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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
成人期:二十歳

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乱戦

ヒロは南門の城壁の上に立っていた。


静かに。


戦場全体を見渡す。


まず目に入ったのは西門。


アルヴィンが両手を掲げる。


極大魔法。


天を覆うほどの巨大な魔法陣が展開される。


放たれた瞬間。


「うおおおおおお!!」


ガレスが大剣を担ぎ、その爆発へ飛び込むように突撃した。


ヒロは思わず笑う。


「相変わらず、無茶苦茶だね。」


視線を北門へ移す。


そこでは激しい白兵戦が繰り広げられていた。


ギルドマスターの大斧が大地を砕き。


女将マーサの大剣が敵陣を薙ぎ払う。


圧倒的な火力。


戦況は王国軍が押していた。


そして。


正門。


剣聖セバス。


たった一人。


レイピア一本で敵前線を切り裂き。


そこだけぽっかりと空白が生まれていた。


前線は、すでに壊滅している。


ヒロは小さく笑う。


「……ははっ。」


「本当に。」


「みんな強いね。」


しばらく戦場を眺める。


やがて。


静かに工具箱を閉じた。


「さて。」


「こっちも準備しないとね。」


振り返る。


親方をはじめ、職人たちが南門の補強を続けていた。


「親方!大丈夫ですか?」


親方は金槌を振るったまま笑う。


「こっちは大丈夫だ!」


「気にせず戦え!」


「南門は。」


「俺たちが、しっかり守ってやる!」


職人たちも一斉に顔を上げる。


誰もが笑いながら親指を立てた。


ヒロも笑い返す。


「頼もしいね。」


「まったく。」


もう一度、戦場を見る。


南門。


帝国軍の後方。


整然と並ぶ魔術師団。


「あそこか。」


ヒロは静かに息を吸う。


「……恨みはないよ。」


「だけど。」


「真っ先に。」


「君たちを倒さないとね。」


ゆっくりと目を閉じる。


完全詠唱。


長い詠唱が戦場へ響き始める。


ヒロの頭上へ。


幾重もの魔法陣が重なっていく。


同時に。


はるか遠く。


帝国軍魔術師団の真上へ。


巨大な魔法陣が静かに展開された。


西門。


アルヴィンはその魔力を感じ、思わず空を見上げる。


そして苦笑した。


「ああ……。」


「君は。」


「王宮魔術師団へ勧誘する必要なんて、なかったね。」


「最初から。」


「王国最高の魔法使いだった。」


次の瞬間。


雷鳴が轟いた。


天が裂ける。


無数の雷が、巨大な魔法陣から一斉に降り注ぐ。


狙われたのは。


南門攻略のため集結していた帝国魔術師団。


一瞬だった。


轟音と閃光が消えた時。


そこに立っている者は、誰一人としていなかった。


帝国軍本陣。


「ご報告!」


伝令が軍幕へ駆け込んでくる。


「南門攻略のため集結していた魔術師団!」


「壊滅しました!」


「何!?」


軍幕が騒然となる。


将軍たちが一斉に立ち上がる。


「誰の魔法だ!」


「王宮魔術師団団長アルヴィンは西門のはずだ!」


「西門からの長距離魔法か!?」


伝令は首を横に振る。


「違います!」


「発生源を確認しました!」


「南門です!」


「何?」


「南門城壁上!」


「黒髪の男!」


「工具箱を携えた職人です!」


一瞬。


軍幕から音が消えた。


「……職人だと?」


誰も、その報告を理解できなかった。


伝令は震えながら続ける。


「間違いありません!」


「剣も持たず!」


「鎧も着けず!」


「職人が完全詠唱を行い!」


「魔術師団を一撃で壊滅させました!」


将軍が机を叩く。


「馬鹿な!」


「そんな職人がいてたまるか!」


皇帝は静かに地図を見つめていた。


だが。


前線の将軍にそんな余裕はなかった。


「ええい!」


「突撃せよ!」


「魔術師は近距離戦に弱い!」


「城壁へ取り付き!」


「奴を真っ先に討ち取れ!」


号令が響く。


帝国軍は一斉に南門へ向けて駆け出した。


彼らはまだ知らない。


その「職人」のすぐ後ろに。


血の気の多い魔族たちが待ち構えていることを。





南門。


魔族たちは、肩を回しながら武器を構えていた。


「くくっ。」


「千年ぶりか。」


「血が湧くな。」


「腕が鳴る。」


誰も怯えていない。


むしろ。


どこか嬉しそうだった。


その時。


城壁の上から、一人の影が飛び降りる。


ふわりと着地したのは、ヒロだった。


魔族たちは一斉に振り返る。


ヒロは帝国軍を見つめたまま、静かに口を開く。


「できれば。」


「血は、あまり流したくない。」


「味方も。」


「敵も。」


短い言葉だった。


しかし。


魔族たちはすぐに頷く。


「はっ!」


「心得た!」


誰一人として異論を唱えない。


それが主の望みなら。


その通りに戦うだけ。


ヒロは小さく頷いた。


そして。


右手を軽く前へかざす。


空間が静かに歪む。


その中から、一振りの剣を取り出す。


ゆっくりと腰へ差した。


柄へ手を添える。


ヒロは前を向いたまま、小さく笑う。


「……行くよ。」


その一言を合図に。


魔族たちは一斉に駆け出した。





その日の夜。


王都の広場は、再び大勢の人で埋め尽くされていた。


大鍋からは湯気が立ち上り。


焼きたての肉の香りが漂う。


酒樽が並び。


笑い声が響く。


昼間まで戦場だったとは思えないほどの賑わいだった。


この日。


帝国軍は壊滅的な被害を受け、いったん退却していた。


王都は守り切った。


だからこそ。


誰かが言った。


「生きて帰ってきたんだ。」


「今日は飲もう。」


その一言で宴が始まった。


職人たちは互いの肩を叩き合う。


「親方!」


「城壁、持ちこたえました!」


「当たり前だ!」


「俺たちが作ったんだぞ!」


西門では。


ガレスが大ジョッキを掲げて大笑いしている。


「見たか!」


「俺の大剣!」


「あの魔法との連携、最高だったろ!」


アルヴィンは苦笑しながら酒を口へ運ぶ。


「君は、本当に前しか見てないね。」


北門では。


ギルドマスターとマーサが、昔話で盛り上がっていた。


「あの頃は無茶ばかりだったねぇ。」


「今も変わらん。」


広場中で。


人も。


魔族も。


互いの働きを称え合っていた。


「助かった。」


「ありがとう。」


そんな言葉が、あちこちで交わされる。


少し離れた席では。


リリアが静かにヒロの肩へ寄りかかっていた。


昼間とは違う。


何も言わない。


ただ。


こうして隣にいられることが嬉しかった。


ヒロも何も言わない。


そのまま肩を貸しながら、穏やかに笑っていた。


少し離れた場所では。


アンネローゼと魔王が、その二人を静かに見守っている。


アンネローゼが小さく笑う。


「幸せそうね。」


魔王も目を細める。


「ああ。」


「それで良い。」


二人は、それ以上何も言わなかった。


その姿を見ているだけで十分だった。


その夜。


広場に。


国王アルバスとセバスの姿はなかった。

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