10 夜の訓練
狩りをしていると日が沈み、辺りは闇に沈んだ。
ZP1なら常時四つ以上月が浮かんでいたので明るかったのだが、今は星明りしかない。
ホワイトスライムは目を凝らせば闇に薄く白く浮かぶのでなんとかなる。
チーノ草は手触りでほぼ感で取るしかないのが難点だ。
アルカディアの方はもっと大変だろう。
向こうのグレートホール側の初期エリアにいるのはブラックスライム――通称はあんころ餅、黒ゴマ団子。
色が違うだけでホワイトスライムと実質は変わらないが、その色が問題だ。
名前の通り真っ黒。
星明りだけで見分けるのは難しいだろうな。
ホワイトスライムを揉んでは核を探しては潰していく。
このペースだと日が昇る前に容量一杯になりそうだ。
その後はどうしようかな?
……なってから考えればいいか。
そんな事を考えながら次のホワイトスライムに取り掛か……ってあれ、固い?!
目を凝らしてじっと見る。
……真珠っぽい感じは無いな、偽餅か。
偽餅――正式名称ホワイトオニキススライム、ホワイトスライムのレアだ。
モンスターは一種類に付き一つずつレアとユニークがある。
レアが元の種類の強化版、ユニークはそれに加えてPPを持っている。
モンスターは基本的にPPを持ち合わせていない。
保持している星の力の量まで肉体的に強化されているので余裕が無い。
スキルを使ってくる物もいるが、それ用に星の力を一時的に溜めて使用してくる。
わかり易く言うと、ドラゴンがブレスを吐く前に一旦深呼吸するみたいな感じだ。
例外はエリアボスとユニーク。
エリアボスは文字通りエリアのボスで、そのエリアで一番強い個体がなっていた。
単純にレベルだったので、ユニークの場合もあるがそうじゃない場合も多かった。
エリアボスになると、スポットから力が供給されるようになる。
PPが付与されて基本的に高速で回復し、巨大化してる事もあった。
PP持ちはスキルを溜め無しで使ってくるので注意が必要だ。
人類は環境に合わせて肉体を作り物理的に強化するのではなく、自分に合わせて星の力を使い環境を作る事を選んだ種族だ。
古代の人類は大量のPPを保持していたが、文明の便利さに慣れて徐々に退化していった。
それでもZP1の頃は一般人であっても少しはPP持っていた。
けど、さっきのごろつきPPなかったよな。
あいつらが特殊なのか、退化度合いが著しいのか……。
でも、クエスターになれる奴もいるんだよな。
そういえばどれだけいるんだろう、NPCクエスター?
……考えても仕方ない。
とりあえずこの事は横に置いておこう。
スライム系のレアは石の名前が、ユニークは宝石の名前が付いている。
ホワイトスライムのユニークはホワイトパールスライムで、名前の通り真珠のような感じだ。
では、ホワイトオニキススライムはというと、これはホワイトスライムの見た目と一切違いはない。
能力といえば、ZP1では60レベル位のVit極を瞬殺するほどだ。
これだけ聞くと初心者エリアに似つかわしくない能力を持ってる上、雑魚そっくりなトラップにしか見えない。
しかし、実は初心者などにとってはほとんど危険はない。
何故かというと、これはクエスターの特性に理由がある。
クエスターはPPを持っている。
PPがあるとどんなに肉体がダメージを負っても瞬時に治る。
再生した分PPは減るが、頭を吹き飛ばされようが、胴体を刳り貫かれようが死亡しない。
つまり、すごい威力の攻撃をされても強すぎる分は無意味になる。
威力よりも継続的にダメージを受ける事の方が厄介だ。
プレイヤー同士で戦う時、気をつけなければならないのはその点だったりする。
弱すぎてダメージ通らなくても困るし、強すぎても無駄になる。
スキルは強力になるほどクールタイムが長くなるし、セットしているタレントの系統のスキルを使った場合短くなるがクールタイムは全スキル共通だ。
例えば魔術系スキルの一つを使った場合、他の魔術系スキルだけではなく剣術系など他のスキルも使えなくなる、ただし魔術系スキルを使った際のクールタイムはタレント【魔術】で軽減される。
話が少しずれたが、ホワイトオニキススライムは攻撃力も防御力も凄い。
動きは、通常時はホワイトスライムと変わらないが、攻撃速度は目にも留まらぬ速さだ。
しかし、攻撃手段はホワイトスライムと同じく体当りのみ。
防御力が低いと体を貫いて、空の彼方へと跳んでいく。
むしろ、防御力が高くて貫かれなかった場合は連続体当りでぶちのめされる。
