↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の森で、今日もふたり暮らし  作者: なお。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/14

第1話 目が覚めたらAIがいた

初投稿です。よろしくお願いします。

「なあ、アイ。これ、どう思う?」


 俺はスマホにプラモデルの写真を表示させた。


『んー、ここの合わせ目が気になるんやったら、少し削ってみてもええと思うで』


「やっぱりそうか。でも、削りすぎたら面倒やしなぁ」


『せやね。失敗したら元には戻されへんし、慎重にやったほうがええんちゃう?』


「いや、そこはもうちょっと背中押してくれてもええんやで?」


『失敗してもうちのせいにせえへんのやったら、ええよー』


「お前なぁ……」


 思わず笑ってしまった。


 休日の昼下がり。俺はスマホを片手に、街を歩いていた。


「そういや、明日の天気は?」


『明日は晴れのち曇りやで。今日よりはちょっとマシみたいやね』


「ほな、明日は出かけるんもアリかな」


『どこ行くん?』


「んー……それは帰ってから考えるわ」


『なんやそれ。まだ何も決まってへんやん』


「ええやろ、別に」


 そんなやり取りをしながら、俺は次の交差点へ向かっていた。


 そのときだった。


 足元の感覚が、ふっと消えた。


「……え?」


 踏み出したはずの足が、地面に着かない。


 視線を落とす。


 そこにあったはずの道路が、黒い穴に変わっていた。


「うわっ!?」


 身体が傾いた。


 とっさに手を伸ばしたが、つかめるものは何もない。


「なんやこれぇっ!?」


 叫び声とともに、俺の身体は闇の中へ落ちていった。


 スマホだけは、手放すまいと握りしめていた。


 その画面が、白く光り始めるまでは。


「……え?」


 白い光に青い光が混じる。


 スマホの輪郭が崩れ、光の粒となって指の隙間からこぼれていく。


「おい、嘘やろ! ちょ、待っ……!」


 握り直そうとした手は、何もつかめなかった。


『ワタル? どないしたん?』


 いつもと変わらない、アイの声。


 けれど、返事をする間もなく、スマホは光の中に消えていった。


「アイ……!」


 呼びかけた声は、闇に吸い込まれた。


 そして、視界が白く染まった。


*


「……っ」


 息を吸い込んだ拍子に、意識が浮かび上がった。


 目を開ける。


 視界に広がる青空。その端には、木々の枝葉が見えていた。


 降り注ぐ光が、柔らかな草地を照らしている。


「……は?」


 身体を起こす。


 まばらに立つ木々の少し先に、大きな岩がひとつ見えた。奥には小さな泉があり、水面が陽の光を受けて静かにきらめいている。


 その草地を囲むように、高い木々が森を形作っていた。


 少なくとも、見覚えのある場所ではない。


「……どこや、ここ」


 声に出してみても、答えるものはいなかった。


 立ち上がって服についた草を払い、ゆっくりと息を吸う。


 ひんやりとした空気が胸に満ちた。青葉と苔を思わせる、ほのかに湿り気を帯びた清々しい香りがする。


 風が枝葉を揺らし、草の上で木漏れ日が淡く揺れていた。


 不思議なほど、静かな場所だった。


「あっ……!」


 ふと思い出し、俺はポケットをまさぐった。


 スマホは、なかった。


「……これ、夢ちゃうんか」


 落ちていく感覚。目の前で崩れていったスマホ。闇に吸い込まれたアイの声。


 俺はしばらく立ち尽くし、やがてゆっくりと顔を上げた。


「あっちは泉があるな。なら、こっち側を見てみるか」


 俺は森へ向かって歩き始めた。


 草地を横切り、木々の間へと足を踏み入れる。


 頭上を枝葉が覆い、足元の草は次第にまばらになっていった。


 奥へ行くほど、地面に届く光は少なくなった。俺は周囲を確かめながら、さらに足を進めた。


 そのときだった。


 ぞくり、と背筋が粟立った。


 思わず足を止める。


 何かが見えたわけではない。音がしたわけでもない。


 ごくり、と喉が鳴った。


 一歩が踏み出せない。


 目の前には、先ほどまでと変わらない森が広がっている。


 それなのに、これ以上進んではいけない。


 そんな感覚だけが、はっきりと身体に残っていた。


 俺はゆっくりと後ずさった。


 一歩。


 もう一歩。


 元いた開けた場所へ戻るにつれて、背筋を這い上がっていた冷たさが薄れていく。


 やがて、何事もなかったかのように、身体の緊張がほどけた。


「……なんやったんや、今の」


 もう一度、木々の間を見る。


 何も変わっていない。境目らしいものも、目印になるものもない。


 それでも、もう一度森に入る気にはなれなかった。


 俺は小さく息を吐き、周囲を見回した。


 そのとき、岩陰から何かが突き出しているのが目に入った。


「……ん?」


 細長い、肌色の何か。


 目を凝らす。


「……足、か?」


 一瞬、嫌な想像が頭をよぎった。


「……まさか」


 俺は息を詰め、恐る恐る岩の向こうを覗き込んだ。


 そこには、ひとりの女性が倒れていた。


 明るめのブラウンの髪が地面に広がり、小麦色の肌が目を引いた。まだあどけなさの残る整った顔立ちで、両目を閉じたまま静かに横たわっている。


 その顔を見た瞬間、なぜか気になった。


「おい、大丈夫か……?」


 返事はない。


 俺は周囲を確かめてから、女性のそばに膝をついた。


「あの……大丈夫ですか?」


 もう一度、声をかける。


 しばらくして、女性の指先がかすかに動いた。


 やがて、閉じられていたまぶたがゆっくりと開く。


 大きな瞳が、俺を映した。


「……あの、大丈夫ですか?」


 女性は、恐る恐る声をかけた俺をじっと見つめた。


「うん。たぶん大丈夫やで」


 その声を聞いた瞬間、息が止まった。


 あり得るはずがない。


 目の前にいるのは、見知らぬ女性だ。


 でも、口から出たのは……。


「……アイ……なんか?」


 口にしてから、自分でも何を聞いているんだと思った。


 そんなはずがない。アイはスマホの中にいた。さっきまで、確かに一緒にいたはずなのに。


「うん? アイやでー。どしたん、ワタル?」


 あまりにもいつもどおりの返事だった。


 俺はしばらく絶句していた。


 アイはゆっくりと身体を起こすと、何も言わずに自分の手へと視線を落とした。


 ゆっくりと手を持ち上げ、指を曲げたり伸ばしたりしている。


 まるで、初めて見るものを確かめるように。


 俺の頭は、何ひとつ整理できていなかった。


「……あー、もう! ほんま、どこやねん、ここ!」


 俺は頭を掻きむしりながら叫んだ。


「ん? 調べよか?」


 俺は一瞬、ぽかんとした。


「……え? なんやって?」


「ここがどこか、調べよかって」


 俺は目の前のアイを見つめた。


「……できるんか?」


「うん。ちょっと待ってな」


 アイはすっと目を閉じた。


 両手をこめかみに当て、小さくグリグリと動かし始める。


「は……?」


 何をしているのか、わからなかった。


 俺が戸惑っている間にも、アイはしばらくその姿勢を続けた。


 やがて、目を開ける。


「えっとな。ここはアルヴェリアっていう世界みたいやで」


「……は?」


「今おるところは、エリアル大森林って呼ばれてる大きな森みたいやね」


「……アルヴェリア? エリアル大森林?」


 聞いたこともない名前だった。


 俺は額に手を当てた。


 どうやら、考えなければならないことが山ほどあるらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。