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08 買い物

「あら、素敵な格好ねッ!」


 入ってすぐそんなことを言われて、思わず引く。


「ん、もうー。

 そんなに引かなくてもいいじゃない。

 ちょっとしたお茶目じゃないの。

 ホワイトスライムにやられたんでしょ?」


「うん」


 その問いに肯くと、シルビアナは同情的な目を向けてきた。


「上手くいかなかったようね。

 落ち込まなくてもいいわよ。

 初めてで収穫0なんてよくある事だし」


「えっ、違うけど?」


「あら、でも何も持って無いじゃない。

 その布切れは着ていた物でしょう?」


「あっ、そうだ。

 これ直せる所、知らない?」


「流石にそこまでなった物は無理よ。

 買い換えるしかないわね。

 北東通りの『ザンカ武具店』と、南東通りの『一白屋』なら気軽には入れるわよ」


 知らない名前の店だ。

 新しい店もやっぱりあるんだな。


「ありがとう。

 あと、道具とか扱ってる所知ってる?」


「この間話したスキル屋から旧大聖堂を挟んだ反対側に『ヤオ・バン』という所があるわ。

 安価な物から最高級品まで、道具で揃わない物は無いと噂されてるわ。

 ここも親切に応対してくれる店よ」


 ヤオ・バンはあるんだな。

 いつから生きてるのかわからない干物の様な老婆がやっていた……ZP1開始時点から。

 太陽の運行が一定なのでゲーム内の季節は変わらず、現実に合わせてプレイヤーがイベントやってたりしてあまり気にしなかったが、設定上は100日で1年。

 ゲーム内の1日は現実では6時間だったので、実質70年以上他が代変わりする中、全く変わらず経営していた。

 ただのネタではなく理由があり、タレント取得に関わる重要NPCだったが、流石に千年だ。

 別の人に変わってるだろう。


「そうなんだ。

 ありがとう、行ってみるね。

 その前に精算しなきゃ」


「精算って言われても、何ももって無いじゃないの。

 外に置いてるのかしら?」


「いや、ここにあるけど?」


 と腕輪を指し示すとシルビアナは驚きの表情を浮かべた。


「スキル持ってなかったわよね……。

 もしかしてあなたのも新機種なの?」


「新機種?」


「その腕輪よ。

 他のと違ってモンスターとか倒すと光に変えてスキルがなくてもしまう事ができるの。

 そんなの配ってるなんて、やっぱり噂は本当なのかしら?」


 やっぱり収納スキルはあるようだ。

 が、噂ってなんだろう?


「噂?」


「ええ。

 グレートホールには古のクエスターたちの遺産が眠っているっていう話があるのよ。

 今いるクエスターの腕輪は、その当時のクエスターの腕輪の模造品なの。

 その所為で似非クエスターとか星神教会が煩かった時期も在ったらしいわ。

 50年ぐらい前には、自分たちで選んだクエスターたちを送り込んできたという記録もあるの。

 ろくでもない者ばかりで逆に評判落としたのだけど、そのクエスターたちの腕輪は他と違ったのね。

 星神教会はその出所を公表しなかったし、当時もそれほど余裕あるわけではなかったから、その遺産を見つけて新しく作ったんじゃないかって噂が流れたらしいわ。

 ただ、旧大聖堂を散々調べても結局何も出なかったし、グレートホールに潜ったクエスターは誰も戻らなかったのよね。

 でも、最近おじ様から紹介されてくる人は皆その腕輪つけてるのよ。

 当時よりも困窮してるでしょうに、そんな事できるなんてやっぱり遺産見つけたのかしら?」


 ギルドから見たらそういう話になってたようだ。

 というか、腕輪知られたらうるさそうな気が……。

 その辺りどうなんだろう?


「この腕輪そんなに珍しいの?

 狙われたりする?」


「星神教会だけしか扱ってないから珍しいけど、それは大丈夫よ。

 それほど大きな違いはないし、一度身に着けた腕輪はその人専用になるから心配ないわ」


 実際にどうなるかはわからないので、とりあえず気をつけておこう。


「そっかー」


「で、精算だったわね。

 こっちに手を置いてちょうだい」


 示されたのは登録した場所の右隣のカウンター。

 そこにも手形がある。

 一つ一機能なのかな?

 両手を置くと、間に画面が表示される。

 今度表示されたのは腕輪に入ってる物の一覧。


「ホワイトスライム百体以上倒したのね。

 初めてなのに凄いわ。

 ……ってあら?

 チーノ草、株ごと採ってきたの?」


「えっ、チーノ草一本1Pでしょ?」


「ごめんなさい、説明足りなかったわね。

 チーノ草は茎から枝分かれした先で一本なの。

 茎や根は食べれないから普通は採ってこないわ」


「食べるだけなの?」


「潰して軟膏にしたりもするけど、食べた方が効果あるわよ」


「へー……」


 たしかにチーノ草は葉っぱをそのまま食べてもPPを回復できるが、皮なめしに使ったりと色々使える。

 特に根っこはそのままだと駄目だが、精製すれば葉っぱだけで作るよりも効果の高い回復薬ができる。

 そういう製法は失われたのか?


