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主人公はいつになっても冒険者ランクを上げない  作者: Patriot
邪神

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奇跡

会議が終わるまで暇だな。


そう思いながら、ヒロは一人で街を歩く。


最初に足を止めたのは花屋だった。


店先には、王都では見かけない花が色鮮やかに並んでいる。


「……珍しい。」


王都周辺には自生していない種類ばかり。


この土地の植生なのか。


それとも交易都市だから各国から集まるのか。


ヒロは一輪一輪、興味深そうに眺めていく。


しばらく歩くと、今度は装身具店が目に入った。


「リリアさんに似合いそうだな。」


店内を一周する。


髪飾り。


耳飾り。


首飾り。


指輪。


どれを手に取っても、自然とリリアの姿が思い浮かぶ。


「……だめだ。」


「全部似合いそう。」


苦笑しながら店を後にする。


そして。


通りの奥に見慣れた看板が見えた。


鍛冶屋。


ヒロの表情が少しだけ変わる。


自然と足が店の中へ向かっていた


鍛冶屋の扉を開ける。


カラン、と鈴が鳴る。


店内には店主以外、誰もいなかった。


店主は一度だけ顔を上げる。


ヒロの姿を確認すると、興味なさそうに再び手元へ視線を落とした。


ヒロは何も気にせず、店内をゆっくり見て回る。


一本一本、棚に並ぶ武器を眺める。


そして、ある一振りの斧の前で足を止めた。


「……へぇ。」


目を細める。


「ドワーフの作品も置いてあるんだ。」


店主の手が止まる。


ゆっくりと顔を上げた。


「……見ただけで分かるのか?」


ヒロは斧を手に取ることもなく頷く。


「まあね。」


「短い間だけど、修行してたことがあるんだ。」


店主はしばらくヒロを見つめていた。


やがて、小さく鼻を鳴らす。


「……交易都市だからな。」


「いろんなもんが入ってくる。」


さっきまでとは違う。


職人同士として話しかける声になっていた。


ヒロは店内をもう一度見渡した。


「ちなみに。」


「邪神教が作った武器なんて、ないよね?」


店主の表情が露骨に曇る。


しっしっと追い払うように手をひらひら振った。


「……ちったぁ話の分かる職人が来たと思ったが。」


「帰りな。」


ヒロは苦笑する。


「やっぱり、あるんだね。」


店主の眉がぴくりと動く。


「当てずっぽうで言っただけなんだけど。」


店主はゆっくりと目を見開いた。


「……。」


「噂を聞きつけて買いに来たアホかと思ったが。」


「どうやら違うみてぇだな。」


しばらくヒロを見つめる。


やがて店の入口へ目をやり、人がいないことを確認すると、小さく顎をしゃくった。


「……話せ。」


ヒロは静かに頷き、店主の前へ歩み寄った。


ヒロは静かに口を開いた。


「邪神教徒掃討のために、各国から高ランク冒険者が集められてる。」


「勇者一行とも合流した。」


店主は黙って聞いている。


「そこで、勇者の聖剣を見せてもらったんだ。」


「刀身じゃない。」


「込められていた魔力が濁ってた。」


店主の表情が少しだけ変わる。


ヒロは続けた。


「レイナさんに聞いたら。」


「邪神教徒の奇跡を斬ったって。」


「それで一つ、仮説を立てた。」


店主は腕を組む。


「……聞こう。」


ヒロは店主の目を見る。


「邪神教徒は、武器に奇跡を付与できるんじゃないかな。」


「そう考えれば、聖剣に残った邪な神聖力も説明がつく。」


店内が静まり返る。


店主はしばらくヒロを見つめていた。


やがて、ゆっくりと口を開く。


店主は腕を組んだまま、小さく鼻を鳴らした。


「……なるほどな。」


「高ランクの冒険者ってのは、みんなお抱えの鍛冶師に特注で武器を打たせる。」


「だから既製品の情報なんざ、耳に入らねぇ。」


ヒロは黙って頷く。


店主は続ける。


「市場に流れる武器なんて、見向きもしねぇからな。」


「知らなくても無理はねぇ。」


一拍置く。


「……ちょっと待ってな。」


店主は立ち上がる。


「本当なら、見つけ次第ぶっ壊してる代物なんだが……。」


そう言い残し、店の奥へ姿を消した。


ヒロは静かに店内を見渡しながら待つ。


やがて、奥から重い木箱を抱えた店主が戻ってきた。


店主は木箱をゆっくりと開けた。


中には一本の剣が収められていた。


見た目は、ごく普通の片手剣。


特別な装飾もない。


どこにでもありそうな既製品だった。


ヒロはそっと刀身へ目を向ける。


次の瞬間。


その表情が歪んだ。


「……。」


店主は黙って見守る。


ヒロは剣から目を離さない。


「見た目は普通。」


「でも、付与されてるものが禍々しすぎる。」


ゆっくりと息を吐く。


