やらかしの37
初めての1日で2話投稿です、やらかしの36からお読みください。
雲が月を隠していた。
闇に紛れて、黒装束の一団が、ゴーショーノ邸の壁に取り付く。
「げははは、この屋敷も警備はざるだな。」
「えぇ、お頭、門ばかりを固めて、周囲には警備がいません。」
「よし、さっさと壁を超えるぞ。」
「念のため、裏門の横に穴をあけます。」
「おぉ、任せるぜ。」
お頭と呼ばれたこの男は、元マッチーデ・エーラ・イーノ家の門番をしていた男で、名を「セッコーイ」と言う。
門番という立場を利用し、マッチーデ・エーラ・イーノに面会を求める者から、面会の便宜を図るという名目で賄賂を受け取っていたのが発覚し、門番を首になった。
しかし、元々口の立つ男だったので、口八丁で仲間を集い、今回の計画を行う上で、纏め役としてお頭と呼ばせていた。
「お頭、庭への侵入完了しました。」
「よし、娘を探せ。」
「あっしが、探知系の能力で探します。」
「急げ。」
「くひひ、一昨日捕まえた姉妹と合わせて3人も連れて行けば、どれかは皇子の好みに合いますかね?」
「好色な皇子らしいからな、上手くいけば全員買ってくれるかもしれんぞ。」
「もし一人も選ばれなかったら?」
「そん時は、俺ら全員で嬲って、奴隷商に売り飛ばせば良い。」
「どっちにしても、美味い話でやんすね。
「おぉ、それよりまだ見つからないか?」
「お頭、3階の部屋に、対象を確認!」
「よし、裏口をピッキングしろ。」
「・・・」
「おい、どうした、裏口を・・」セッコーイがそれに気づく。
今まで、左横にいた部下がいなくなっていた。
「おい、お前ら、どこに行った。」
右側にいた部下もいなくなっていた。
セッコーイは自分の両脇の離れた場所にいる存在に気付く。
「な、何だ、お前ら!」
セッコーイから3mほど離れた、左右に金色に光る眼が輝いていた。
ミーニャとメームだ。
セッコーイは、逃げようと振り返る。
「なぁ?」
そこには淡く光る少女が、宙に浮いていた。
その時、月が雲から出る。
セッコーイが気付く。
その者たちの足元に転がっているのが、自分の部下であると。
「!!」セッコーイは声にならない悲鳴を上げる。
「よぉ、こんばんは。」
「ひぃ。」
セッコーイのすぐ後ろから、ケイジは声をかけた。
「な、な、な、何時の間に。」
「お前が、こいつらのボスってことで良いか?」
「え? あ、そ、そうだ。」
「おぉ、あっさり認めてもらって嬉しいよ。」
「ミーニャとメームはもう寝ていいぞ。」
「にゃ、判ったにゃ。」
「兄者、おやすみなさい。」
俺は、そこにいた賊全員を虚無の部屋に入れる。
「紫炎、孤児院に押し入った賊を捨てた場所に繋いでくれ。」
「はい、ケイジ様。」
俺の目の前に、見知った場所を映した空間が現れる。
俺はそれを潜った。
虚無の部屋に入れたセッコーイの仲間はそのまま凍結する。
そして、セッコーイだけを虚無の部屋から出した。
「な、此処はどこだ。」
「お前の処刑場かな。」
「流石に、嫁の家の庭を血で汚したくないからな。」
「むざむざやられるか!」セッコーイが俺に飛び掛かる。
そして、その格好のまま地面に突っ込んだ。
「なぁ、身体が動かせない。」
「麻痺させてるからな。」
「そして、痛覚を敏感にするっと。」
「な、貴様。」
「さて、攫った姉妹の居場所を教えてもらおうかな。」
「ふはは、誰が言うか。」
「だよなぁ。」
そう言いながら、俺はセッコーイの膝の上に足を乗せる。
そしてそのまま体重をかける。
「な、あがが、い、痛い!」
「だろうなぁ。」
「姉妹の居場所は?」
「知らん。」
「ふうん。」俺は更に体重をかけた。
『メキメキメキ。』骨のきしむ音がする。
「あ、あ、あ、あ。」
「姉妹の居場所は?」
「知らん。」