「全部精算しちゃっていいのかしら?」


「一つずつ残して」


「わかったわ」


 シルビアナがアイテム名を指で触って個数を決定、一覧の下の枠にずらすと査定額が表示された。

 200Pいかなかったが、まあこれ位か。

 精算ボタンを押すと腕輪から光が出ていき、カウンターの奥からカラカラと音がした。

 少し席を外すと皮袋を持って戻ってきた。


「はい、これが今回の報酬よ。

 袋は私からのプ・レ・ゼ・ン・ト」


 受け取ろうとして手を伸ばしたがウィンクが飛んできたので回避する。


「中身だけでいいよ」


「冗談よ。

 ホントは初めてのクエスト達成のサービスなの。

 だから、そんなに警戒しなくていいわ」


「……冗談はいらないよ」


 そう言って皮袋を受け取る。


「そういえばここっていつ閉まるの?」


「日が沈んだら閉めるわよ。

 他のとこと違って灯りがないから夜中はやれないの」


「そうなんだ、ありがとう。

 じゃ、またね」


 ギルドを出て店に向かう。

 まずはヤオ・バンからかな。

 色々と持ち運ぶのに袋とか欲しいし。

 辿り着いてみると、多少古びているが見慣れた外観だった。

 ガラガラと戸を開け中に入る。


「いらっしゃぁい。

 なにをお探しだい?」


 ずざっと後ずさる。

 雑多な品物の奥から声をかけてきたのは紛れもなくあの干物婆。

 えっ、生きてるの?


「おや、どうしたんだい?

 婆の顔になにか付いているのかい?」


 首を横に振って、用件を伝える。


「背負い袋と袋、皮製で安いのない?」


「どれくらいのをお探しだい?」


 これくらいのと身振りで伝えると店の奥からピッタリなのを持ってきた。


「背負い袋は100P、袋は50Pだよ」



 現在の所持金がほとんどがなくなるが、必要なので金を払い品物を受け取る。

 背負い袋を背負い、小銭入りの小袋と皮袋を入れる。

 少し動いたり引っ張ったりしてみる……問題ないな。

 次はスキルの値段を確認しに行くか。


「ありがとう。じゃあね」


「またおいで」


 タレント取得はまた今度だな。

 結構有用だが、前提条件がいるし、何より覚悟が決まってない。

 アレやらないと駄目なんだろうな……。

 一実万集へ向かうと、こちらも古くなっているが見慣れた外観。

 建て替えるほど儲けてないのかな?

 中に入ってすぐのカウンターには目つきの鋭い老人が待ち構えていた。

 商人というよりは歴戦の老兵と言った方がいい外見だが、中身もそんな気がする。

 ヤオ・バンもそうだが、小さな外観に反して地下は物凄く広い。

 店を作るクエストの際、クエスター式収納術だと自分で商品管理できないから物理的な倉庫が欲しいと頼まれた。

 武器や防具とかだと生産専門のクエスターが販売者の後ろに居たので、商品補充は楽なため倉庫を大きくする必要がなく、最初から工場をつけたタイプが建てられた。

 この二店は色々な人と取引してたので、受け持ったクエスターは増築を考えると区画的な面から地上よりは地下の方が継ぎ足しやすいからと倉庫を地下に造った。

 その読みは正しく、増築クエストが発生したのだが、それを受けた中の一部が防犯設備として色々と仕込み、その後も増築が進んだ結果、地下倉庫は一大ダンジョンと化した。

 商品を取りに行くクエストも発生、ある程度能力があると欲しい商品は入場料払って自力で取りにいけばタダになるよと対応をされる事もあった。

 もちろん、死に戻れば再入場料が必要だった。

 クエスターに頼らず自力で取りに行ってればこうなるよなって感じの店主だ。


「何の用だ?」


「値段調べに来たんだけど。

 攻撃魔術の一番安いやつ、あとしまうやつと出すやつ」


「攻撃は直接か、間接か?」


「直接で」


「魔術は200、残りは4000だ」


「4000……高いな」


「卸す奴がほとんど居ないからな」


「そっか、ありがとう。

 じゃあ、また今度買いに来るね」


「日のある内なら開いている。

 買う気なら売れる前に来るんだな」


 見かけほど気難しい人ではなさそうだ。

 とりあえずの目標は200P貯めることだな。

 腕輪の容量は大丈夫だろうか?

 とりあえずあれだけ入ったが、確認しておいた方がいいだろう。

 そう考えると、グレートホールへ向かった。



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