「これで斬られたら……傷は塞がらないね。」


店主は目を見開いた。


「……分かるのか?」


ヒロは静かに頷く。


「うん。」


「それだけじゃない。」


「この武器。」


「使用者の命も削ってる。」


店主の顔色が変わる。


「……そこまで見抜くとはな。」


店主は剣を木箱へ戻し、静かに蓋を閉めた。


「数か月前からだ。」


「市場にぽつぽつ出回り始めた。」


「最初は珍しい武器だってんで、物好きが買っていった。」


「だが、その異様な強さが噂になってな。」


「飛ぶように売れ始めた。」


店主の表情が険しくなる。


「……しかし。」


「使った連中は、みんな倒れていった。」


ヒロは黙って聞いている。


「原因が武器だと分かってからは、俺たちみてぇな正規の鍛冶屋は見つけ次第、全部破棄するようになった。」


店主は木箱を軽く叩く。


「そうして回収を続けてるうちに、あることが見えてきた。」


ヒロは静かに尋ねる。


「出所?」


店主は頷く。


「ああ。」


「全部、同じルートを通って流れてきてやがる。」








店主から一枚の地図を受け取る。


手書きで印が付けられている。


ヒロは丁寧に畳み、胸ポケットへしまった。


「助かる。」


店主は腕を組んだまま鼻を鳴らす。


「……無茶すんなよ、兄ちゃん。」


ヒロは振り返らない。


片手をひらりと上げるだけだった。


「善処するよ。」


カラン――。


扉の鈴が鳴る。





街の一角。


二人は近くの酒場へ入った。


王都とも、帝国とも違う。


壁のほとんどない開放的な造り。


心地よい風が店内を吹き抜ける。


遠くでは市場の賑わいが聞こえ、人々の笑い声が絶えない。


ヒロは辺りを見回し、ふっと笑った。


「……いいね。」


「こういうのも。」


ガレスは席を立ち、カウンターへ向かう。


しばらくして、瓶を二本抱えて戻ってきた。


「ほい!」


一本をヒロへ放る。


ヒロは片手で受け取り、笑顔を見せた。


「ありがと。」


二人は瓶を軽く合わせる。


「乾杯。」


旅の疲れを流すように、一口飲み干した。


ヒロは瓶を机へ置いた。


「そうだ。」


「資料を見せてよ。」


ガレスは「あっ」と声を上げる。


「そうだった。」


懐へ手を突っ込み、くしゃくしゃになった紙束を取り出した。


「ほら。」


ヒロは受け取るなり顔をしかめる。


「……おい。」


「読めるんだろうな。」


ガレスは胸を張る。


「ちゃんと持って帰ってきただろ!」


ヒロは呆れながら一枚ずつ丁寧に広げ、シワを伸ばえていく。


「そこを褒めてるんじゃないんだよ……。」


ようやく紙が平らになると、静かに読み始めた。


ヒロは最後の一枚へ目を通し、小さく息を吐いた。


「……やっぱり。」


「武器の報告はないね。」


ガレスは首をかしげる。


「武器ぃ?」


「ああ。」


ヒロは資料を畳み、机へ置いた。


「さっき鍛冶屋へ寄ったんだ。」


「邪神教徒が作った武器らしきものが、数か月前から市場に出回ってる。」


ガレスの表情が真剣になる。


ヒロは簡潔に続けた。


「見た目は普通の剣。」


「でも、邪神の奇跡が付与されてた。」


「斬られた傷は塞がらない。」


「しかも、使うたびに持ち主の命を削る。」


「最初は珍しい武器として売れたけど、使った人はみんな倒れた。」


「だから正規の鍛冶屋は見つけ次第、全部回収して破棄してる。」


ガレスは腕を組む。


「そんな危ねぇもんが出回ってたのか。」


ヒロは頷く。


「問題はそこじゃない。」


「店主さんは、回収を続けるうちに出所を掴んでた。」


「地図まで貰ってきたよ。」


そう言って胸ポケットから一枚の地図を取り出し、ガレスの前へ広げた。


その時だった。


ガレスの隣へ、誰かがどかっと腰を下ろした。


「よりにもよって、一番危ねぇ場所を見つけやがって。」


低い声。


ガレスは飛び上がる。


「うぉっ!」


「全く気配がしなかった!」


振り向いて目を丸くする。


「ヘラクレス!」


男は机を叩いた。


「ゼノスだっつってんだろ!!」


「文字数増やしてんじゃねぇよ!」


ヒロは苦笑しながら顔を上げる。


「もう大丈夫なの?」


「……あ。」


「えーっと……。」


ゼノスは期待するようにヒロを見る。


ヒロは少し考えてから口を開いた。


「……ゼノスさん?」


ゼノスは親指を立てる。


「そう、それだ。」


ヒロはほっと息をつく。


次の瞬間。


「……って言いてぇところだが!」


「なんで一瞬忘れてんだよ!!」


店中にゼノスのツッコミが響き、ガレスは腹を抱えて笑い転げた。


ヒロは感心したように笑った。


「すごい隠行だね。」


「さすがシーフ。」


ゼノスは眉を上げる。


「……なんで分かった?」


ヒロはあっさり答えた。


「会議の時、一番静かだったからね。」