「はぁ。」俺はため息をつきながら、セッコーイの膝を踏み潰す。
『バキバキ、グシャ!』嫌な音とともにセッコーイの膝が粉砕される。
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」セッコーイが激痛にのたうち回る。
「ヒール。」充分苦しんだところで、回復魔法を唱えてセッコーイの膝を元通りにする。
「あ、あ、あれ? 痛くない?」
そして、俺はもう一度膝に足を置く。
「姉妹の居場所は?」
「ふ、知らんと言っただろう。」
「そうか。」今度は一気に体重をかけて、一撃で膝を粉砕する。
「あぎゃぁぁあぁぁぁぁ。」
「ヒール。」
「はぁはぁ、また痛くなくなった?」
「今度は趣向を変えよう。」
「な、俺は何も知らん。」
「少し残酷にしようか。」そう言うと俺はセッコーイの手を取る。
「何を?」
『ボキン!』俺はセッコーイの右肘を本来は曲がらない方に曲げた。
「ぬぎゃぁぁぁぁ。」
「反対側の腕も行くか。」
「な、ま、待って。」
『ゴキン!』
「はぎゃぁぁあぁ。」
「足もやっとくか。」
「ば、ばってくだざい。」
「え? 早くやってください? そんなに気に入ったのか?」俺は、そう言いながら右足を腕と同じように曲がらない方向に曲げる。
「あ・あ・あ・あ。おでがいじばず、ズベデハナジバズ。」
「なんだ、最初から素直にしてれば苦しまないで済んだのにな。」
「で、姉妹はどこにいるんだ?」
「ベカスカの北にある、空き家にいまず。」
「お前の仲間は?」
「3人が見張りに。」
「んじゃ、案内しろ。」
「え?このままですか?」
「なんだ、左足も曲げてほしかったのか?」
「いえ。ご案内します。」
「サラン、こいつを摘まめ。」
「はい、マスター。」
「紫炎、ベカスカのギルド前に繋げ。」
「はい。」
俺はそこに出た。
「さぁ、案内しろ。」
「この道を真っ直ぐです。」
俺達は、手足が歪に曲がったおっさんを摘まみながら、ベカスカの街を横断する。
「あれは、ケイジさんだな。」
「おぉ、やらかしのケイジさんだ。」
「又、やらかしてるのか?」
「流石、ケイジさんだ、ぱねえ。」
「なんだ、俺の評判が変な方向に行ってないか?」
「気のせいです。」
「いや、紫炎さん、そのフォローは何ですか?」
俺達は、町の好機の目に晒されながら、その家の前に着いた。
「ここか?」
「はい。」
「んじゃ、お前は虚無の部屋に入ってろ。」そう言いながらセッコーイを虚無の部屋に収納する。
目の前には、さびれた民家。
「こんなところに盗賊のアジトか。」
(面倒くさいから、殲滅するか。)
俺はそう思いながら、その民家に足を運ぶ。
「こんにちは~。」
「そして、さようなら~。」
そう言いながら、その部屋にいた賊3人を虚無の部屋に入れる。
「ふぅ、制圧完了っと。」
「攫われた姉妹はどこかな?」
「右の部屋にいます。」
「ここか。」
俺はその部屋のドアを開ける。
「ひぃ。」その部屋にいた娘が悲鳴を上げる。
「お願い、酷いことしないで。」
「痛いのは嫌。」
「あー、俺はケイジ、君たちを助けに来た。」
「え? 悪党の仲間じゃないの?」
「え~、そう見えるのか?」
「お姉ちゃん、この人は違うよ。」
「え? あの臭い人たちの仲間じゃないの?」
「この人は匂わないから違うと思う。」
「なんか、心が痛い。」
「助けていいかな?」
「え?、助けてくれるの?」
「さっきから、そう言ってるんだが。」
「お願いします。」
「お~。了解。」
俺はそこにいた姉妹も虚無の部屋に入れた。
「はふぅ、眠くなってきたな。」
「紫炎、ダンナーさんの家の寝室に繋いでくれ。」
「はい。」
「おぉ、ありがとうな。」
「いろいろな報告は、明日で良いか。」そう思いながら俺は嫁さんたちが寝ているベッドに潜り込んだ。