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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
幼少期:〜十歳

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3/122

受け継がれしもの

鬱蒼とした森の奥。


木こりの爺さんの仕事場には、今日も規則正しい斧の音が響いていた。


――ガン。


――ガン。


木の香りと土の匂いが混じる中、ヒロとガレスは何も言わず斧を振るう。


ここでの仕事は薪作り。


そして、二人にとっては剣の鍛錬でもあった。


爺さんは黙ってガレスの隣へ立つ。


ガレスが斧を振りかぶると、腰を軽く押し、肩の角度をほんの少しだけ直した。


言葉はない。


教えるのは体だ。


重心。


踏み込み。


力の流れ。


ガレスは何も聞かず、その感覚だけを自分のものにしていく。


斧が振り下ろされる。


ズドンッ!


丸太は真っ二つに割れた。


爺さんは何も言わない。


ただ、次の一本を置くだけだった。


一方、ヒロには違う。


「支点を後ろに。」


短く言う。


「腕で振るな。背中を使え。」


ヒロは頷き、すぐに動きを修正する。


「そうだ。斧は振るんじゃねぇ。」


「落とせ。」


言われた通りに体を動かす。


力を抜く。


重力へ預ける。


次の一撃は、さっきよりも深く木へ食い込んだ。


「……よし。」


爺さんは小さく頷く。


二人への教え方は正反対だった。


ガレスには体で。


ヒロには言葉で。


だが目指している場所は同じ。


全身を使った、一撃だった。


しばらく斧の音だけが森へ響く。


爺さんは、ふとガレスの背中を見つめた。


腰は落ちている。


足はぶれない。


全身が一本のしなやかな弓のように連動していた。


(……ここまで育ったか。)


数え切れないほどの若者を見てきた。


だが、この才能だけは別格だった。


力だけではない。


勘。


体の使い方。


戦うための本能。


「天才」という言葉が、これほど似合う子どもを爺さんは知らない。


ぽつりと呟く。


「仕上がったな。」


その一言で作業は終わった。


爺さんは手を拭き、小屋の奥へ姿を消す。


やがて、大きな布包みを抱えて戻ってきた。


「ガレス。」


呼ばれたガレスが近寄る。


布が静かにほどかれる。


姿を現したのは、一振りの大剣だった。


華美な装飾はない。


刀身には幾筋もの傷。


柄も擦り切れている。


長い年月を戦い抜いてきた証だった。


「昔、わしが使ってた剣だ。」


それだけ言って、爺さんは大剣を差し出す。


ガレスは恐る恐る両手で受け取った。


ずしり、と重い。


今の体には大きすぎるはずだった。


それでも。


不思議と、その重さは手に馴染んだ。


ガレスは剣を見つめる。


傷だらけの刀身を、そっと撫でた。


いつものように喜び叫ぶことはなかった。


ただ静かに。


大切なものを抱きしめるように胸へ引き寄せる。


「……一生、使う。」


幼い声だった。


それでも、その言葉だけは誰よりも重かった。


爺さんは目を細める。


かつて共に旅をした相棒。


何度も命を救ってくれた剣。


その命が、今、新しい持ち主へ受け継がれた。


「頼んだぞ。」


その一言だけだった。


ヒロは少し離れた場所から、その光景を見つめていた。


ガレスと大剣。


それはまるで、最初からそうあるべきだったかのように、不思議なくらいよく似合っていた。

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