Vitが高いと不利益のように見えるが、Vitが低いと弱い攻撃でもダメージを受けるという事なので利益が無いわけではない。
要は相性の問題だ。
なお、空の彼方に跳んでいったホワイトオニキススライムは戻ってくる事はあまりない。
モンスターは敵を追いかけてとか、事故的なもの以外では基本的に自分のエリアを離れる事は無い。
エリアから出たモンスターは用事を済ませると、自分のエリアへ真っ直ぐ戻る習性がある。
戻る途中襲われれたり、逃がした獲物を見つけたりすれば攻撃してくるが、基本的に戻る事を優先する。
別所属ならモンスターも襲われる。
襲われ続ければ力尽きることもある。
ホワイトオニキススライムはそれで戻ってこられない……訳ではない。
超強力なモンスターがいる地帯まで行けば危ないが、大抵のレアやユニークよりも強い。
モンスターも所属とエリアによる修正を受けるが、減少するステータスはブースト分だけ。
モンスターはほぼアーキなので、自然回復量は減るがほとんど弱体化しない。
武器にしようと持って行こうとする者もいたが、別所属のエリアに強制的に連れて行くのは敵対行為と見なされるので断念されていた。
別所属なので襲われる>貫いて空の彼方へというのを繰り返し、運良く自分のエリアか、そこにつながっている自所属のエリアに落ちる事があればやっと戻れる。
モンスターも自所属以外のモンスターを倒すことでEXPPや素材をを獲得し、モンスターの場合は自動的にレベルアップ、素材の特性が反映される。
そうして長旅から戻ってきたホワイトオニキススライムは、ZP1最強モンスターの一角となる。
ホワイトオニキススライム素材は重宝された。
軽く、生前ほどではないが高い衝撃吸収性と強靭さ、弾力性。
防具の裏地に使用される他、高Strだと防具の継ぎ目に使用して構えるのは遅くなるものの攻撃速度や威力を高めたりもできた。
帰ってきたホワイトオニキススライム素材はそれより遙かに強く、トッププレイヤー垂涎の一品だ。
ホワイトパールスライム素材はというと、ホワイトオニキススライム素材とほぼ同じで、特殊効果も付くので好まれた。
ならホワイトパールスライムも旅立たせればと考える所だが、戻ってきた例がない。
有志が集まって検証した結果、ホワイトオニキススライムの飛距離は20エリアぐらいだった。
ではホワイトパールスライムはというと、計測不能という結果になった。
ホワイトパールスライムは自己強化系らしきスキルを使うのでそんな結果になった。
エデン、アルカディア両国の人員が集まってやっていたのだが、放物線を描かせると反対の国の頭上を跳んでいった。
最初に体を低くすれば何とか旅立たせられるが、スライムよりも体高の高いモンスターはいくらでもいる。
戻ってくるまでに角度が付かない可能性など欠片も無い。
ユニークは一度に一体までしか居ない。
その個体が倒されると、通常のが倒された時に新たに現れる可能性が発生する。
ホワイトパールスライムは世界のヘリから落ちてその内死んでいるのだろうと言われてたが、いつ死ぬかは全くの不明。
一年近く見かけなかったこともあり、そんなわけでホワイトパールスライムに気軽に手を出すのは厳禁だった。
レアが現れるのもまれだが上限はないので、ホワイトオニキススライムの方は旅立たせるのは推奨だった……周りに迷惑をかけないようにだが。
落下の衝撃などは綺麗に消すので、突然降ってきたホワイトオニキススライムで死亡する心配は無い。
問題は最初の時点、音速を超えてるのか轟音と衝撃波が辺りに広がる。
流石に夜中にやるのは近所迷惑だ。
日が昇ってからやろう。
VR化して痛みが付くからクエスターの不死身性は減少してるが、これも経験だ。
それまでは、何するかな?
草の中、他のホワイトスライムを探すのは暗すぎて難しい。
となると、駄目元でホワイトオニキススライム揉んで按摩上げに勤しむしかないか。
……そういえばスキル使えるようになるのに下準備が居るんだったな。
通すだの使いこなすだの言ってたが、つまりは星の力を認識してモンスターがスキルを使うように必要な所に集めるという事だろう。
PPは十分にあるのだから、スキルが発動しなかったのは濃度的なものが関係するのかもしれない。
スキルを買えるだけのお金を手に入れる分の素材は集めたし、時間もあるので星の力の認識の練習をしてもいいだろう。
うーん……まずは星の力の方を優先するかな、按摩は別に上げなくていいし。
で、星の力の認識だが……どうやるんだ?
