↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に娯楽が無いなら配信魔法で作ります! 〜あなたの人生、配信してもいいですか?〜  作者: END
第一章 プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/33

第1話 前世の記憶を思い出した日(前編)



「あ」



 ピシャゴーン、と。

 まるで雷にでも打たれたように、身体中を電気が駆け巡った。


 頭の中には前世の記憶が濁流のごとく流れ込み、ポカンと開けた口からは呆けた声が漏れていた。



「何をボサっとしているのですか」



 神経質そうな修道女──Sr(シスター).ヒスリックの硬い声が、冷えた廊下に響く。


 それだけで、近くにいた子供達がビクリと身体を強張らせるのがわかった。


(……ここはどこ? 僕は誰?)


 記憶喪失者のような感想を抱《いだ》きながら、現状を把握しようと軽く周囲に目を配る。


 開け放たれた鎧戸と、その奥に見える鼠色の空。


 日焼けした板壁と、微かに漂う陳臭《ひねくさ》い香り。


 見慣れた景色。

 いつもと変わらない日常。


 どれもこれも知っているはずなのに、どれもこれもしっくりこないような……そんな妙な感覚に眉を顰《ひそ》めた。



「聞いているのですか、ナナ」



 木靴をカツカツと鳴らしながら、Sr.ヒスリックが歩調を早めて近づいて来る。


 呼び掛けられた気もしたけど、すぐに返答する事は出来なかった。


(ナナ? ……そうだ、ナナは僕だ)


 段々と違和感が薄れ、思考が一致してくる。


 僕の名前はナ(・)ナ(・)シ(・)。

 これはSr.ヒスリックが付けてくれた名前だ。


 と言っても、Sr.ヒスリックは僕の本当の母親というわけではない。


 僕は捨て子だった。

 礼拝堂にある【創世の女神アモレーヌ様】を模した彫像の下、臍《ヘソ》の緒がついたまま置き去りにされていた僕をSr.ヒスリックが発見、保護し、そのまま名付け親になってくれたのだ。


 その節はありがとう、Sr.ヒスリック。


 ただ、名無し(・・・)なんて名前を付ける感性はだいぶ皮肉が効き過ぎていると思うよ、Sr.ヒスリック。


 だから皆、気を遣って僕の事をナナと呼ぶ。

 いわゆる、愛称ってヤツだね。





 ──ヒュンと、何かが風を切る音。

 直後、バチンッという乾いた破裂音。



「ゔ……っ!」



 身体に痛みが走り、苦悶の声が口から漏れた。



「返事をしなさい、ナナシ」



 Sr.ヒスリックの手には懲罰用の短鞭。

 子供達が何か粗相をした時に、Sr.ヒスリックはソレを振るって教育《・・》を行っていた。


 そう、今のように。



「ごめんなさい。Sr.ヒスリック」



 ジンジンと痛みを訴える右手をさすりながら、謝罪の言葉を口にする。


 返事が遅れてまた叩かれてはたまらない。


 正直「体罰は時代錯誤だ!」と声を大にして糾弾したいところだけど、ここは中世ヨーロッパ(ナーロッパ)のような世界である。


 コンプライアンスなどあるわけもなく、口答えなんてしようものなら更なる懲罰を頂戴する羽目になる。


 つまり、反論するだけ無駄、というわけだ。


(……そういえば、今は清掃の時間だったっけ?)


 氷のように冷えた眼差しで僕を見下ろしていたSr.ヒスリックは「次は気をつけるように」とだけ告げると、そのまま僕に背を向けて離れて行った。


(助かった……)


 厳重注意で済んだ事に、ホッと息を吐く。


 Sr.ヒスリックは、とりわけ僕に厳しかった。


 保護して名付け親にまでなったのだから、教育ママよろしく僕に厳しく接するのは当然と言えば当然なのかもしれない。


 もっとも、Sr.ヒスリックは飴と鞭の鞭(物理)担当だから、基本的には誰に対しても厳しいんですけどね。


 もちろん、自分自身にも。



「どっこいしょういち」



 子供らしからぬ掛け声を口にして、冷たい井戸水の入った木桶に手を入れる。


 薄汚れたボロボロの雑巾を手に取り、軽く絞ってから飴色の床を丹念に磨く……フリ(・・)をする。


(さてと、このまま情報整理でもしますかね)





 ここはデザートアマイン王国の最北端にある、フィッシという港町の小さな孤児院だ。


 歴史のある修道院に付属しており、ここでヨボヨボの修道士長《おじいちゃん》と訳アリ(・・・)の修道女達と共に、身寄りのいない子供達が慎ましく共同生活を送っている。


 もちろん僕も、その中の一人だ。


(捨て子ねぇ……)


 流浪の旅人か、流離の吟遊詩人か、漂泊の冒険者か、はたまた寄港の商人か、それはわからない。


 それはわからないが、炊き出しに頻繁に顔を出す呑んだくれのオッサンが「どこぞの誰かが身重のままフィッシに行き着いて、ブリッとウンコのようにお前を産んで、結局そのまま捨てていったんだろうよ、ガハハッ!」なんて話を、ノンデリ全開で語ってくれた事はある。


(シスター達にしばらく出禁を言い渡されて、オッサン泣いてたなぁ)


 今にして思えば、オッサンの憶測はあながち間違ってはいないと思う。


 なぜなら町民の誰かが身重であれば周囲に知られていただろうし、産んで捨てたとなれば身元の特定だって容易だったはずだからだ。


 つまり、答えは自ずと余所者、という事になる。


 現に僕の容姿は『あ、こいつ外の血だ』と一目でわかる、黒髪黒目をしていた。


(前世も外の血と言えば外の血だしね、うん)


 黒髪黒目なんてこの国ではだいぶ浮いてるけど、目鼻立ちのボヤっとした平たい顔族(日本人顔)の僕にはカラフルな色彩なんて似合わないし、これはこれで良かったのかもしれない。

 

(ま、両親とか出生とか容姿とか今更どうでも良いけどね! そんな事より今大事なのは、僕が前世の記憶を思い出したという事実……っ!)


 なぜ今頃になって思い出したのか、わからない。

 わからないが、早急に感謝は伝えるべきだ。


 気《・》ま(・)ぐ(・)れ(・)の(・)女《・》神《・》ア(・)モ(・)レ(・)ー(・)ヌ(・)様《・》に。


(アモレーヌ様、ありがとうございましたッ!)



ブックマーク・感想・レビュー・リアクション等、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。