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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
青年期:十四〜二十歳

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見つけられない敵

広場を後にした二人は、夕暮れの王都を並んで歩いていた。


模擬戦は結局、一太刀も交わることなく終わった。


理由の分からない観衆だけが首を傾げながら帰っていく。


そんな騒ぎも、二人にはもう興味がなかった。


ガレスは途中の屋台で焼き串を二本買うと、そのうち一本をヒロへ放る。


「ほら。」


ヒロは片手で受け取り、小さく礼を言う。


しばらく二人とも黙ったまま歩き続けた。


ガレスが串をかじりながら口を開く。


「……どうだった。」


ヒロは前を向いたまま答える。


「見失った。」


短い一言だった。


ガレスは肉を噛みながら小さく頷く。


「俺も。」


「途中まで臭ぇと思って追ってたんだけどな。」


「急に消えた。」


ヒロは串を見つめたまま苦笑する。


「魔力探知から完全に消えた。」


「初めてだよ。」


その言葉には珍しく悔しさが滲んでいた。


ガレスは残った串を一口で平らげると、不敵に笑う。


「相手にとって不足なしだな。」


ヒロは思わず吹き出す。


「君は本当に前向きだね。」


「当たり前だ。」


「逃げるってことは、それだけ強ぇってことだ。」


「次は逃がさねぇ。」


ヒロは小さく息を吐き、焼き串を一口かじる。


「……そうだね。」


二人はそれ以上、その話をしなかった。


夕暮れの王都には、屋台の呼び込みと人々の笑い声が響いている。


そんな穏やかな景色の中で、二人だけが同じ相手を思い浮かべながら、静かに帰路を歩いていた。



その少し前、王女とセバスは空き地で話していた。


アンは歩きながら不思議そうに首を傾げた。


「ガレスさん、急に怖くなっちゃったのかな?」


セバスは小さく微笑む。


「そうかもしれませんね。」


アンは納得したように頷く。


「でも、ガレスさんらしいかも。」


「勢いで『やる!』って言って、後から怖くなるなんて。」


一人でくすくすと笑っている。


セバスは何も言わなかった。


王城へ戻る馬車の準備が進む中、近衛兵の隊長を静かに呼び寄せる。


「本日より警備体制を変更します。」


「王女殿下の外出時は、屋根上の監視を倍に。」


「巡回経路を変更。」


「交代間隔も短縮してください。」


隊長は一瞬だけ表情を引き締めた。


「何かございましたか。」


「いいえ。」


セバスは穏やかに首を横へ振る。


「何も起きておりません。」


「だからこそ、今のうちです。」


隊長はそれ以上何も聞かなかった。


一礼すると、すぐに近衛兵たちへ指示を伝え始める。


その様子を見ていたアンは、不思議そうにセバスを見上げた。


「そんなに警備を増やす必要あるの?」


「今日は何もなかったよ?」


セバスは優しく微笑む。


「ええ。」


「本日は何事もなく終わりました。」


「それが何よりでございます。」


アンは「そっか」と笑う。


「じゃあ、次も街へ行こうね!」


その笑顔を見て、セバスも静かに笑みを返した。


「もちろんでございます。」


その返事とは裏腹に、セバスの視線は王都の街並みへ向けられていた。


(見つけられませんでしたか。)


ヒロ。


ガレス。


そして自分。


三人がそれぞれ違う方法で追った。


それでも、誰一人として捕まえられなかった。


(敵もまた、一流。)


その事実だけが、静かに胸へ残っていた。

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