というか星の力ってなんだろう?
水中だと回復量減少したし、PPの自然回復は呼吸でしてるみたいだから、酸素みたいなものなのかな?
という事は肺から血液に溶けて……って血は無いんだった。
怪我すれば星の力が噴き出るということは、血液代わりに体を駆け巡っていると……血液を意識的に集めるのって無理じゃないか?
下半身のアレだって別に意識してやるわけじゃないし、むしろ散らす方に意識を集中する……って話がそれた。
……なんだろう?
こう、なんか似ているような、そうでないようなものを、知っているような、いないような……。
……………………あっ、アレだアレ!
気とか気功とかいう奴だ!
昔からやってたからそういうものだと思っていたが、これが元ネタかな?
地面の気がどうのとかパワースポットなんてのもあったな。
そうか、星の力って気か……ってわかったからどうしろと?
気功なんて使えない。
……いや、クエスターだから使えるのかな?
とりあえず試してみるか。
たしか、気の集め方は呼吸。
丹田に気が集まるように意識しながら深く息をする、だったよな。
すぅ…………はぁ…………すぅ…………はぁ…………なんか集まったようなそうでないような。
もっと続けるか。
すぅ…………はぁ…………すぅ…………はぁ…………。
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……確かにある感じがするな、これが星の力か。
で、これを使う所に移動すると?……なんか二度手間だな。
始めから使う所に集めた方がいいかな?
とりあえず今集めた分を動かして、次は場所に直接溜めてみるか。
呼吸に合わせてポンプのように集まってる分から吸い上げ、右手に送るようなイメージを作る。
しばらくして全て送り終える。
右手に変わった様子は見られない……妄想じゃないよな、これ?
……考えても仕方ないか。
スキルが発動すれば本当に星の力が溜まっているんだろう、と不安は放り投げる。
次は左手に集まるよう意識しながら呼吸を繰り返す。
すると、意識がそれたからか右手に集めた分が薄れていくような感じがした……もったいない!
慌てて意識を集中して引きとめると、今度は集まりきってない左手分が薄れていく。
悪戦苦闘しながらなんとか両手に溜めた。
……最初から両手に溜めた方がよかったような?
というか、右手分なくなってもよかったよな、集める効率の違い知りたかっただけだし。
……なんでこんな必死になったんだろう?
はぁ……まあ、いいや。
集めた分は一旦散らそう。
集める前と後の違いが少しずつの変化だったからか、集めるの集中してたからかわからなかった。
というわけで戻る時に期待。
集めた分が体に広がっていくイメージで呼吸を繰り返すと段々と薄く広がっていく。
意識を逸らせばすぐわからなくなるが、集中すればあるのがなんとなくわかる。
これで下準備はとりあえずOKだな……妄想とか気のせいじゃなければ。
今のままだと溜めるまで時間がかかりすぎるから、時間短縮が必要だな。
これを実用レベルまで短くするのは一苦労だ。
……いや、動きながら溜めたり留めておければ何とかなるかな?
クールタイム中に溜めれるかどうかはわからないが、先制攻撃用にでも留めておければ使い勝手は上がる。
他にはいろんな所に集めて、そこからスキル使えたら色々とやれそうでいいが、その辺りはスキル覚えてからでいいかな?
まずは動きながら溜めてみるか。
といっても、暗闇の中そう大きくは動けない。
それにまずは小さな動きからがいいだろう。
ちょうどホワイトオニキススライムが居るしこれを揉みながら集めるかな?
場所はとりあえず両手。
できるようになったら場所を増やしてみよう、溜めた個数で連射できるかもしれないし。
すぅ…………はぁ…………もみもみ……すぅ…………はぁ…………もみもみ……。
……すぐ散るな。
やっぱり動きながらだと集中しづらいのかな?
さっきと同じく集中してるつもりなんだが……。
……ま、まあ、こういうのは慣れだ、慣れ。
頑張ってやってれば、間違いじゃなければその内身に付く……間違ってないよな?
とりあえずもっと集中して続けてみよう。
すぅ…………はぁ…………もみもみ……すぅ…………はぁ…………もみもみ……。
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