雨守 蓮(少年時代)
遅くなって申し訳ない。これからもちょくちょく更新していきます
雨守家の屋敷で一人の少年が目を覚ました。その少年にとって布団がある生活というものは来た当初は慣れないものであったが、一ヶ月以上過ごしていると流石に違和感も薄れてきた。
現在の時刻は朝の6時前であり12歳の少年が起きるには早すぎる時間だとは思うがそれにはやむを得ない事情があった。
少年が布団から身を起こすと同時に部屋の扉が勢いよく開け放たれ、扉を開けた張本人が少年に向かって飛び込んでくる。
「れ〜ん〜!起きろー!」
飛び込んできた少女を蓮と呼ばれた少年は危なげなく回避する。この家に来てから一カ月で同じ状況が30回は起きておりその度に痛い目にあってきた蓮は回避するために早起きをする様になっていた。
「毎朝毎朝攻撃するのはやめてよ澪」
飛び込んできた少女に向かって話しかける蓮、その声色には多分に呆れの色があった。
「澪じゃなくてお姉ちゃんでしょ!わたしは蓮をそんな子に育てた覚えはありません!」
「誕生日は僕の方が先だったからどっちかっていうと僕がお兄ちゃんでしょ」
「歳なんて関係ないわ!わたしの方がこの家にいた歴は長いんだからお姉ちゃんなの!」
まあまあめちゃくちゃな理論を展開する澪に呆れる蓮だった。
「はあ、じゃあこの話は一旦おいておいて。最初の質問に答えてよ澪」
「なんだっけ?」
「毎朝僕に攻撃するのはやめてって言ったことについてだよ」
「ああ、そのこと?だって蓮の体わたしが今修行で使ってるどんなものよりも堅いんだもの。わたしの拳を鍛えるためにあなたを殴ることは必要じゃない?」
「そんな理由だったの?!稽古でも散々殴ってるじゃないか!」
蓮は雨守家に来てからというもの雨守家の稽古に混ぜさせられていた。別に蓮本人としては戦いの技術なんて欲しいとも思っていなかったが、彼をここに置いていった人物から頼まれたらしく強制的に稽古をさせられているのだった。
「最近の澪の打撃は僕にも痛いんだからせめて稽古がいでは自重してよ!」
蓮が来てから澪は稽古中に蓮をほぼ一方的に殴っていたがそのほとんどの打撃は蓮に痛みを与えられず、逆に澪の拳を痛めるだけの結果に終わっていた。
しかし最近の澪の打撃は鋭さが増してきて蓮ですら痛みを覚えるほどとなっていた。
「ええ、ほんとに!?やった〜!また一つ"雫"に近づいたわ」
嬉しそうに笑顔を見せてくる澪だったがその笑顔は蓮に痛みを与えたことによって生まれた笑顔であるため蓮としては苦い顔になってしまう。
「はぁ…もういいや。僕そろそろ朝ごはんの準備しなきゃだし行くね」
そう言って蓮はそそくさと自分の部屋から出ていった。
蓮が台所につくと既に先客がいた。
「あら、蓮。今日も早いのね」
台所にきた蓮に笑顔で話しかけてくるのはこの家の主人であり人類最強の魔法使いと言われている雨守 雫だった。
「澪が起こしてくれたんですよ」
皮肉混じりの蓮の言葉に雫はふふっと笑う。
「ごめんなさい。わたし達の家今まで男がいなかったから新鮮なのよ」
「いや、あれはそういう事じゃないと思うんですけど…」
「わたしから言っておくから許してあげて。それにしても蓮、澪には敬語を使わないのにわたしには敬語を使うなんて悲しいわ」
そんなふうに言われても蓮には家族というものがいまいちわからなかった。彼の生まれ故郷はかなり特殊で5歳になるまでそこで暮らしていたが、家族と暮らしていたわけではなかった。その後に彼を引き取った魔女とはかなり親しい関係を築けていたがそれが家族関係なのかはわからなかった。それに魔女と親しい関係を築くのにも3年以上の月日を要した。そうやって親しくなった魔女から一カ月前に唐突に別れが訪れた。
そのトラウマもあってか雨守家の人々に対して蓮は心の距離をとっていた。澪に対して敬語を使わないのは弟認定されてこき使われそうな気配をひしひしと感じていたからだ。
「はぁ…僕には家族がよくわからないですから」
「そんな事を言っておきながらドロテアとは砕けた感じで話してたじゃない、あんな感じでいいのよ私たちにも」
蓮が苦い表情をする。そんな蓮の顔を見て雫はそれ以上の言及はしなかった。
「うん、まぁ焦る事じゃないわ。これからいくらでも時間があるんだしゆっくり仲良くしましょう蓮。美味しい朝ごはん待ってるわ」
それだけ言って雫は台所から出ていった。台所に一人残った蓮は黙々と朝ごはんの準備を始める。
