雨守 蓮③
炎血の吸血鬼を滅ぼした蓮は彼岸から出るための門を探そうとする。しかし、彼の右腕がそれを許さなかった。
『蓮!久しぶりに起こされたと思ったら、瀕死の吸血鬼のトドメをささせるためだけに起こすなんてどういうこと!』
右腕から聞こえる姦しい声にうんざりしながら弁明する。
「いや、だって流石に俺も吸血鬼の頭を拳だけで潰せるとは思えなかったし、それだったらお前にやってもらったほうがいいかなって」
『はあー!ワタシこれでも"魔女の作品"なんですけど!そんな便利な道具扱いしないでくれますぅー』
"魔女の作品"とは、原初の魔女ドロテアが作り上げた魂と接続する武具の名称だ。世界でも十種しか確認されていない秘宝である。
「ごめんごめん。そんなことより吸血鬼の貴族って真祖以外にも作れるのか?」
『知らないわよ!少なくともドロテアお姉様からそんな話は聞いたことないわ。吸血鬼は真祖からしか生まれないとはいってたけど』
「そうか、わかった。じゃあとりあえず帰ろうぜ門の場所とかわかるか?」
『わかるわけないでしょ。ワタシ目も耳もないんですけど』
「だよなぁ、案外チョロい吸血鬼だったから風花に残って貰えばよかったか」
門を探す面倒臭さからそんなことを言っているとビルの下から声がする。
「れーんさーん!!もう終わったんなら帰るっすよー」
快活な女性の声が聞こえて蓮はビルの下を覗き込む。
「このクソ大声はルカか。風花が迎えに寄越してくれたのか?」
『ホント風花ちゃんはあなたには勿体ないご主人様ね』
「噛み締めてるよ。じゃあそういうことで」
『はいはい。あ、そうだ!今度から戦闘の時は必ずワタシを起こしなさいよ。寝てる間にあなたに死なれたらワタシも道連れなんだから』
「わかったよ」
伝えたいことを伝えてドロシーは眠りにつき、蓮の右腕の幾何学模様もなくなった。
そして、ビルの屋上から飛び降りる。
凄まじい着地音と砂埃が上がり、その中から蓮が現れる。
「待たせたなルカ」
「全然大丈夫っす。それより蓮さんの方こそ大丈夫だったんすか?貴族と戦ってるって風花様から聞いたんすけど」
「貴族モドキみたいな奴だったからな。すぐに終わったよ」
「それはよかったっすね!じゃあ帰ったら手合わせお願いしてもいいっすか!?」
「勘弁してくれ…」
「むぅ…残念っす」
蓮と話していた少女は手合わせが出来ないと聞いて露骨にガッカリしたようだ。
彼女は雷鳴上といい天風家に仕える魔法使いだ。天真爛漫な性格で親しい人からはルカと呼ばれている。
ルカはガッカリしながらも彼岸からでる為の扉を作り蓮と共に表の世界に戻る。
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表の世界に戻って蓮は自分の家に帰ってきた。ただそこは蓮以外にも複数の人が暮らしているシェアハウスのようなところだ。そのシェアハウスは天風家が管理している家で、小高い丘の頂上にあり外観は日本屋敷そのものだ。
蓮は自分の部屋で体を休めていると、廊下の方から声をかけられる。
「蓮、夜ご飯出来たし食べましょう」
部屋の扉を開けると風花が気まずそうに立っていた。敵がいるところに蓮を1人で置いていったことを気にしているようにみえる。
「さっきはあれでよかったし、俺もなんも傷ついてないんだからあんま気にするなよ。だいたい俺はお前の護衛なんだからお前を守るのは当然だろ」
「でも…私はこの街を管理するようにお父様に言われてたのに、蓮に全部まかせちゃったし」
「今度は強敵が来ても大丈夫なように気をつければいいだけだろ、早くメシ食いに行こうぜ」
「ええ」
風花は少し肩の荷が降りたようで少し顔が明るくなった。
そのまま2人でいつも食事を食べている和室に向かう。
和室には今日の食事当番であったルカが食事を並べている最中だった。
「お、きたっすね!風花様も蓮さんを呼ぶ為に使って申し訳ないっす!」
「いいのよ。それより今日はこの3人だけなの?澪がいないのは知っているけど、あなたのお兄さんは?」
澪とはこの家に住んでいる住民のうちの1人で、今は実家の用事で席を外している。
「兄貴は外で食ってくるって連絡きてたっす!だから今日はこの3人っす」
料理を並びおえて全員食事の席についた。
「「「いただきます」」」
並べられた食事を食べ始める。
食べ始めてしばらくした時に風花が蓮に聞きたいことがあったのを思い出す。
「結局あれは貴族だったの?ルカちゃんから貴族モドキを殺したって聞いたけど」
帰宅してから疲れていた為そのまま部屋に直行してしまっていて、蓮はまだ風花に何も報告してなかったことを思い出す。
「少なくとも自分で炎血の貴族っていってたな。弱かったが確かに炎を使っていたし、心臓潰してもまだ生きていた」
「そうなのね。だけど貴族の属性が被るなんて聞いたこともないわね」
