に裏切ったら俺の全力で滅する。」
「其れでよければ、添い遂げろ。」
「はい!」
「喜んで。」
「お帰りにゃ。」ミーニャが嬉しそうに言う。
「歓迎するにゃ。」ムーニャも答える。
「カッター、一個貸しだ。」
「がははは、ケイジ、解った。」
「はぁ、まぁ、良い、アイリーン、ギルドカードの更新を!」
「はい、ケイジ様。」
俺はアイリーンにギルドカードを渡す。
「では、ギルドに。」アイリーンが店を出てギルドに向かう。
俺は、その後に続いた。
「ケイジ様、では決裁いたします。」アイリーンがカードを端末に入れる。
「魔王シン討伐、確認しました、5000Gです。」
「おい、魔王討伐の金額に差があるのは何でだ?」
「人や町への脅威度です。」
「ほぉ。」
「人や町などへの脅威が確認された場合、その進行度によって金額が加算されます。」
「つまり、シンは?」
「ヤミノツウへの脅威が最大級と認定されていますので高額になります。」
「成程。」
「では、続けます、魔族35名従属確認しました、3500Gです。」
「誘拐された姉妹の救出、100Gです。」
「魔王ワムラ討伐、500Gです。」
「魔王リキード従属、50Gです。」
「魔王カトル殲滅、1000Gです。」
「魔王ヒドラ以下6名従属、7000Gです。」
「エゴワカ統治、100Gです。」
「魔王ナーガ以下6名討伐、3500Gです。」
「魔王2名従属、1000Gです。」
「がはは、流石ケイジだな、どんだけやらかしてるんだ。」
「いや、ついでだ。」
「お確かめを。」アイリーンが俺にカードを渡す。
「照会!」
カード所有者:ケイジ
ギルドランク:A 84、671G 100B
伴 侶:獣人:ミーニャ
伴 侶:人 :カリナ・ゴウショーノ
伴 侶:獣人:ムーニャ
伴 侶(血族):サラン(サラマンダー)
伴 侶(血族):リアン(リバイアサン)保留
伴 侶:エルフ:アイリーン
伴 侶:ノーム:モーマ
伴 侶:人 :アヤ・ミカンナ
伴 侶:魔族:ヨイチ
伴 侶:魔族:ヒドラ
義 弟:獣人:メーム
(色々思う所があるが、こんなものか。)
「ケイジ様、指名クエストがあります。」アイリーンが言う。
「なんだ?」
「ルズイの水質汚染調査です。」
「はぁ。」俺はため息をつく。
「カッター、お前か?」
「いや、俺は知らん。」
「そうなのか?」
「ケイジなら、理由が解るんじゃないか?」
「あぁ、思い当たるよ。」
「受けられますか?」
「マスター、是非。」
「今日中に解決する。」そう言うと、ミーニャとムーニャを虚無の部屋に入れ、表に出てルズイに跳んだ。