38.竜の同時出現 side:グレイゼ
最近新設した八番隊が北部軍団の要請で出動し、接敵した。
それだけなら通常業務の範囲内で、騎士団長である自分にわざわざ報告されるまでも無いことだ。
それなのに伝令が来た時点で身構えた。
「伝令! 北部アウストラにて上級魔獣・風竜二体と同時遭遇! 連携を取っての攻撃に対し、既に被害が出ています!」
たまたま副団長のレイズも同席していたので、その場で緊急招集命令を発令する。
竜といえば上級魔獣の代表格で、それだけでも緊急事態だ。それが二体で、互いに攻撃し合うことなくこちらにだけ攻撃をしてくるというのは異常だ。
出られる全員でもって事に対応しなければならない。そもそも、既に被害が出ている、というのは死者が発生していると言うことだ。
もたもたしている場合では無い。
揃って転移陣で出撃し、駆けつけた前線は地獄そのものだった。
身を隠す物のない平原の青空を滑空する二体の竜が、転移陣の設けられた後方からも見える。
まだ民間人の住む村まで多少距離があるものの、空飛ぶ竜にとってその距離はほぼ無いに等しい。
完全に制空権を握られ、王国一と名高い騎士団が弄ばれているようなものだった。
一般兵団にも出動要請はかけたが、これでは来るだけ無駄だろう。100人の兵士がいた所で盾にすらならず、むしろ魔法を使うのに邪魔になるだけだ。
「団長っ!!」
団長と副団長が揃って最前線に到着した事で団員の士気は高まり現場は沸き立ったが、状況は良くない。
「ここまでよく持たせた! 怪我を負ったものは下がって治癒を!」
かなり絶望的な状況に疲弊していた団員を鼓舞し、自分が最前線に躍り出る。
後方にはルーィも来ているから、負傷者も治癒後には戦線復帰してくるだろう。
正面から向き合った風竜二体は捕食者の目をしていて、こちらの事など敵とも認識していないようだ。
「レイズ、捕縛を!」
「了解っ!」
レイズは水を鞭の形にし、攻撃と同時に捕縛も行える器用な奴だ。
レイズが行動を止め、そこに雷撃を喰らわせるというのがいつものパターン。
……なのだが。
「クソっ、捕まらん!」
ただでさえ、空を飛ぶ竜を捕まえるのは難しい。
彼我には生き物として圧倒的な力の差があり、こちらがいくら束になってかかっても弄ばれるだけだ。
しかし、それでも倒さねばならない。
それが英雄と呼ばれる騎士団に与えられた使命だ。
「雷撃っ!」
悠々と空を泳ぐ竜に、当たる見込みは薄くとも攻撃をし続けなければこちらが傷を負う。
威嚇も込めて打つ魔法は、さほどのダメージも与えられない。
周りの騎士たちが打つ魔法も似たようなもので、いつも使う程度の威力では到底足りないと痛感させられた。
いつも『以上』の威力が、絶対に必要だ。
普通、魔法騎士は自分が使う魔法の威力を自分で決めている。それは反動痛が激しくなり過ぎないようにするためで、自分の人生を守るためだ、と教えられる。
その決めた威力を守って働けば、多くは10年勤務して引退し、程々の日常生活を送れる程度で居られる。
だが、最近は強力な魔物の異常発生が多く、後の事を考えていられない任務が増えた。
そして今はまさにその時だろう。
一体でも壊滅的な被害を受ける風竜が、二体だ。
団長として、自分が仕留めねば誰がやる。
「レイズ、一瞬でもいい、二体共止めろ。俺が、殺る」
「団長っ……! 了解っ!」
俺が後の自分事など考えない覚悟を固めたのが、伝わったのだろう。
それまでは牽制に留まっていた水の鞭が、力強く宙を舞う。
レイズもまた、自身の残りの人生を犠牲にしてでも、厄災級とも言える竜の同時出現を止める覚悟を決めたようだ。
「だあああっ!!」
一際大きな掛け声と共に、レイズの水の鞭の片方が竜の脚を、もう片方がもう一体の翼の根元を捕らえた。
「今だ、【雷撃】っ!!」
その瞬間を過たず、自分の出せる最大出力の雷撃を喰らわせる。
それは確実に相手へダメージを与え、二体の竜がギロリとこちらを睨めつけた。
一撃で仕留め切れず、そればかりか相手に「敵」と認識されてしまったようだ。
「来るぞ、反撃! 気をつけろ!」
竜が大魔法を使う前兆を見せたために周りへ渾身の声で叫ぶ。それぞれが自分の技で自分を守らねば、ひ弱な人間など、跡形もなく消し飛ばされてしまう。
「【雷撃】っ!!」
しかし、竜が使おうとしているのは、後方が自力で護れるようなやわな魔法ではないと気づいた。
放たれるとほぼ同時に、相殺すべく天空から轟く雷撃を解き放つ。
纏めて全面を守りきり何とか全滅は防げた上、追加で竜へダメージを与えることにも成功した。
だがしかし。
只人の身で竜にも届く技を使った反動は非常に大きく。
激痛が全身を貫き駆け巡る。
「ぐぁああっ」
あまりの痛みに遠のく意識の中でも、絶対に必要な命令だけを紡ぐ。
「エリシアを、呼べ……」
その言葉は誰かに伝わっただろうか。
薄れゆく意識の中では、確かめることは叶わなかった。
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