「気配が薄かった。」


ガレスは何度も頷く。


「確かにな!」


「だから名前も覚えづらいのか!」


ゼノスは即座にツッコむ。


「そこは関係ねぇよ!!」


ガレスは腹を抱えて笑う。


ゼノスは呆れながらヒロへ向き直った。


「……それにしても。」


「強ぇなお前。」


ヒロは静かに首を横へ振る。


「いや。」


「あれはシーフの戦い方じゃなかった。」


「正面から斬り合うなんて、一番やっちゃいけない戦い方だよ。」


ゼノスは黙る。


ヒロは続ける。


「本来なら、姿を消して。」


「死角を取り続けて。」


「一撃で仕留める。」


「そういう戦い方のはず。」


ヒロはゼノスを見る。


「僕の挑発に乗った時点で。」


「君の負けだったね。」


ゼノスは苦笑して頭をかいた。


「……図星だ。」


ヒロは地図を畳み、ゼノスを見る。


「それで?」


「僕らをつけ回して、この地図を見た瞬間に話しかけてきた理由を教えてよ。」


ゼノスは一瞬だけ目を丸くした。


「……。」


すぐにいつもの表情へ戻る。


「俺が追ってる奴と、同じだからだ。」


ヒロは黙って続きを促す。


ゼノスは酒を一口飲み、静かに言った。


「止めに来た。」


ガレスは鼻で笑う。


「俺らなら問題ねぇよ。」


ゼノスは首を横に振る。


「まあ聞け。」


「武器まで辿り着いたのは褒めてやる。」


「だが、その先まで考えてねぇな。」


ヒロは口元を少しだけ緩める。


「いや。」


「だいたい想像はつくよ。」


ゼノスの眉が動く。


ヒロは指を一本立てた。


「武器に奇跡を付与できるってことは。」


「付与してる本人がいる。」


二本目の指を立てる。


「しかも、その本人は武器みたいに命を削るリスクはない。」


三本目。


「さらに。」


「相手によって、どんな奇跡を使ってくるか分からない。」


ヒロはゼノスを真っ直ぐ見据える。


「……違う?」


ゼノスはしばらく無言だった。


ゼノスは懐から一冊の資料を取り出した。


机の上へ静かに置く。


「今まで出回った武器。」


「付与されていた奇跡の特徴を全部まとめた。」


ヒロは資料をめくる。


一枚。


二枚。


三枚。


ページをめくるたびに表情が険しくなる。


ゼノスは静かに言った。


「最低でも……十二人。」


「武器へ奇跡を付与できるやつがいる。」


ガレスは息を呑む。


ヒロは顔を上げた。


「なんで会議で話さなかったの?」


「強い人、いっぱいいたのに。」


ゼノスは少しだけ俯く。


「……死んでほしくなかったからだ。」


一拍置く。


「誰にも。」


その場が静まり返る。


ガレスはようやくゼノスの言葉の重さを理解した。


「……そんなに強ぇのか?」


ゼノスは黙ったまま頷く。


それだけで、答えは十分だった。


ヒロは静かに資料を閉じた。


「……案内してよ。」


「ゼノスの恋人のところに。」


ゼノスの表情が固まる。


「……なんで、それを……!」


ヒロは落ち着いたまま答えた。


「そんなに危険だって分かってるのに、それでも一人で戦おうとしてる。」


「命を懸けても守りたい誰かがいる。」


「そう思っただけ。」


ゼノスはしばらく黙っていた。


やがて、参ったというように頭を掻く。


「……俺のパーティーメンバーだ。」


「奴らとの戦闘中、奇跡を食らっちまった。」


ゼノスは拳を握り締める。


「たった一撃。」


「ほんのかすり傷だった。」


「それなのに……。」


言葉が詰まる。


「傷が塞がらねぇ。」


「今は輸血を続けて、なんとか生きてるだけだ。」


酒場から音が消えた。


ガレスは何も言えない。


ヒロも黙ったまま俯く。


重たい空気だけが、三人の間に流れていた。








病室の外。


ヒロとガレスは静かに壁にもたれていた。


病室の中では、ゼノスが目を覚ました恋人の手を強く握っている。


「……よかった。」


震える声が、扉越しに聞こえてきた。


ヒロは小さく微笑む。


「行こう、ガレス。」


「邪魔しちゃ悪い。」


ガレスも静かに頷く。


「……おう。」


二人は病院を後にした。


病院の外へ出る。


しばらく歩いた、その時だった。


「待ってくれ!」


背後から声が響く。


二人が振り返る。


そこには息を切らしたゼノスが立っていた。


ゼノスはヒロの前まで来ると、何も言わず深く頭を下げる。


「……この恩は忘れねぇ。」


「それと。」


「さっき見せてもらった、あの技。」


「墓場まで持っていく。」


ヒロは照れくさそうに笑った。


「よろしく。」


軽く手を上げる。


ゼノスも小さく笑い返した。


「ああ。」


二人は再び歩き出す。


背中越しに、ゼノスはもう一度だけ頭を下げていた。



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