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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
成人期:二十歳

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変わらぬ日常

数日後。


魔王襲来の騒ぎなど、どこ吹く風。


王都には、少しずついつもの日常が戻っていた。


人々は仕事へ向かい。


商人たちは店を開き。


冒険者たちはギルドで依頼を受ける。


何もなかったわけではない。


むしろ、あの日を境に、この国は大きく変わり始めていた。


魔王城から戻ったヒロは。


二千年前から続く戦争の真実を、すべて国王へ伝えた。


魔族が侵略を目的として戦っていたわけではないこと。


迫害され。


攫われ。


追い詰められた末に、同胞を守るため国を築いたこと。


魔王が守るために剣を振るってきたこと。


そして。


アンネローゼもまた、人々を守るため戦い続けていたこと。


国王は最後まで口を挟まなかった。


ただ静かに話を聞き。


すべてを聞き終えると、小さく頷いた。


その後、王家は建国の歴史を公表した。


初代国王。


アンネローゼ。


魔力炉の真実。


そして、魔族との戦争。


これまで王家だけが抱えてきた歴史を、民へ伝えることを決めた。


もちろん。


それだけで二千年のわだかまりが消えるわけではない。


それでも。


国は、確かに前へ進み始めていた。


一方。


ギルドの医務室では。


ガレスがようやく目を覚ましていた。


ベッドの横には、セレナが座っている。


何日も握り続けたガレスの手を、今日も優しく包み込んでいた。


ガレスはゆっくりと目を開ける。


セレナは何も言わない。


ただ、握っていた手に少しだけ力が入る。


「……おう。」


「腹減った。」


「……もう。」


セレナは安心したように笑う。


「心配したんだから。」


その声を聞きつけ、ヒロが医務室へ入ってくる。


「目が覚めたんだ。」


「よかった。」


ガレスは身体を起こすと、すぐに口を開いた。


「ヒロ!」


「聞いてくれ!」


「魔王だ!」


ヒロは椅子へ腰掛ける。


「それで。」


「何があったの?」


ガレスは真剣な表情になる。


「あいつ。」


「最初から戦う気はなかった。」


ヒロは黙って続きを促す。


「俺が斬りかかった。」


「そしたら。」


ガレスは片手を軽く振ってみせる。


「向こうも、こんな感じで手を振った。」


「それだけで。」


「全身、傷だらけになった。」


ヒロの眉がわずかに動く。


「それで?」


「もう一回斬りかかった。」


「また吹っ飛ばされた。」


「それで?」


「また斬りかかった。」


「……。」


「また吹っ飛ばされた。」


「それで?」


「何回やっても立ち上がった!」


ガレスは誇らしげに胸を張る。


「最後は。」


「首を掴まれて。」


「気絶した!」


医務室が静まり返る。


ヒロは深いため息をついた。


「……呆れた。」


ガレスは首を傾げる。


「なんでだ?」


「魔王は戦う気がなかったんでしょ?」


「おう!」


「それなのに何度も斬りかかったの?」


「おう!」


「それで気絶させられたの?」


「おう!」


ヒロは額へ手を当てた。


「ガレス。」


「君は本当に。」


「獣みたいだね。」


ガレスは嬉しそうに笑う。


「魔王にも言われたぞ!」


「褒められた!」


「褒めてないよ。」


セレナは二人を見ながら、小さく笑う。


「でも。」


「ガレスらしいね。」


そう言って、もう一度ガレスの手をそっと握った。


その温もりに気付いたガレスは、少しだけ照れくさそうに頭を掻く。


医務室にも。


いつもの三人の空気が戻っていた。


王都の大通り。


ヒロとアンネローゼは並んで歩いていた。


風が吹く。


腰まで伸びた黒髪が、ふわりと揺れる。


アンネローゼはその髪を見るなり、露骨に嫌そうな顔をした。


「ヒロ。」


「髪、切りなさいよ。」


ヒロは首を傾げる。


「どうしてですか?」


アンネローゼは眉をひそめる。


「あいつにそっくりなの。」


「見てると腹が立つ。」


ヒロは笑う。


「嫌です。」


即答だった。


アンネローゼは思わず足を止める。


「えぇ!?」


「何でよ!」


ヒロは伸びた髪を摘まみながら、楽しそうに笑う。


「せっかく伸びたので。」


「もう少し、このままにしておきます。」


アンネローゼは頬を膨らませた。


「もう。」


「ほんと似てる。」


しばらく歩いたあと。


ヒロはふと思ったことを口にする。


「でも。」


「なんだかんだ言って。」


「二人って仲良いですよね。」


アンネローゼはぴたりと足を止める。


「仲良くない!」


即答だった。


「一回も勝てなかった!」


「本当に!」


「むかつく!」


腕をぶんぶん振り回しながら文句を言う。


しかし次の瞬間。


胸を張って、得意げに笑った。


「でも。」


「一回も負けなかったけどね!」


「ふふん。」


どこか誇らしげだった。


ヒロは少しだけ目を丸くする。


そして、苦笑する。


「……。」


「やっぱり。」


「仲良いじゃないですか。」


アンネローゼは顔を真っ赤にした。


「違う!」


「宿敵!」


「それ以上でも、それ以下でもない!」


その必死な否定に。


ヒロは思わず吹き出した。


「ふふっ。」


王都の大通りには、二人の笑い声が静かに響いていた。

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