そう、問題はそこだ。吸血鬼の貴族は複数確認されているが同じ属性の貴族なんて聞いたことがなかった。もしかしたらまだ知らない貴族だったかも知れないが、そうじゃなかったとしたら貴族を生み出せる何者かがいるということだ。
「あのー質問いいっすか?」
「どうしたのルカちゃん?」
「自分まだ吸血鬼と戦ったことないっすけど、吸血鬼って魔法で心臓潰せば死ぬんじゃなかったっすか?」
ルカは幼い頃から魔法使いとしての訓練をしてきたがそれは対魔法使い用の訓練ばかりで吸血鬼もっと広く言えば人類の天敵"絶滅指定種"についてはあまり教えてもらっていなかった。
「ああ、そういえばルカちゃんは対魔法使い専門でしたっけ。なら良い機会だしご飯を食べ終わったら色々と勉強しましょうか。」
「げぇー!勉強は苦手っすー!」
そんな経緯で夕食を食べおわったらルカの勉強会になるようだ。
夕食がおわり女子陣の風呂が終わり蓮の風呂の時間になった。
「じゃあ、俺は風呂に入って来るから」
「ええ、さあルカちゃん勉強しましょうか」
「うげぇー」
風花とルカの勉強の時間が始まる。
「まずルカちゃんは"絶滅指定種"のことは知ってるかしら?」
「たしか魔法使いが倒さなきゃいけない敵っすよね。なんで倒さなきゃいけないんっすか?」
「そこからなのね。まあわかりやすく説明すると絶滅指定種というのは、それぞれがその種単体で人類を滅ぼすことができる力を持つ生物のことをいうの」
「ほえー、なんかスケールがでっかいっすね。じゃあ吸血鬼もその一つなんすか?」
「そうね。」
「真祖の場合は強さだけしゃなくてその性質で絶滅指定種になっているの。吸血鬼は血を吸った者を吸血鬼にして増えていて、真祖が血を吸った者は貴族になり貴族が血を吸った者は普通の吸血鬼になるの。貴族になるのはかなり低確率らしいけれど、貴族が血を吸った人間は確実に吸血鬼になってしまう。だから吸血鬼は絶滅指定種になっているの」
「へぇ〜、吸血鬼って強いんすか?」
「そうね、たぶんルカちゃんなら普通の吸血鬼なら負けることはないと思うわ。ただし貴族になったらわからないわ」
「貴族ってそんな強いんすか?自分も魔法使いとしてはそれなりに強いつもりっすけど」
「貴族はそれぞれ属性を持った血を使って戦うのよ、その出力は最低でルカちゃんの全力と同じくらいと思ったほうがいいわ。それに、吸血鬼は心臓と頭を潰さないと蘇ってくるしね」
「ああ、そういえば最初はそれが聞きたかったはずっすね。心臓と頭の両方を潰さないとダメなんすね」
「他に聞きたいことはあるかしら?別に明日聞いてもいいけれど」
「いやいや!風花様の時間を明日も貰うなんて申し訳ないっす」
「じゃあ、もう解散にしましょうか」
「あ、一つ質問あるっす」
「なにかしら?」
「絶滅指定種って他になにがいるんすか?」
「!そうね、他のを説明するのを忘れるとこだったわ」
風花は他の絶滅指定種について説明する。
龍 大陸にある動く彼岸を支配している最強生物
神狐御前 日本の京都にある彼岸を支配している
無間 有悟 唯一人間で絶滅指定種になった魔法使い
魔女 イギリスの彼岸を支配している 4人だけ確認されており時々人間とも取り引きをしている
吸血鬼 真祖は西欧の世界最大の彼岸を支配している 総数は不明だが貴族は8体確認されている
「こんなにいるんすね。そういえば彼岸を支配しているとかいってたっすけど、どういうことっすか?」
「世界にある彼岸にはそれぞれ主がいるんだよ。日本の彼岸は神狐御前だな」
「あがってきてたんすね、蓮さん」
風呂から上がった蓮がルカの疑問に答えた。気付けばもう日を跨ぎそうな時間になっていた。
「さあ、今日はもう寝ようぜ」
「そうっすね。自分ももう眠いっす」
あくびを噛み殺しながらルカはおやすみといい部屋に戻って行った。
蓮もおやすみといって部屋に戻ろうとすると「蓮」風花から声をかけられる。
「どうしたんだ?もう今日話すことはないだろ、さっさと寝ようぜ」
「今日はありがと。おやすみなさい」
それだけ言って風花は自分の部屋に戻っていった。
「おやすみ」
風花の後ろ姿に声をかけ蓮も自分の部屋に戻る。
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天風市の彼岸、蓮が炎血の貴族を滅ぼしたところに2つの人影がある。
「流石は天風家だな、人造吸血鬼相手でも余裕か」
「そんで兄さん、あいつらに協力してもらうのか?」
「ああ、我が一族の汚点を消す為に協力してもらうのは申し訳ないが手段を選んではいられないからな、明日にでも彼らに会いに行こう」
「あいよ、アタシは兄さんに従うぜ」
2つの人影は彼岸から姿を消した。
雷 鳴上
15歳 高校一年生 蓮と風花と同じ高校に通っている
少し幼い顔立ちをしていて身長も低く中学生に間違われる 髪は黒髪に黄色のインナーカラーが入っている、これは生まれつきで魂の質が高く魔力の影響が体に表れているからだ。