30分ほど経って蓮の朝ごはんは完成した。その匂いに釣られてか雫と澪が汗だくのまま食卓につこうとしていた。
「雫さん、澪、からだ洗ってきてください。ご飯を食べる時は綺麗な体でって僕は言いましたよね」
蓮は自身が作ったご飯を汚い体で食すことを誰にも許さなかった。その理由は育ててくれた魔女と旅していた頃に魔女が土まみれのまま蓮のご飯を食べて『土臭い』と言い放ったからだ。その時の蓮は魔女に初めて自身の感情を爆発させた。魔女が料理ができないと言い放つから、幼い頃から料理を学ばされたのにそんな一言を浴びせられれば怒るのも無理はない。そんなことから蓮は自身のご飯を食べる相手には身を清潔にしてもらうことを課していた。
「「はーい」」
一カ月共に過ごしてきて蓮の地雷を知り尽くした2人は彼のいうことに素直に従って風呂場に向かっていった。
「「「いただきます」」」
15分ほどたって風呂からあがってきたふたりと蓮は朝ごはんを食べ始めた。
「いやぁ〜、蓮がいてほんと助かるわ。雨守の女は料理がちょっとばかし苦手だからいっつも料理人を呼んでたんだけどお金がかさんじゃってね」
雫が味噌汁を飲みながらそんなことを言ってくる。
「ちょっとばかし?」
蓮は雨守家の2人が全く家事が出来ずその全てを蓮に押し付けられているため、雫の言葉に引っかかりを覚えたが雫と澪からの無言の圧力を感じて目を逸らした。
そうして全員が朝ごはんを食べ終わって暫くしてから雫が話しをはじめた。
「今日は午後からあなた達の主人になる人がくるから修行は午前だけね」
それだけを言って雫は稽古場へと移動していった。残された蓮と澪は顔を見合わせる。
「僕は初めて聞いたんだけど澪は?」
「わたしもよ。ていうかわたし達の主人って何?」
そうして2人は頭に疑問を浮かべながら稽古場に向かっていった。
2人が稽古場につくと雫はそのまま午前の修行を始めて2人が疑問を提示する暇すらなかった。
そうしてギリギリ午後になるかならないかの時間に修行は終わり蓮と澪は稽古場の床に転がっていた。
「さあさあ、あなた達寝転がってる時間はあまりないわよ。あと数十分後にはあなた達の主人が来るわよキビキビ動きなさい」
そう声をかけられても2人は全く動けなかった。澪は疲労で、蓮は体の痛みで動くことができない。
「あんなこと言われてるけど澪動ける?」
「無理に決まってるでしょ?!あと澪お姉さんね蓮。あなたこそお母様に殴られただけなんだし動けるでしょ?あなたの体の堅さはわたしが知ってるし」
「最近きみの打撃すら痛いって朝に言ったよね。雫さんの打撃は普通に激痛なんだよ。もう指一本動かせない」
「はあ軟弱な弟をもつと苦労するわね」
澪はそう言って体を無理やり起き上がらせて蓮をお姫様抱っこする。
「な!?おろして!」
「おろしても動けないんでしょ?ここは素直にお姉ちゃんに任せなさい」
そのまま澪は雨守家の玄関まで歩いて行く。当然雫に蓮のあられも無い姿が見られてしまう。
「あらあら。いつの間にそんなに仲良くなったのあなたたち。わたしだけ仲間はずれみたいで寂しいわ」
雫も蓮を抱え上げようとしてきて耐えられなくなった蓮は体を無理に動かしてなんとか自分1人の力で立った。
蓮がなんとか立てた時に一台のリムジンが雨守家の前に着いた。
そのリムジンを目にした瞬間から雫からは蓮に見せていた穏やかな表情はなくなり真面目な表情となっていた。
「この車から出てくるのがあなた達の主人よ」
雫の忠告とリムジンの扉が開くのはほぼ同時だった。
リムジンから出てきたのは2人だった。1人は筋骨隆々な男で年は雫よりも上であると感じ取れる。もう1人は蓮と澪と同年代であろう少女だった。
「雫!迎えご苦労!」
「お待ちしておりました源一郎様。その娘がわたしの子供達の主人となるかたですか?」
「ああ!お前にも初めての紹介となるな!こいつはわたしの末の娘天風 風花だ!」
天風 風花と紹介された少女は蓮の目から見ても異質だった。ここまで口角が何一つ変わってないことや人外じみた美貌もまるで"人形"のようだった。
「ほら、挨拶をしなさい風花!」
その言葉を聞いて初めて天風 風花は表情を変えて言葉を発する。
「初めまして雨守家のみなさま。私は天風 風花と言います。以後お見知り置きを」
まるでロボットのような棒読みであり笑顔だった。
"人形"それが天風 風花と初めて会った雨守家の全員が下した第一印象であった。
蓮の育ての母である魔女はドロテアです
あと数回は蓮と風花の過去編が続きます




