雨守 蓮①
2024年6月某日、関東にあるとある地方都市。その都市は500年前からある一族が統治している都市で、ある種の治外法権を日本から許されている。その都市の名前は天風市、そんな都市の市立高校に通う17歳の少年である雨守蓮は友人である尾張シュウと朝のホームルーム前の時間に他愛もない会話をしている。
「蓮、これ見た!『現代に甦った吸血鬼』だって!」
そういってシュウは今日の朝コンビニで買ってきていたであろう週刊誌のある記事を開いてこちらに見せてくる。
「見てねぇし、今どき吸血鬼なんてありえないだろ」
そんなふうに蓮はその話を切り上げようとするけれどもシュウはまだ話し続ける。
「いやいや、これは本物だって。見つかった死体は血がほとんど残ってなくてその首筋には噛み跡があったっらしいし」
「遺体の噛み跡とかその週刊誌はどうやってそんなことを知ったんだよ。どうせ、話題作りのためにでっち上げただけだろ。そんなことより、お前今日英語の小テストあること忘れてないよな」
今日は週に一度ある英語の小テストの日だ。2年生の英語の担当であるアレックス先生は「英語を話せて読めて損なことは絶対にない」と口癖の様にいっていて、小テストだろうが合格点を取らなければ放課後にみっちり補習をやらされる。
シュウの顔色がどんどん青くなっている。こいつ覚えてなかったなと蓮が呆れていると。
「ま、マジか…今日って小テストの日だったっけ、なんも勉強してないんだけど」
「そうか、じゃあ今日も補習頑張れよ。たしかおまえってこれで4連続補習だろ、いい加減アレックス先生に怒られるんじゃね」
そんなことを言うとシュウの顔はますます青くなり、今にも倒れそうだ。
「そんな冷たいことを言わずにさ、僕と一緒に補習受けようよ蓮」
「断る。今から勉強すればギリギリ赤点ぐらいにはなるだろう」
「それでも赤点なの!?ヤバいよお、アレックス先生に前の補習の時に次来たら夏休み返上で補習地獄って言われてるし」
「よくそんな状況で小テストの日を忘れられるよな」
シュウの危機管理の低さに呆れていると、右隣の席から声をかけられる。
「おはようございます。雨守さん、尾張さん」
「おはよう、天風さん!」
シュウはさっきまでこの世の終わりのような顔色だったのにいつのまにか顔色は戻っている。それどころかほんのり頬に赤みがさしているようだ。
蓮は声の主の方を見る。そこに居たのは、艶のある黒髪を腰の方まで伸ばしている美少女だった。彼女の名前は天風 風花この天風市を統治している一族の末娘である。
「おはよう、風花。今日は随分と遅かったな」
彼女はいつもクラスの誰よりも席についていたが、今日は違ったようだ。
「そうなんですの、今日は家の用事がありまして危うく遅刻するところでした」
そんな風に話をしていると先生が入ってきて朝のホームルームの時間になった。
英語の授業では案の定シュウが赤点を取り、アレックス先生に夏休みの補習地獄だけはやめてくれと泣きながら懇願していた。
そんなこんなで放課後になって帰宅部である蓮は自分が住んでいる家に帰ろうとすると
「少々お待ちになって雨守さん、屋上まで来てくれます?」
風花に声をかけられて蓮は今日は家に帰れなそうだなとため息をはく。
屋上に行くと風花の雰囲気が変わる。
「今日はこの町で暴れてる吸血鬼ぶっ殺しますから、蓮にも手伝ってもらいます」
案の定仕事の話だった蓮は了解の意を込めて頷く。
「まさか、週刊誌に被害者の遺体の写真が載るとはなぁ。検閲とかしてなかったのか?」
「テレビや新聞に載せないようにするので精一杯なの。いちいち落ち目の週刊誌の記事なんて見ていられません」
かなり腹が立っているのだろう言葉遣いが少々乱暴になっている。そんな風な風花を見るのは久しぶりで蓮は少し楽しげだ。
「いちいち俺に対して許可を取る必要はないんだぜ、俺は天風の本家からお前の護衛として雇われてるんだからな」
そう雨守家は先祖代々天風家に仕えてきた一族である。たとえ蓮が引き取られた養子であっても雨守家の責務は果たさなければならない。
「そうはいってもあなたとは幼馴染なんだから、行動の全部を全部縛りたくはありません。ですが今回はあなたの力を存分に奮ってもらいます」
「仰せのままに」
そう執事の様に言うと風花は嫌そうな顔をする。
「ずっと言っているけれど、2人しか居ない時にそういう態度はやめなさい。悲しくなるわ」
「わかったよ風花。それで、今日は吸血鬼が現れるまだ夜まで待つのか?」
吸血鬼は基本夜にしか行動出来ないので、こんな夕方に街中を調べてもあまり意味はないだろう。そんなふうに考えていると風花は蓮が予想していなかったことを口にする。
「いいえ、これ以上私が管理している都市で好きにさせるわけにはいきません。だから、彼岸に行ってさっさと滅ぼします」
彼岸とはこの世界の裏側にあるもう一つの世界。そこは常夜の世界で吸血鬼たちが支配している世界。そこに行くというのはつまり敵にとって戦いやすい場に行くということだ。
流石にそこまでするのはどうかと思い説得する。
「彼岸に行くのは気が早いんじゃないか?吸血鬼はそうやって彼岸に来るやつを待っているかもしれないだろ」
「待っていてくれてるのならむしろ好都合でしょう?500年以上続く魔法使い一族である天風の最高傑作と言われている私がたかが吸血鬼に遅れをとると思っているの、蓮?」
それを言われたらもう説得することはできない。蓮はおとなしく風花の言う通りにしようと気を引き締める。
天風家は500年以上続く名家であるが、ふつう天皇家でもない家がそこまで長続きすることはほとんど無いだろう。その秘密こそが彼ら天風家が優秀な魔法使いの家系であることだ。
"魔法"というのは自らの想像を現実世界に再現する力である。魔法を使う為には魔力というものが必要だがそれはどんな人間でも持っているものだ。魔力は人間なら誰でも持っている魂から溢れる力である。それなのに魔法使いとそれ以外の人間がいる理由は魂の質が関係している。魂の質が悪いと溢れ出す魔力の量も少なく、尚且つ魔法が発現しづらくなる。
魔法使いたちは質の高い魂を持った人間と子を成して、自らの一族の魂を高め続けていた。そうしているうちに質の高い魂を持った人間は魔法以外にも多様な才能を持つことに気づいて社会における地位も確立していくようになる。
そんな魔法使いたちの筆頭こそが天風家であり、その一族の最高傑作こそが天風風花なのである。
「わかったよ、風花。ただし俺の周りから離れないことは約束してくれ」
「ありがとう蓮、じゃあ早速私たちを舐め腐っている吸血鬼を滅ぼしにいきましょうか」
そういって風花は彼岸に行く為の扉を屋上に作り出してその中に入っていく。扉が消える前に蓮もその中に入る。
拙い文章ですが読んでもらえれば嬉しい限りです。




