始まり
テレビで田舎暮らしの番組を見た。
お笑い芸人の人が、派手なリアクションでいろいろ驚いていた。
笑ったのが無人販売所にびっくりしてた事。
都会じゃありえないですよって言ってたけど、そんなに都会って治安悪いの?
もしかして海外みたいに自動販売機も置けない感じ?
なんか物騒だね。
田舎は安全そうって?
猪とか熊とか鹿がでるよ。
たまに野ウサギも見るし、キツネも見るし、イタチもいるし、モグラもいるし、山の横とか歩いていたら、急にキジが鳴いて驚く事あるし、蛇がカエル丸呑みする瞬間も見たことあるし、鹿が農業用のネットに角が絡みついて、変な格好してるのも見たことあるし。ホタルが家の中に入ってくる事あるし、サワガニが道を歩いていたりするし、平和かな?
私にはわからない。
受験戦争とかはないけど、田んぼとかでは、メスカエルを巡ったオスカエルによるナンパ戦争があるし、都会より、なんか生き死にがハッキリしてると思うよ。
だから平和かな?
って疑問。
あの番組みて、
都会の人って、田舎に憧れるのってなんでなんだろうな。
って思った。
自然が豊かとは言うけれど、子供のころから見慣れた私にとっては特に何も感じることがない。
移住者のインタビューをしていて、田舎は癒されますねという事を言ってたけど、私は、住んでて癒されるって思ったことはない。
たしかに、川はキレイだし、春はウグイスの声も聞こえる。
でも多分、都会でカラスの声を聞くのとなんら変わりはない。
そんな気がする。
子猫の動画とか見ているほうが癒されると私は思う。
猫カフェなんか、きっとすごい癒される。
私は猫カフェにいったことないけど、3軒となりのヨシ婆ちゃんのところに安二郎って猫がいるんだけど、遊びに行くと、お茶とおせんべいをくれるから、私にとっては、ヨシ婆ちゃんのところが猫カフェかな。
ヨシ婆ちゃんのところも癒されるし。
田舎より猫だと思う。
学校の近くの溝には、メダカが泳いでいる。
なんかの行事で都会から来た子は驚いていた。
あんなの水槽のなかでしか見たことがないって言ってた。
農業用水とか、都会には流れてないのかな?
「ミリンちゃん。朝ご飯できたよ」
あっ、ママがよんでいる。
もうそろそろ学校に行かないと……。
私は1階に降りる。
うちの家の階段は急だ。
しかもツルツルしてるから、何度落ちた事か。
「ママ、パパおはよう」
私は元気に挨拶する。
田舎の小学生は、挨拶が元気がないと、近所の人からいろいろ言われる。
なんでなの?って前に先生に聞いたら、
「耳の遠いお年寄りが多いから、大きい声で挨拶しないと、挨拶していないって思われるからだよ」
と言っていた。
そうやって、大きな声で挨拶するうちに、家でもつい大きな声で挨拶してしまうようになった。
前に都会に住んでいる従弟の家に、夏の間1週間お泊りしたことがあったけど、大きな声で挨拶をすると、
「元気だな」
とよく笑われた。
こういう調整ってなかなか難しい。
我が家の朝ご飯は、最中と目玉焼きとカフェオレ。
お正月も、このメニュー。
従弟の家に泊まるまで、この朝ごはんが普通だと思っていたけど、従弟のところでは、トーストに目玉焼きとカフェオレだった。
不思議に思って
「最中は食べないの?」
と聞いたら、
「最中なんか、めったと食べないよ」
と言ってた。
学校でも聞いてみた。
トースト、ご飯、おいも、シリアル、まんじゅう、おはぎ。
そんな感じだった。
最中のところは、うちだけで恥ずかしかった。
パパとママに聞いてみた。
「なんでうちは最中なの?」
そうすると、
「パパもママも最中を作る工場で働いているからだよ。社販で安く買えるし、多少買っておかないとね」
と言われた。
なるほど、大人の事情というのがあるのか、そう思った。
私の住んでいるところは、けっこう田舎。でも限界集落?っていうのかな。
そこまではいかないみたい。
でも学校の周りは田んぼや畑ばっかり、時々鹿やクマもでる。
夕方から夜にかけて、若い鹿バンビが道路を歩いていたりするから、結構危ない。
半分くらいの人が人身事故は経験がないけど、鹿をひいた経験はあったりする。
パパが
「鹿は峠の道を走っていると、突然飛び出してきて、ぶつかってくる」
と言っていた。
本当にそんなことあるのかな?と思っていたけど、先生とかもそう言ってたから、実際にそうなんだろう。
ただぶつかるのは、主に若い鹿が多いみたい。
若い鹿は車の怖さを知らないし、好奇心が強いからだと言ってた。
学校は私の家からは3㎞ほどある。
学校の生徒のすべてが、1㎞以上離れたところに住んでいて、みんなスクールバスで通っている。
学校の生徒は全員で100人くらい。
私は6年生で同級生は私含めて18人
……そろそろバスの時間だ。私は待合場所まで行く。
近所の子たちがいた。全員年下だ。
「おはよう」
と私は挨拶する。
みんな
「おはようございます」
と元気よく挨拶を返してくれる。
バスが来るまで、10分ほどある。私はふと山を見る。
甘食山に雲海がかかっていた。
甘食山 というのは、山の形が甘食に似ているから、そう呼ばれている。
正式な名前はしらない。
雲海というのは、山の頂上が雲の上からでている状態をいうそうで、都会ではあんまり見られない光景だそうだ。
都会の人が来ると、桃源郷みたいだとか、山水画をみているみたいだとか、空気感か日本画の空気感があるとか、そういう風に表現するけど、まったくピンとこない。
私はよく見慣れた景色だから、別に対して何も感じない。
私からしたら、コンビニが歩いて10分もかからない所にあることのほうがスゴイ。
私の住んでいるところでは、コンビニといえば、2~30分かけて車で行くところで、ちょっと特別な感じがするところだからだ。
なんていっても、都会と同じ商品を買えるのがすごい。スイーツもたまに買ってもらうけど、すごくおいしい。
よくSNSとかみてると、コンビニスイーツはたいしたことない的なことが書いてあったりするけど、私のところは、そもそもケーキ屋さんも少ないし、昔ながらのケーキ屋さんなので、たいして品揃えが豊富なこともない。
コンビニスイーツは、もう都会のニオイがして、私にとってはオシャレなものなのだ。
とはいえ、1時間くらい車で移動すると、ファストフード店は沢山ある。
だから田舎だと言われるけど、ほとんど都会と同じなのではと私は思っている。