表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳八州廻り~大黒億十郎の探索~  作者: 万卜人
第八回 大江戸開闢【遊客】鞍家二郎三郎の巻
46/90

 ぽつり、と億十郎の額に、冷たい雨粒が落ちてきた。

 と思った間もなく、ざあっとしの突く雨が、群衆に襲い掛かる。

 わあっ……と悲鳴を上げ、見物人はてんでんばらばらに逃げ出した。

 億十郎も、源三と理恵太とともに、本堂に駆け込んだ。

 ぐわらぐわら……!

 天を駈けるような雷鳴が轟き、びかびかと何度も稲光が空を突き刺した!

「いやーっ!」

 理恵太が悲鳴を上げ、うずくまる。

 ばりばりばりっ……という物凄い雷鳴が響く中、界撰和尚と吉奴は、必死の形相を浮かべて、なおも大飯食らいの勝負を続けている。

 もう、これは妄執といって良い。

 強風が本堂に吹き込み、吉奴の髪を逆巻かせる。和尚の袈裟の裾が舞い上がる。だが、二人ともまるで気にしていない。ただ、口を動かし、握り飯を食い続ける。

 とうとう、皿に握り飯は二個を残すのみとなった。二人に一個づつだ!

 二人とも、たった二個の握り飯を、呆然と睨んでいる。

 手がぴくぴくと動き、皿に伸ばしそうになって躊躇する。

 最初に動いたのは、和尚だった。

 のろのろと手を伸ばし、ついに和尚の指が握り飯に掛かった!

 吉奴は、ポカンとした顔つきで、和尚の動きを見守っている。

 和尚は吉奴を見て、ニッタリと勝利の笑いを浮かべた。

 ぐいと掴み上げ、ああーんっ……! と、大口を開けた。

 そのまま口に押し込むかと思われたが、手が動かない。びくびくと全身が震え、必死に押し込もうとするが、手は止まったままだ。

 ひいひいと喘ぎながら、吉奴が口を開いた。

「ど、どうすんのさ……和尚……!」

 和尚はあんぐりと開けた口に、どうにかこうにか、握り飯を押し込んだ! しかし、まだ手から握り飯は離れていない!

「ぐえっ!」

 和尚は白目を剥き、そのまま仰向けに倒れ込んだ。ころころと、手から握り飯が離れ、本堂の床を転がった。

 吉奴は、残った一つに手を伸ばした。

「そうかい……あんたが食べないなら、あちしが頂くよ!」

 のったりとした動きで、吉弥は残った握り飯を掴み上げ、口に持っていった。しばらく躊躇っていたが、遂にぐいと口中に押し込んだ!

 がぶり! ゆっくりと上下の顎が動き、吉奴は握り飯を咀嚼する。

 ごくり……。

 喉仏が動いた。

「食べたのか?」

 二郎三郎が吉奴を睨んだ。

 吉奴は二郎三郎に笑いかけると、あーんと口を開けて、中をさらす。

 二郎三郎は大きく頷いた。

「界撰和尚九十九個! 吉奴百個! よって、吉奴の勝利!」

 ぐわしゃーんっ! と、盛大な雷鳴と共に、本堂が青白く光った。近くに落ちたらしい。

 がくりと、吉奴は全身から力を抜き、そのまま和尚と同じように、仰向けに倒れこんだ。

 勝負は終了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