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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
青年期:十四〜二十歳

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いや、冒険者だろ!

執務室を出た瞬間、ヒロは駆け出していた。


その背中を、ガレスが慌てて追い掛ける。


「おい!」


「どこ行くんだ!」


ヒロは振り返らない。


ただ真っ直ぐ工房への道を走る。


「工房だよ。」


短く答える。


「ギルドマスターが貼っていたのは、地下魔力導管整備のクエスト。」


「あれは地下だ。」


「地下の精密な地図が必要になる。」


「それと、人手も。」


ガレスは眉をひそめた。


「職人さんたちを危ねぇ目に遭わせる気か!」


ヒロは首を横へ振る。


「違う。」


「戦ってもらうわけじゃない。」


「今まで通り、普通に仕事をしてもらうだけ。」


「でも、その仕事が必要なんだ。」


ガレスは黙って続きを待つ。


ヒロは息を整えながら続けた。


「僕の魔力探知でも追い切れなかった。」


「あんな相手を、一人で探すのは無理だ。」


「だから。」


「地下を知り尽くしている職人さんたちの力を借りる。」


「耳。」


「目。」


「経験。」


「勘。」


「毎日地下へ潜ってるあの人たちだからこそ気付ける違和感がある。」


ヒロは前を向いたまま、小さく拳を握る。


「僕は、あの人たちを信じる。」


「だから。」


「力を貸してもらう。」


ガレスはしばらく黙って走っていた。


やがて、不敵に笑う。


「やっぱ、お前らしいな。」


「戦う前に、まず職人を頼るんだからよ。」


ヒロも少しだけ笑った。


「職人だからね。」


二人は速度を落とすことなく、夕暮れの王都を工房へ向かって駆け抜けていった。



工房へ飛び込んだ瞬間、槌の音が止まった。


親方も職人たちも、一斉にヒロとガレスを見る。


いつもとは違う。


その表情だけで、ただ事ではないと分かった。


「親方。」


ヒロは息を整える間もなく口を開いた。


「地下の精密な地図を貸してください。」


「あと。」


「仕事の依頼をしに来ました。」


親方は腕を組んだまま短く答える。


「……話せ。」


ヒロは工房の机へ王都の地下地図を広げた。


王城。


その周辺を指でなぞる。


「王城地下周辺です。」


「潜伏しやすい場所。」


「人が身を隠せそうな空洞。」


「使われていない旧通路。」


「その周辺で、いつも通り仕事をしてください。」


職人たちは黙って地図を覗き込む。


ヒロは続ける。


「調査と言っても、特別なことは何もしなくて大丈夫です。」


「いつも通り仕事をしてください。」


「その中で。」


「少しでも違和感を感じたら教えてほしい。」


「それだけです。」


工房は静まり返っていた。


親方は地図から目を離すと、職人たちを見渡す。


「行きたくねぇ奴は残っていい。」


その一言だけだった。


誰も返事をしない。


しかし次の瞬間。


椅子を引く音が重なった。


一人。


また一人。


全員が黙って立ち上がる。


沈黙を破ったのは、一人の若い職人だった。


「親方、方向音痴だからな。」


「王城の地下なんか一人で行かせたら迷うぞ。」


別の職人が吹き出す。


「それ以前に、あの強面で王城の地下うろついてたら真っ先に捕まる。」


「職務質問どころじゃ済まねぇ。」


工房に笑いが広がる。


親方は顔をしかめた。


「誰が方向音痴だ。」


すると奥からまた一人。


「そういや俺、王城の地下に忘れ物してた気がする。」


「奇遇だな。」


「俺もだ。」


「俺なんか十年前から忘れてた。」


笑い声が工房へ響く。


ヒロはその光景を見つめ、小さく笑った。


そして深く頭を下げる。


「……ありがとうございます。」


工具箱から小さな魔道具を取り出し、一人ひとりへ手渡していく。


「異変があったら、これを鳴らしてください。」


「危険だと思ったら近付かないでください。」


「連絡だけで十分です。」


職人たちは真剣な表情で魔道具を受け取る。


親方は最後の一つを受け取り、懐へしまい込んだ。


「任せとけ。」


その一言だけで十分だった。

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