帝国ギルド
翌日。
ヒロは帝国のギルドを訪れていた。
重厚な扉を押し開ける。
中へ入った瞬間、王都のギルドとの違いを肌で感じた。
静かだった。
王都のような笑い声も。
冒険者同士の言い争いも。
酒場のような賑やかさもない。
依頼を受ける者。
報告を済ませる者。
誰もが無駄口を叩かず、整然と動いている。
「……。」
ヒロは少しだけ居心地の悪さを覚えた。
王都の喧騒に慣れ過ぎてしまったのだろう。
苦笑しながら受付へ向かう。
「すみません。」
受付嬢は顔を上げる。
「ようこそ帝国冒険者ギルドへ。」
ヒロは認識プレートを取り出し、カウンターへ置いた。
「王国の冒険者です。」
「街道工事へ職人として参加しています。」
「街道は完成したんですが……。」
少し困ったように笑う。
「式典が終わるまでは王都へ帰れなくて。」
「その間だけ、何か仕事ができればと思って来ました。」
受付嬢は認識プレートを手に取り、静かに確認を始めた。
受付嬢は認識プレートを受け取り、慣れた手つきで確認を始めた。
その直後だった。
「……え?」
思わず目を丸くする。
もう一度見直す。
見間違いではない。
ランクはF。
だが――。
依頼達成数が異常だった。
受付嬢は無言のまま記録を追っていく。
一件。
また一件。
さらに一件。
どこまで見ても、同じ依頼ばかりだった。
インフラ整備。
上下水道補修。
魔力導管整備。
橋梁点検。
道路舗装。
街灯保守。
水路改修。
建物補修。
その数は、帝国の受付嬢ですら見たことがないほど膨大だった。
「……。」
しばらく言葉を失っていた受付嬢だったが、すぐに表情を整える。
「失礼いたしました。」
「大変興味深い経歴でしたので、つい見入ってしまいました。」
ヒロは少し照れくさそうに笑う。
「いえ。」
受付嬢は認識プレートを返しながら説明を始めた。
「ですが、申し訳ございません。」
「帝国ギルドでは、インフラ整備の依頼は取り扱っておりません。」
ヒロは首を傾げる。
「そうなんですか。」
「はい。」
受付嬢は静かに頷いた。
「帝国では、インフラ整備はすべて国が管理しております。」
「道路。」
「橋。」
「上下水道。」
「魔力導管。」
「そうした公共事業は、国直属の職人たちが担当しております。」
「今回の街道工事は、王国と帝国による共同事業でしたので、王国側の職人として参加されたのでしょう。」
「ですが帝国内では、冒険者がインフラ整備を行うことはありません。」
受付嬢は申し訳なさそうに微笑む。
「ですので、ご希望に添える依頼は……現在、ギルドにはございません。」
受付嬢は少し考え込む。
やがて、一枚の依頼書を取り出した。
「代わりと言っては何ですが……。」
「こちらはいかがでしょう?」
ヒロは依頼書を受け取り、目を通す。
そこに書かれていたのは――。
ドラゴン討伐遠征隊参加
ランク不問
ヒロは小さく首を傾げる。
「ランク不問……ですか?」
「はい。」
受付嬢は穏やかに頷いた。
「ドラゴン討伐は、一人や一つのパーティーで行うものではありません。」
「大規模な遠征となります。」
「そのため、ランクに関係なく募集しております。」
「戦闘だけではなく、物資運搬、野営、警戒、応急処置など、それぞれの技能に応じて役割が割り当てられます。」
依頼書を指し示しながら微笑む。
「冒険者らしい、とても良い依頼ですよ。」
ヒロは依頼書をもう一度眺める。
数秒の沈黙。
そして、受付嬢へ返した。
「やめときます。」
あまりにも迷いのない即答だった。
受付嬢は思わず固まる。
「……理由をお伺いしても?」
「ドラゴンを倒しても。」
ヒロは真顔で答えた。
「インフラは整いませんから。」
受付嬢は、何も言えなかった。




